《チンピラ探し》
「あのチンピラ達に直接聞きましょう!」
俺がそう言うと二人は驚いて固まってしまう。しばらくの沈黙の後、
「一体、君は何を言っているんだ?奴等に聞くってどういう事だ?」
いち早く正気に戻ったダントさんが聞いてきた。
「あのチンピラに聞けば話は早いと思いますよ?」
脅しに来ているのはアイツ等だ。なら、直接乗り込んだ方が早い。
俺がそう言うとダントさんは、
「奴等が素直に話すわけがない。それに乗り込んだら危険があるかも知れない。君には悪いが、獣人族の君に力があるとも思えない。」
ダントさんは俺の提案に渋い顔でそう言うとアンナの方を見る。
「アンナはどう思う?彼の提案に乗った方が良いと思うか?」
彼からすれば俺は弱い獣人族だ。俺の事を信じられないのは仕方ない。
「私はケントなら大丈夫だと思うわ。彼はサイクロプスを一撃で倒せる程強いからチンピラ相手に危険はないわよ。」
アンナがそう言うと、ダントさんは驚いて俺の方を見る。
「サイクロプスを一撃で?助けられたとは聞いたが魔物に襲われてた所を助けられたのか?」
俺の方を見た後、アンナに驚きながら聞いている。
「ええ。とにかく、そう言うことだからケントに力を借りましょう?私とケントで話を聞いて来るから任せて!」
アンナがそう言うと、ダントさんも信じたのか俺に任せてくれる気になったようだ。
「わかった。二人に任せてみよう!ケント君、よろしく頼む。アンナと二人で調べてくきてくれ。」
そう言って頭を下げて頼み込んでくるダントさん。どうやらアンナと二人で行くことになるようだ。
「はい。任せて下さい。必ず話を聞いて来ますよ!」
俺はダントさんにそう言ってアンナと二人で孤児院を出た。
孤児院を出てスラムの方に歩いているとアンナが話しかけてくる。
「それで?どうやってアイツら探すの?」
そう聞かれて少し考える。手当たり次第チンピラを捕まえれば見つかると思うけど、そんな事をしたら目立ちすぎるしな。
誰かに聞ければ早いんだけど知り合いなんていないしな。
「とりあえず、スラムに行くなら獣人の姿だと舐められるだけだし姿を変えるとするかな。アンナの姿も変えるぞ。」
俺はそう言って自分の姿をチンピラ風の男に。アンナをその連れに見える女の姿に変えた。
「え?何この姿?何で私の姿まで変える必要あるの?」
見た目が変わった自分の姿を近くの池の反射で確認するアンナ。
「そりゃ、普段の姿のまま行ったらアンナの事を知ってれば孤児院の関係者ってバレるだろ。万が一、失敗した時に孤児院に危害が行かないようにしないと。」
俺がそう言うとアンナは納得したようだ。
「確かに、ダントさん達が危ない目に遇うのは困るわね。それに今の姿ならスラムの住人に聞き込みしやすいわね。」
確かに。今の俺達の姿ならスラムに行ってもチンピラにしか見えないから周囲に違和感なく溶け込めるはずだし、住人への聞き込みも出来るはず。
「じゃあ、スラムに行ったらアイツ等の事を探しながら聞き込みしよう。アンナもビビらないで住人に聞き込みしろよ?」
俺が笑いながらそう言うとアンナは心外だとばかりに文句を言う。
「別にビビらないわよ。魔物に比べれば全然平気だから!」
不貞腐れながらそんな事を言うアンナだが何か頼りないんだよな。
そんな事をやり取りしながら歩いていた俺達はスラムに着いた。周りを見渡してみるが探してるチンピラらしき奴等はいない。
「とりあえず、アンナは住人にスラム街にいるチンピラ達について聞いてみてくれ。俺は辺りにいるチンピラに話しかけてみるから」
そう言って俺達は二手に別れて聞き込みを開始した。
俺は近くにいた三人のチンピラ達に話しかけてみる。
「なあ、少し聞きたいことがあるんだけど」
俺が話しかけると三人は俺を見てから別の方を見て何かを話した後に去って行ってしまった。
同じように周囲のチンピラに声をかけるも似たような反応で立ち去ってしまう。
「なんで話しも聞かないんだよ。」
俺が聞き込みの失敗にショックを受けているとアンナが戻ってくる。
「ケント。そっちの方はどうだった?アイツ等のこと何か分かった?」
そう聞いてくるアンナだが俺の様子から駄目だったと分かったようで自分の聞き込みの結果だけ話してくれる。
「こっちも全然駄目。分かったのはスラム街を仕切っている人がいるって事とチンピラ達は皆その人の部下だって事は分かったけど何処にいるかまでは教えてくれなかったわ。」
アンナは落ち込んで話しているが、十分に聞き込みできてる。少なくとも仕切っている奴がいるって事が分かっただけでも成果はあったと思う。
「俺より十分成果出てるから大丈夫だよ。それより、仕切っている奴がいるなら目をつけられないようにしないとな。」
俺がアンナにそう話していると周囲に人の気配が複数ある事に気がついた。
人がいるから気配があるのは当然だけどコイツ等は俺達の様子を窺っているようだ。
「ちょっと、向こうの方に行こうぜ。」
俺はアンナの手を引いて人気のない方に向かっていく。
「え?な、なに?」
突然、手を引かれたアンナは何も気付いておらず困惑した声をあげるだけ。すると前方に一人の男が現れた。
「お前ら、スラム街に何のようだ?色々聞き込みしようとしてたけど何が目的だ?」
現れた男が話しかけてくる。特に敵意がある感じはしないけど油断は出来ない。少なくともアンナよりは強そうだ。周りからも男達が出てくる。
「俺が話しかけた奴等ばかりだな」
出てきた男達は俺が話しかけたのに立ち去った奴等だった。それぞれ武器を持っている。
「女の方がスラム街にいるチンピラ達について聞いてたのは知ってる。お前らが誰か知らないが敵なら容赦はしない。」
そう言って俺を真っ直ぐ見てくる男。別に敵対する気は今はないんだけどな。
「別に敵対する気はない。ただ人を探してるだけだ。スラム街にいるって聞いたから探してる。」
俺がそう言うと、男はこちらを警戒しながらも周りの男達に武器を下ろすように言う。すると、何処からか別の男が走って来て俺と話している男に何かを耳打ちする。
「なに?本当にそう言われたのか?」
耳打ちされた男は何かに驚いているが伝えに来た男が頷くと俺達の方を見て、
「悪いが、今から俺達のボスに会ってもらう。大人しくついて来てくれると嬉しいんだが。別に危害を加えるつもりは無いから安心しろ。」
俺達を警戒しながら、そう言ってきた。どうやら簡単には帰してくれなさそうだな。
俺はアンナの様子を確認する。落ち着いてるし問題なさそうだ。
俺と目が会うとアンナは頷いている。どうやら考えは同じようだ。
「わかった、おとなしく着いて行こう。ただし危害を加えるつもりなら後悔する事になるぞ。」
俺は着いて行く事を告げながら軽く殺気を飛ばす。
「あ、ああ。危害を加えるつもりは全くない。」
俺の殺気を受けた男は落ち着いているが手をあげて敵意がない事をアピールする。
「わかった。なら早いとこボスとやらのいる場所に案内してくれ。俺達の探してる奴等がいるかもしれないしな。」
俺がそう言うと男は頷いて歩き出し、俺とアンナは後ろを大人しく着いて行った。
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