12星座ヤンデレ 2 しし座~さそり座
@redbluegreen
第1話
タイトル:「私を見て」
星座:しし座
タイプ:自傷型ヤンデレ
「色々教えてあげる。私についてきて!」
私は、彼にとってお姉さん的存在だった。
勉強はいつも私の方が理解が早かったし、運動でも私の方が足が速く、ゲームでも圧倒的に私の腕前の方が上だった。
だからいつも彼は私に頼ってきて、そんな彼に私は、
「もう、仕方ないなー。世話が焼けるよまったく」
と、口ではそう言いつつ、しかし内心で彼に頼られるのが嬉しく、口元には笑みを浮かべるのが常だった。
彼から頼られる存在。
これからもずっと、それが続いていくのだと、私はそう思っていた。
それが当たり前だと、信じて疑わなかった。
「………え。別にいいって、どうして?」
テストが近付いてきたある日。
いつも赤点ギリギリの彼に、少しでもいい点を取ってもらうため勉強しようと誘ったら、そう返事が返ってきた。
今日は勉強する気がなかったのか、と私は思ったのだが、しかしそうではなかったようで、
「あ、別の人に、ね………ああ、あの人ね。あの人すっごい勉強できるもんね。確か、この前の模試で校内一番だったっけ………あ、ううん。別に。気にしないで。その人によろしく」
私はそう言って、彼の背中を見送るしかなかった。
私以外の人間に勉強を教えてもらう彼。
確かに、彼の言っていた人の方が頭がよく、私より教えがうまいかもしれない。
でも、
「いや、だな………」
と、呟いた私のセリフは、去っていった彼には届かなかった。
勉強がだめならと、運動を彼に教えようとした。
「あ、そっか」
私より足の速い陸上部の人に教えてもらうと彼は言った。
運動がだめならと、部活動で彼に教えようとした。
「まあ、そうだよね」
同じ部活動の先輩に教えてもらうと彼は言った。
部活動でだめならと、ゲームを彼に教えようとした。
「………あー、うん」
クラスメイトで廃人と呼ばれる友人に教えてもらうと彼は言った。
彼に何かを教える。
一昔前までごく簡単にやってきたことが、今ではこんなに難しいものに変わってしまっていた。
いつも『ねえ教えてよ』と私に頼ってきた彼は、今はもう、いないのだろうか。
ねえねえ。
ねえねえ、ねえねえ。
私はもう、必要ないの?
お姉ちゃんじゃ、もうないの?
「あ、えっと、その。ちょっと、気が付かなかっただけで………」
意気消沈の日々が続いてたさなか、私は教室で、彼から真剣な眼差しで怒られていた。
きっかけは、私が少し前にSNSでアップした写真が原因だった。
私は気付かなかったのだが、よく見るとその写真には微妙に私の下着が映りこんでいて、それを元に私は学校中の噂の種になってしまったのだった。
気を付けろとか不注意とか無用心とか、色々と、彼から注意される私。
注意しいている間、ずっと彼は私を見つめてくれていた。
とてもとても真面目な顔で。時折、心配そうな表情へところころと変えながら。
「ごめんなさい。次からは、気を付けるよ」
私は彼に謝りつつ、内心で、
『ああ、そっか』
と、あることに気がついた。
こんなに簡単なことだったんだと、つくづく自分の頭の悪さを痛感する。
彼から頼りにされなくとも、彼は私の事を見てくれるんだ、と。
それから私は毎日SNSに、際どい写真をUPし続けた。
最初はちょっとだけ際どい写真から、慣れてきた頃にはエッチなポーズの写真で、最終的に水着や下着などの裸同然の写真をネットに載せ続けた。
最初の何回かは彼はものすごい剣幕で私をしかりつけた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
しかしそれでもなお、載せ続ける私に、次第に彼は何も言わなくなっていってしまった。
『私の事を見て。私の言葉を聞いて』
という願いは、彼には届かない。
今度は、手首にカッターで傷をつけた。
日を追うごとに数を多くしながら、段々と、傷を大きくしながら。
一回一回とても痛かったが、それでも私は傷を付け続けた。
最初に傷を見た時、彼はそれはもう大層、私を心配してくれた。
何か悩み事があるかとか、何でも相談していいよとか、失恋でもしたのかとか、これまで聞いた事のないようなセリフを次々並べて私を慰めてくれた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
