《一緒に来ますか?》

次の日の朝、目が覚めた俺はアンナさんの部屋に向かう。昨日は話すことさえ出来なかった。彼女の部屋の前に立ちドアをノックして部屋に入ると、


「お、おはよう。えっと、私の名前は鈴木杏南すずきあんなです。私も同じ日本人だから。よ、よろしくね?」


そう挨拶された。地球の人間なのは分かっていた、でも最初に出会った人間が日本人だとは思わなかった。


「それと、昨日はごめんなさい。急だったもんだから気持ちが追いつかなくて。いきなり地球の事を聞いてくるんだもん。驚いたわ。しかも同じ日本人に会えるなんて。」


少し泣きそうになりながら話を続ける、鈴木杏南すずきあんな。俺は黙って彼女の話を聞く。


「1年前に他の世界の人になら会えたけど、その人はすぐに死んでしまったし、私は街にいると危ないかもしれないから街を出たんだけどね。」


確かに、その話は聞いてる。確か魔人族の人なんだよな?


「俺も、その話は聞いてます。確か魔人族の人ですよね?貴族に殺されたって当時、ガルンの街にいた人が言ってました。馬車の前に飛び出したんですよね?」


貴族か。俺はまだ会ってないな。まあ、会いたいとは思わないけど!


「ええ。丁度、ここ世界に来たばかりの男性で、話をしてたら急に走り出して馬車の前に飛び出してしまったの。止める暇もなかったわ。」


詳しく聞いて見ると彼女の前で首を切り落とされたとの事。しかも、彼女は一緒にいたことで貴族の護衛の騎士に追いかけられて、世話になっていた孤児院には戻らず街を出てきたらしい。


俺はまだ人の死は見ていない。普通、日本人がそんな場面に出くわしたら正気でいられるか分からない。彼女は頑張っていると思う。


でも、彼女はまだ全部を話してない気がする。


「何でその男性は急に走り出したんですか?」


俺がそう聞くと、


「剣斗君だったよね?君はいつからアルティミアにいる?地球に戻れなくなったのはいつ?」


そう質問してきた。


「俺が夢を見始めたのは、地球の時間で戻れなくなる1ヶ月前。帰れなくなってからは、1年ですね。」


俺がそう答えると彼女は表情を暗くして、


「そう。私はもう2年以上アルティミアにいるの。その事を男性に話したら、急に高笑いを始めておかしくなったの。この状況はただの夢に決まってるって。」


2年以上もいるのか。地球の時間で、約40日以上前。確かに目が覚めなくなった人が出始めたのがその頃だ。俺はまだ1年だが2年以上ってことは、最初の方は知らなかったって事だよな?これが現実だって。


「そうなんですか。でも、それなら生きていて良かったです。もしかしたら死んでた可能性もあるんですから。」


俺がそう言うと彼女も、


「ありがとう。そうよね。もし街の外に出てたらって思うと正直怖いわね。」


そう言って苦笑いを浮かべた。


「それで、剣斗君は何で私の事を探してたの?」


そう質問してくる鈴木杏南さん。確かに俺は彼女を探してた。


「はい。俺が探してたのは転移者か確認する為とある女性の事を聞きたかったからです。」


俺はそう言って姫華姉さんの事を説明した。


「ごめんなさい。聞いたことはないわね。そもそも、私が会ったのは剣斗君で2人目だし。」


まあ、そうだよな。そう簡単に見つかるとは思ってない。


「そうですか。ありがとうございます。」


俺がそう言うと、


「剣斗君はその人を探すためにすぐに街を出ていくの?」


そう言って聞いてくる。表情は不安そうだ。確かに、せっかく会えた俺がいなくなったら彼女はまた1人になる。だけど、俺はこの街に残るつもりはない。


「すみません。元々、そのつもりでしたので。お世話になった人に挨拶だけしたら出ていきます。」


「そう。」


俺がそう言うと一言だけ返事をして下を向いてしまう。正直、俺も初めて出会った日本人と別れるのは寂しい。でも、やっぱり俺の目的は姫華姉さんを探し出す事だ。それは変えられない!なら、


