銀剣のステラナイツ関係SS

くろがね

【保護者神様+幼女】【百合?】ひめさまいるもん

ブリンガー/その土地を護る土地神。勇ましいお姫様『黒玻璃姫』

シース/見えちゃいけない物が見える系女児『硝子』


の日常の話。しいて言えば百合?保護者と子供の様な関係性。





硝子はぷんぷんと擬音が見えそうなほど怒っていた。

彼女が通う幼稚園は元が寺子屋だったらしい。

寺子屋―文字通り、寺社の近く―つまり、硝子の自宅の神社の近くにある、という事だ。


つまり、帰りの時間にでる幼稚園バスに乗らずとも、歩いても帰れる距離に彼女の自宅はある。

クラスの男子と喧嘩した勢いのまま、硝子はふんふんと鼻息も荒く、家に向かって歩き出した。


いきさつは概ねいつも通りだ。

「ひめさまいるもん!!」

「みえないもんがいるわけないだろ!」

「わたしにはみえるもん!」

クラスの男児とのそんな言い争いの中で、

「あさごはんのにんじんたべられなかったくせに!」

と、相手の男子の朝の風景を事を言い当てて、

「なんでしってんだよ!」

恥ずかしがった相手と取っ組み合いの喧嘩になったのだ。


「みえないものもちゃんといるもん!!」

うしろにあかいきもののおばあちゃんいるじゃない!

確かに後ろにいる者を言っただけなのに、聞いた子供たち、近くにいる保育士達はざっと後ずさった。


『寺の子だから?』『おかしいから?』『構ってほしいから?』

と、陰で言われているのは知っているが、それでも彼女は見ないふりをしたくないと考える。

後ろに見守ってくれている人がいるのに、それを無視するのは我慢ならないのだ。

そうしたら、自分をいつも見守ってくれている「ひめさま」をいないふりをして扱うのと同じ。そう思えてしまうからだ。


「ひめさま」は、硝子が物ごころが付くころにはすでに、今と変わらぬ姿で傍にいてくれていた。

綺麗な着物を纏って黒く美しい髪をした「ひめさま」は、硝子が彼女の祀られた社の近くにいけば必ず会えた。


硝子はある年の初雪が降った日、社のひさしの下にどこぞの大人が僅かな金額を忍ばせておいていった。

そんな子だった。

彼女を優しく取り上げ、社務所に届けたのが「ひめさま」で、以来引き取られて今に至る。


だから、彼女がまず帰ってくるのは自分が最初にいた社である。

いささか不機嫌なまま、勝手知ったる鎮守の森を歩く。

廃仏毀釈の難を逃れたこの地では、神社と隣接する鎮守の森に羅漢がぽつんぽつんとたたずんでいる。

面白い顔をするもの、怒李を表すもの。見慣れた彼らを通り越して、硝子は進む。

少し落ち着いて来たのか、その横を歩く足取りはゆったりとしてきていた。


硝子は通りかかった弁天池にポケットに詰めてきたせいですっかり割れてしまったエビせんを撒く。

ぽこぽこと空気を吐き出しながら、自分のオヤツに鯉が群がるのを満足そうに眺めてから、「貴きものこそ施す」そう言われたことを思い出し、硝子はうんうん、と頷いた。


短い石畳を歩くと、その先には少し開けた所にある社がみえる。

そこが目的地だったらしい。

社の古びた木の階段に、脱ぎ捨てた小さな靴は散らばった。

硝子は本来入る事は許されない社の扉を開け、ご神体の鏡の前で座り込む。

「ひめさまいるもん!!」

丸まってそういうと、不意にそっと頭に柔らかく暖かな感触を感じる。

「ああ、いるとも」

体育座りの硝子が顔を上げると、にっこりと微笑んだ「ひめさま」がいた。

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