しかしそれでもなお、傷の数を増やし続ける私に、次第に彼は私を無視するようになった。
『私の事無視しないで。嫌いにならないで』
という望みは、彼には届かない。
次に私は、ドラッグへと手を出した。
市販薬の大量購入をはじめとし、次第にネットを経由して危険ドラッグや覚せい剤にもその手を伸ばした。
それら薬物を、私は彼の見ている前で堂々と口に押し入れ、飲み込んだ。
初めの何回か、彼がそれが何かわからなかったようだが、繰り返す内に理解したらしく、飲もうとする度に私の事を止めてくれた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
しかしそれでもなお、薬を飲み続けようとする私に、次第に彼は私から物理的に距離を置くようになった。
『私の側にいて。私の事、捨てないで』
という想いは、彼には届かない。
届かない。届かない。
届かなくなった。
「えー? そんなところで何しようとしてるかって? それは、ねえ?」
私は努めて明るい声を出し、彼に問いかける。
学校の屋上。フェンスの向こう側。屋上の縁に、片足を乗せながら。
フェンスの内側から、彼はこっちに戻れと再三繰り返し言っているが、私はそれには応じず、その場に立ち続けた。
『今、学校の屋上にいるんだ』
というメールを送ったら、ものの五分もしない内に駆けつけてくれた彼。
とっても優しい優しい彼。
私の大好きな彼。
その彼は今、とても心配そうな、とても真面目な、とても真剣な目で私を見てる。
見てる。見てくれている。
最近はちっとも見せてくれなかったその表情。
今日はまた、それが見られて良かった。
私が一歩、ここから前に踏み出せば、彼は次に、どんな表情をするのだろう。どんな表情で、私を見るのだろう。
わくわく、どきどき。
彼が私に何かを言ってくれている。私に向けての言葉は久しぶりだ。
嬉しい。どうしようもなく嬉しい。思わず顔がほころんでしまう。
私が空中に身を踊りだした時、彼のどんな声が、私に届くのだろう。
どきどき、わくわく。
彼が私の事を見てくれる。彼が私に声をかけてくれる。
私はこの瞬間、とってもとっても幸せだった。
これ以上なく、この上なく、最高潮の有頂天で、最高の笑顔で。
私は足を前に、踏み出した。
あれ、ここから落ちたら、どうなるんだっけ?
今更のように疑問に思ったが。
ま、いっか。
―――こうして私は死んだ。
何の奇跡も魔法も運命も訪れる事なく、当たり前のように命を落とした。
だが、あるいは奇跡や魔法や運命の導きか、私の願いは叶った。
『ずっと、彼に見続けて欲しい』
その願いは、飛び降りた瞬間、彼に見せた私の最高の笑顔で見事に成就した。
飛び切りの優しさを持つ彼は、目の前で死んだ自分の事が好きな女の子の顔を、ずっとずっと、忘れない。
ずーっと、覚えてる。
私の事を、覚えててくれる。
それは天にも召されるほどの、幸せだ。
タイトル:「絶対隷従彼女」
星座:おとめ座
タイプ:依存型ヤンデレ
「わんわん! わんわん!」
元気よく鳴いた声が部屋に響き渡る。
その鳴いた声の主である生物は、首にリード付きの首輪をはめ、全身はほぼ全裸の格好。そして四つん這いの姿勢で部屋の中を回っている。
「くぅーん。くぅーん………」
部屋の中で座る彼に対し、鳴き続ける四つん這いの生物。構って欲しいのか、どこか懇願するような鳴き声。
「わーん。わん」
四つん這いの生物は彼にすりより、甘えるように頭部を彼にこすり付ける。時折、舌を出して彼の体を舐める。
「わんわん」
それから一鳴きした後、疲れたのか頭を彼の膝の上に乗せ、フローリングに横になる四つん這いの生物。
そんな四つん這いの生物に、彼はチッ、と不機嫌に舌を鳴らすと、
「おい、酒買ってこい」
と、命令を下した。
「わん!」
返事をするように四つん這いの生物は声を発し、そして財布を取ると、扉を開き、外へと出て行った。
彼は閉まる扉を脇目で見つつ、あ、とある事に気付く。
あいつ、あんな格好で出て行きやがって。
外へと出て行った首にリード付きの首輪をはめたあられもない格好の生物、もとい、れっきとした一人の人間である女性に対し、チッ、と彼はもう一度不機嫌に舌打ちした。
変な女。
それが彼が彼女に抱いた最初の印象だった。
「あわ。あわわ。あわわわわわ。ま、待ってー!」
