とある双子達
悠紀
第1話 双子組
ぱちり、と突然目が覚めた。
時計を見れば、1時を少しすぎたぐらい。今日は仕事を頑張って疲れたから、よく眠れていたはずだったのに。その証拠に、いつもなら見る夢を見なかった。
でも、私の目が覚めたんだから彼も起きているだろう。謎の確信を持ってキッチンへ向かった。
きっと彼はそこにいる。
誰もいない廊下を1人で歩く。深夜なので、城の灯りは消されていた。どうせ起きているであろう警備隊に連絡して、灯りくらいつけてもらえば良かったかもしれない。
別に魔法でどうとでもなるのだけれど、さすがに眠いので暴発しないように気をつけなければ。
無駄に長い廊下をダラダラと進む。
階段もある事だし、飛んだ方が早いかもしれない。そう思い、自身に浮遊魔法をかける。適当に羽を出した方が楽だけど、こんな所で飛び回っては何かしら壊す自信があったのでやめた。
そのままふわふわと飛んでいくと、キッチンには灯りがついていた。豪華すぎても使いにくいからとワガママを言って作ってもらった、私達用の少し小さめのキッチン。
やっぱり、彼も起きている。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。彼は甘いものが嫌いだから、他にも誰か起きているようだ。
魔法を解いて、開けっぱなしだった扉からひょこりとなかを覗き込む。そこには案の定起きていた彼の他に2人、私の大好きな人達がいた。
「...私だけ仲間はずれ?」
まぁそんなわけないか、とからかうように笑いながら入っていく。
「あ、やっぱりユメも起きたんだね」
「まあサクヤが起きたんだしな」
甘い香りの正体は、ライキの飲んでいたココアだった。
私とサクヤは双子で、フウキとライキも双子。そして私達4人は“表面上”四つ子という事にしていても違和感がないくらいには仲が良いから、行動がシンクロするのはよくある事だ。まあ何故かはわからないけど。
フウキの隣に座り、ゆるりと力をぬく。誰にも気を使わなくていいのでとても落ち着く。
喉が渇いたので、フウキのコーヒーを勝手に少し飲んだ。本当はライキのココアがよかったのだけれど、ホットだから私には飲めない。
「.........にがい」
「勝手に飲んでそれかよオイ」
「僕のココアのむ?」
「...ありがとライキ。でもいいや、いれてくる」
部屋に入った時からずっと立っている彼の隣に並び、カップを手にとる。その中に粉末状のインスタントココアを入れ、彼のカップの隣に置いた。いつも思うけど、この豪華な城でインスタントココアというのはどうなんだろう。まぁ買ってくるのは自分だけれど。
隣の彼が何か言いたそうな目をしているけど無視だ無視。こうすれば自分のついでに、私の分までお湯を入れてくれるだろう。
彼なら私の好みを知っているし任せておこう、そう思い冷蔵庫に向かう。
「確かここに...っと、あったあった」
少し前に作ったクッキー、仕事が行き詰ったときの気分転換だったからシンプルで、ヘルシーなものにしたはずだ。深夜でも大丈夫だろう...たぶん。
「あれ、クッキーなんてあったんだ」
「うん。この前作ったの」
「太r...」
「フウキは食べないんだね」
「ごめんなさいユメ様。オレも食べたい」
くすくす笑いながら会話する、我ながら酷い茶番だ。
「...俺の分も残しておけよ」
カップを私の前に置いて、またシンクに帰っていく彼。たぶん洗い物だろう。
うん、やっぱり丁度いい温度にしてくれてる。
「ありがと〜はい、口開けて」
もう一度隣に並び、彼の口にクッキーを放り込む。もぐもぐと頬張る姿に鳥の餌付けを思い出すが、そんな事を言ったらこの彼の緩んだ表情が全力で歪むだろうから心の中に留めておく。
ようやく彼も席につき、4人でグダグダと話す。話すのは楽しいからいいが、彼らと喋っていると眠気がこないから眠るのは当分先になりそうだ。
