ネタバレ警察の検閲のためこの先はかけません

ちびまるフォイ

ネタバレ警察はけして手を緩めない

「いやぁ、この映画おもしろかったなーー。

 あまり宣伝されてないみたいだし、この感動をみんなに届けよう!」


さっそくSNSを通じて映画の感想や俳優さんの演技や

シナリオの面白さなどを書いているときだった。


「いたぞ!! 確保!!」


「え、えええ!?」


「私はネタバレ警察だ!

 10月17日午前8時。ネタバレ現行犯で逮捕する!!」


そのままネタバレ警察に護送されて留置所へと向かった。

待っていたのは取調室とカツ丼。


「さて、お前のしでかしたことはわかっているな?」


「あの……ネタバレ警察って?」


「お前たちのような悪意を持ってネタバレをするような

 うんこ性格の悪い輩を取り締まる正義と秩序の代行者だ」


「悪意はなかったんですよ! ほら、見てください!

 内容には触れないようにしてるじゃないですか!」


「うるせぇ! 朝からカツ丼食わして胃にダメージ与えんぞ!!」

「横暴だ!」


「いいか、悪意があったかどうかなんてのはどうでもいんだ。

 逮捕して「悪気はなかった」といえばすべての罪が許されると言うなら

 この世に数学の微分積分は必要ない!!」


「お、俺はこの先どうなるんですか……?」


「どうやら貴様は初犯のようだし、おおめに見てやるとしよう。

 しかし、だ。今後は特に注意するように」


「はい……」


留置所を出てからもまるで開放された気がしなかった。

これまでネタバレにつながるような投稿は軒並み削除されている。


「これがネタバレ警察……」


家に戻ってからネタバレ禁止法についてしっかりと頭に叩き込んだ。


ネタバレ禁止法では作品に関してSNSで話題にすることはおろか、

会話の中でネタバレすることやレビューでネタバレすることも禁止されている。


どこまでがネタバレかというと、「見る前に内容がわかればネタバレ」とある。


「こんなのネタバレ警察のさじかげんじゃないか……」


しかしいち市民が国家権力に叶うわけもなく、

強いられた悪法にぶつくさ文句を言いながら家畜の安寧を享受するしか無い。


「でさーー、昨日のドラマが超感動だったの」

「ネタバレ逮捕!!」


「新しい小説を投稿しました! テーマはロボットとグルメです!」

「ネタバレ逮捕!!」


「気になる答えは……CMのあと!!」

「ネタバレ逮捕!!」


どんな大きなメディアもネタバレ禁止法の網から逃れることはできない。


禁止法が行われてからすぐは逮捕者が連続したが留置所が人でいっぱいになると

更生のためにネタバレ警察官として闇落ちさせて流用するようになった。


街からはいっさいのネタバレが淘汰され、中身を見るまでは、評価も内容もわからない。


「はぁ……」


「どうしたんですか店長。ため息なんかついちゃって」


バイト先の本屋さんでは店長が竜宮城から帰ってきたように老け込んでいた。


「ため息もつくよ。ネタバレ禁止法になってからますます本が売れなくてね。

 見てごらん。ネタバレになるからって本の表紙はすべて真っ黒で統一」


「まあ……映画も漫画も最近はまとめて"ガチャ"って言われてますね……」


「中身がわからないからドキドキはするだろうけど

 なんの道しるべもないと買う気にならないだろう?」


「俺にそんなこと言われても……。俺たちに何ができるんですか」


「君のような若人がそんなんでどうする!

 私が若い頃は学生運動を起こしたりして革命したものだ!

 今の若者ときたらなにかを悟ったように諦めてばかり! それでいいのか!」


「だったら店長が逆らってくださいよ!」

「私には家庭がある!」

「人任せな!」


店長にバイト代出さないと圧力をかけられたのもあり、

ネタバレ禁止法に関してデモ活動をはじめることになった。


「ね、ネタバレ禁止はんた~~い……」


モチベーションは低く始めた運動が思った以上に賛同者が集まっていった。

誰もが自分の感動した作品を話すことのできないフラストレーションが貯まっていた。


「「「 ネタバレを禁止することを、やめさせろーー!! 」」」


二重否定でなんだかわかりにくい主張になっているものの、

日に日に参加者はふえていつしか学校のうさぎ小屋を包囲するほどまで人が集まった。


これにはネタバレ警察も都市機能がマヒしかねないと重い腰を動かす。


けれど、それはデモ参加者の思ったような形ではなかった。


「おい、貴様らネタバレ予備軍ども!! そんな主張が通るわけ無いだろう!」


「なにを! こんな作品の前情報が禁じられた世界がまちがっている!」


「貴様らの心無いネタバレで犯人を知ったときのミステリーの台無し感がわかるか!

 間違い探しで赤丸つけられていたときのショックがわかるのか!!」


「私達は自由な発言を許してもらいたいだけだ!! ネタバレ禁止はマナーの一環だ!」


「すでに我々が統治せねばならないほど無法地帯になっているか問題なのだ!

 こんなデモが何度も続くと思うな!!」


ネタバレ警察が本気を出すと、デモの中心地にはネタバレロボコップが配備された。

ネタバレ禁止法はますます強化され、もはやあらゆる情報交換は違法とされてしまう。


街からは活気が消えて、お互いにコミュニケーションを取ることはできない。


少しでも噂を使用者なら他人の事情をネタバレしたとして

ロボコップがすっ飛んできてすぐさま射殺されてしまう。


「えーーみなさん、我々はネタバレ警察です。

 この街にはすでにネタバレロボが配備されています。

 無駄な抵抗はやめてデモの中心者は前に出てきなさい」


逃げることはできなかった。

デモ参加者の視線が自然と自分に注がれた。


ネタバレ警察が準備した火刑用のはりつけ十字架の前に出る。


「貴様がネタバレデモを始めた極悪人だな」


「はい……」


「貴様を処刑することでこのデモの集結とする。

 我々も無駄な血を流したくないのでな」


「……俺が死んだ後、この世界はどうなるんですか?」


「一切の情報交換ができない素晴らしき統治国家になるのだ。

 貴様らはけして情報を自分で知ることはなく、

 国家から届く情報だけにしたがってロボットのように金をかせぐのだ」


「ネタバレ警察も、ですか」


「当然だ。我々は国家の犬にして市民の規範。

 あらゆるネタバレをお互いに律し、誰もが崇拝する人間となるのだ」


「そうですか……」


おとなしく十字架に吊るされる前に最後に一言を言い残した。





「ところで、その会話はネタバレにならないんですか?」



まもなく、お互いに情報を共有できなくなったネタバレ警察は爆発して解体された。

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