「俺と一緒に来ますか?」


「え?」


俺がそう言うと彼女は驚いて顔をあげる。


「いいの?でも、ついて行ったら足手纏いになるかもしれないわよ?私はレベルも低いし。」


一瞬、顔に喜色が浮かぶがすぐに暗くなってしまった。確かに、レベルが低いと苦労はするかもしれない。でも、それならレベルをあげれば良いだけだ。


「ええ。一緒に行きましょう。レベルが低いなら、先にレベルをあげてから行きましょう!そうすれば大丈夫です。」


俺がそう言うと今度こそ表情を明るくして、


「あ、ありがとう!本当に良いのね?今さらやっぱり駄目とか言われたら泣くわよ私!」


そう言って詰め寄ってくる。近い。彼女は結構美人だ。姫華姉さん達と一緒にいたから綺麗な人や可愛い人には耐性がある。でも、耐性があるだけで恥ずかしくないわけじゃない!美人に迫られたら少し恥ずかしい。 


「ご、ごめん!」


そう言って近すぎたことを謝り恥ずかしそうに下がる彼女に質問をしてみる。


「ところで、杏南さんはアルティアからどんな力を貰ったんですか?」


俺がそう聞くと、


「私は回復魔法を使えるようにしてもらったわ!剣斗君は?」


そう聞いてきたので、


「剣と魔法を使えるようにしてもらいました。後、サポーターと鑑定も貰いました!」


そう俺が少し興奮気味に言うと、


「は?」


と戸惑い気味に返された。


「えっと、どういう事?」


そう聞いてきたので、全部を説明した。魔法が呪文さえ知ってれば何でも使えること。俺をサポートしてくれるサポーターのこと。そして、ランクまでわかる鑑定のこと。全部を説明した!すると、


「ず、ずるい!何それ。ってか、あの状況で、そんなに沢山の事を望んだの?その方が感心するわ。」


嫉妬と呆れが混ざった視線でそう言ってきた。


「い、いや。折角、剣と魔法がある世界に来たんですよ?使いたいと思いませんか?それにサポーターに関しては絶対必要でしたので。砂漠を抜けるのに。」


俺がそう言うと、


「砂漠って?」


そう聞いてきた。なので俺は遊戯神のせいで砂漠に半年もいたこと、そして街に来る迄に1年程かかった事を教えた。すると、


「そ、そう。ハズレ、って酷いわね。そんな可能性があるなんて。良く生きてたね?普通なら死んでるよね?それ。」


そう言って同情してくれた。


それからは色んな話をした。地球の家族の事。冒険者になった理由。一番驚いたのは、


「杏南さんが一番最初だったんですか?」


彼女が最初の被害者だったこと。眠ったまま目が覚めなくなった1人目


「ええ。家族の事を考えると正直、今でも腹が立つわ。特に罪悪感とか何も感じてない所が!」


そう言って怒っていた。俺が


「神様ですからね。人間とは違うって事で納得するしかないですよ!」


そう言うと、彼女も分かっているのか頷いている。


「あ、そう言えば杏南さんて今何歳なんですか?」


俺は教えたけど彼女が何歳なのかは聞いてなかった。


「私?19歳よ。」


そう教えてくれた。19歳って事は大学生か?俺がそう思って、


「じゃあ、今、大学生なんですか?」


と聞くと、


「え?違うけど?」


そう返ってきた。じゃあ、社会人か。そう思っていたら、


「私は高校生よ?この世界に来てから2回程誕生日を迎えたから今じゃ19歳だけど。」


と、言われた。え?どういう事?


「え?2回程誕生日を迎えたからってどういう事ですか?今19歳なんですよね?」


俺がそう言うと、


「え?ええ。19歳よ。地球ならだけどね。」


と、そう言った。え?何?じゃあ、この世界で過ごした年数も歳に数えてんの?


「この世界で過ごした年数も歳に数えてんですか?」


俺がそう聞くと、


「え?当たり前でしょ?もしかして数えてなかったの?だって数えなきゃ、戻れなければ何年間も17歳って名乗ることになるのよ?おかしいでしょ?永遠の17歳とか言ってるアイドルじゃあるまいし。」


そう言って呆れている。確かに、そうだ。名乗ったのが街に着いてからだったから気付かなかった!じゃあ今、俺は18歳か!


「え?じゃあケント君って今、地球なら高校2年生って事?」


そう言って戸惑い気味に杏南さんが聞いてくる。


「え、ええ。って事は杏南さんも高校2年って事ですよね?」


俺も戸惑い気味にそう返すと、


「そ、そうよ!」


そう言って止まってしまった。数秒の沈黙。


「じゃ、じゃあ同い年なら俺の事はケントでいいですよ!」


俺が若干どもりながら言うと


「そ、そう。なら私もアンナでいいわ。そ、それと同い年なら敬語じゃなくていいわ。」


そう言ってくれる。


「わ、わかった。あ、改めてよろしく!」


俺がそう言って手を差し出すと、


「え、ええ。こちらこそよろしく!」


そう言って握手をした。

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