私達は明日起きられるんだろうか、この中で朝に強いのはライキぐらいだけども。
結構な時間が流れ、皆そろそろ明日...というより今日の仕事に危機感を覚えてるはいるのだが、会話は止められない。最近生活リズムが狂ってちゃんと覚醒している状態で集まったのは割と久しぶりなのだ。いつも、誰かは半分寝ていた。
もう少し、もう少しだけと思ってからどれくらいたっただろう。
と、その時廊下を歩く音が聞きえてきた。誰だろう、こんな時間に。みんな気づいているようだ。
「...キトとヒバナさん」
なんの前触れもなくフウキの口から紡がれた言葉。でも私たちにはそれだけで十分伝わる。
「ん〜兄さんとエン!」
「じゃあ僕はカレンとエン」
「...兄貴とカレン」
誰のの足音か当てるシンプルなゲーム。勝った人は面倒な仕事を押し付けることができる、私達の中でよくやる遊び。
ただ、人間観察の得意なフウキか私が勝つことが圧倒的に多いのだけれど。
正直、こんな時間まで起きていて仕事をやりきれる自信が無いので皆ドキドキしながら足音の主達が入ってくるのを待つ。私達4人でこんなに緊張感のある空間になるのは久しぶりだ、もっと違う場面で活用したい。
私達の視線を一心に受けながら入ってきたのは___
「なんだ、お前ら起きてたのか」
「え、ヒスイさん!?」
「でも兄貴もいる...勝負、どうするんだ?」
「ていうかなんでヒスイさんが?」
「泊まりに来てたなら言ってくれればよかったのにー!」
「すまんすまん。朝言おうと思ってたんだよ」
「急に吹雪いてきたからな、帰らせるのも危ないだろう」
別に今更ヒスイさんが泊まりに来ていたぐらいで驚くのもアレだろうけど。賭けはどうしよう、皆同じことを考えていたようで、視線が交差した。
「お前達、もう遅いんだからいい加減部屋に戻れ」
そう兄さんに怒られてキッチンをあとにする。
ヒスイさんとも喋りたかったのに、なんて文句を言ったら2、3日泊まっていくからまた後でと追い返されてしまった。
「...で、どうしよっかぁ」
「んー...2対1で僕らの負けかな。フウ、いいよね?」
「あーこれチーム戦?別にいいぜー」
「あ、いいの?」
「ああ。ってかマジでヒスイさんは予想外だろ!ズルだー!!」
「五月蝿い叫ぶな馬鹿」
「あははっホントだねぇ、来てるの気づかなかったー!!」
「ユメもうるさいって...皆起きちゃうから」
いつも通りに話しながらゆっくりと部屋に戻る。今度は飛ばずに、少し後ろから彼らの背中を眺める。昔は同じような体格だったのに、今じゃ私よりずっと背が高くなってしまった彼らを見ていると、なんだか私だけ置いていかれているようで寂しくなってくる。
私は彼らの足を引っ張っているだけかもしれない。いざと言う時、足でまといになるのは確実に私だ。
「…ユメ」
暗い思考の渦に飲み込まれそうになっていた所で不意に名前を呼ばれ、前に向き直る。
「ん」
何を言うわけでもなく、彼が手を差し伸べてくれた。気づいた2人も足を止める。
たったそれだけの事がなんだか無性に嬉しくて、表情がゆるむ。
彼は昔からこちらの気持ちを知ってか知らずか、絶妙なタイミングで私の望むことをしてくれる。
私は、今選んだこの世界で、みんなと一緒に進みたい。その道の先にどんな苦しいことがあっても私達ならきっと大丈夫だ。
差し伸べられた手を取り、にぎり返す。
そう思わせてくれる彼らと一緒にいる方法は分かっている。強くなりたい、守られるだけのか弱いお姫様になんてなりたくない。隣に並んで戦えるようにならないと。
私は自分で...皆で運命を切り開いていくんだ。
でも、叶うのならあと少しだけ...どうかこの幸せができる限り長く続きますように。
今の現状に甘えているのは分かっていても、願わずにはいられなかった。
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