二人の王子

シロと赤の騎士達が町を歩いていると、路地から何かブツブツ言いながら、門番の少年が出てきた。


「風呂は嫌い。風呂は嫌い。風呂は嫌い。」と言っているようだった。


風呂屋に行き、ずいぶんと小ぎれいになっていたため、最初誰だか分からないくらいだった。


「ん?クロウか、お前、クロ達と一緒ではなかったのか?」少年の名はクロウと言った。


「薬草屋に行ったら、風呂屋に行けって言われたんだ。」


砂にまみれて煤けたようになっていた顔は、洗われて目鼻立ちがハッキリとしたように感じられた。


何よりボサボサだった髪の毛がクロ王子のようにサラサラになっていた。


「お前、髪の毛サラサラなんだな!」シロはわざとらしく驚嘆した。


クロウの顔は砂漠の町の少年らしく日に焼けていたが、よく見ると髪の毛だけでなく、顔も端整でありクロ王子に少し似ているように思われた。


「それより騎士さん、その ' ウマ ' 少し故障しているよ。」クロウもシロと同じことを言った。


「高速移動したとき、移動先位置が、N方向に0.005p、W方向に0.001pくらいズレてると思うよ。こないだ剣を突き付けられたとき、もう少しで切られるところだったよ。」


クロウは背伸びして ' ウマ ' の頭を撫でながら言った。



***



そしてその頃、クロ王子達は薬草屋の中にいた。


薬草屋の中には小さな引き出しのついた棚がたくさん並んでいた。薬草はきちんと種類別に棚に整理されているのだろう。


「花粉症と言っても原因となる花が何なのか分からんからな。」と薬草屋の少女が言った。


「でもまあ、その"くしゃみ"だけでもなんとかなるだろ。」と言って、棚の引き出しの中からいくつかの薬草や木の実を取り出し、すり鉢で擦り始めた。


「あの子とは仲悪いの?」


「あの子?クロウのことか、別に仲悪いわけじゃないよ。幼馴染だ。あいつは両親がいないから、この町にいる博士に育てられたんだ。その博士がね、植物が専門でね、薬草屋としてはいろいろと博士に教えてもらうことがあってな。それで昔からの幼馴染というわけだ。」と少女は言った。


「幼馴染か、いいなあ、僕には幼馴染なんていないから。」


クロは本当に羨ましそうにそう言った。



≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。

・ニジュウヨジ ・・・ オアシスにいたカモノハシ。アオの能力により少女の姿になっている。

・クロウ ・・・ 門番の少年。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


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