彼と彼女が出会ったきっかけは、町の中だった。
交差点のど真ん中で、書類をばら撒いてしまった彼女。
都会特有の空気感ゆえか、無関心に、無表情に、はたまた侮蔑の表情で他の人々が通り過ぎていく中、彼は気まぐれに、それを拾うのを手伝った。
「あ、あの。す、す、す、すみません。あ、ああ、あの。そそそその。ありがとう、ございます」
拾い集めた書類を渡そうとする彼に、お礼の言葉を口ごもりつつ、かつ、こちらをまっすぐ見ようとしない彼女。
それは決して彼女が礼儀知らずなのではなく、彼女の極端な男性恐怖症が理由だったことを、彼は後に知る。
その時はそれを知らない彼は、変な女だなと思いつつ、じゃあ、とそっけなく言い、背を向けて足早にその場を立ち去ろうとした。
が、しかし。
「あ、あ、あの………」
彼女に服の袖口を引っ張られたことで、遮られてしまう。仕方なく彼は首だけを彼女へとむき直す。
「そ、そそそ、その。で、でですね。え、ええっと………」
たどたどしく言葉を選び続ける彼女。そんな彼女を彼は至近距離から見て、結構な美人だな、とそう思った。
「ぜ、是非。な、何か、お礼をさせてください!」
なおもこちらを直視しようとはせず、しかしながらこちらを逃さんとばかりに強く握られる彼の服の袖。
なんか面倒くさそうな奴に捕まった。
彼は気まぐれを起こした自身の心を呪うが、しかし断る方が更なる面倒を引き起こすと考え、仕方なく首を縦に振るのだった。
お花畑な女。
それが、次に彼が彼女に抱いた印象だった。
二人が出会ってから数ヵ月後、彼と彼女は恋人関係と相成った。
まさに転がるようにあっという間の関係の進化だが、彼は特段、特別な何かをしたわけではない。
彼女の方から呼び出されるのに応じ、適当に話を合わせ、ありきたりな優しい言葉をいくつかしたが、普通の女性ならばその程度で彼になびくことはありえないだろう。
普通の女性ならば、だが。
しかし彼女は、少々普通からは外れていた。
元来の男性恐怖症からか、それまでの人生、あまり男性との関係をうまく築けなかった彼女。男性という生物は恐怖の対象でしかなかったが、彼にはどこか、別の男性とは違う何かを感じた。
その違う何かを持ってして彼と接したならば、それは当然、他の男性とは違う感情を抱くことになるだろう。
「他の男の人は苦手ですけど、貴方は他の人と全然違います」
という言葉が彼女から発せられるのも必然である。
彼女からのプロポーズに対し、特に断る理由もなかった彼は、それを承諾し、先に記した関係へといたる。
「私にできることがあれば、何でも言ってください」
付き合い始めてからというもの、彼女は彼にとって、非常に都合いい存在だった。
なにせ、食事を作りに来いと言えば高級料理店ばりの料理が並ぶ。
家の掃除をしろと言えば、部屋の中はおろか、玄関やキッチン、水道の配水管の中や換気扇、さらに彼の住むアパートの敷地の地面にいたるまでがピカピカに掃除される。
金を貸せといえば、現金ではなく通帳ごと彼に渡される。
まさに至れり尽くせり。
彼の言うことならすぐに実行する彼女。
時折彼を「王子様」などと呼称し、ぞっこんな彼女。
ろくに仕事をしていない彼にとって、彼女はそれはもうとてもとても便利な存在だった。
少々頭がお花畑感は否めなかったのだが、しかしそれを差し引いたところで、彼は彼女を手放す気にはなれなかった。
オカシイ女。
それが最近、彼が彼女に抱いている印象だった。
彼は完全に仕事をしなくなり、彼女に依存する生活へとシフトしていた。
それも仕方のないことだろう。
何せ、金をくれといれば何の文句も言わずに通帳を差し出す彼女がいるのだ。何もすることなく、ただ一言言うだけで金が入るのなら、汗水働くなどという効率の悪いことを彼はする気は無かった。
相変わらず彼女は彼にぞっこん状態。むしろ日に日に、その愛情は増してる感さえ彼にはあった。
そんな彼女の愛情に対し、彼はそれと同等の愛情を抱いてはいなかったものの、しかし飼い犬にエサをやらないほどの冷血漢でもない。
なのでたまにはエサをやろうと、彼はこんな事を口にした。
「ずっと俺の側にいろよ」
もちろんそれは彼自身の都合が大半に含まれて入るものの、しかし微妙に彼女のエサという意味合いも含まれた言葉。
そんな愛情のかけらもない言葉に彼女は、
「はい」
といつも通りの笑顔で答えると、スタスタと彼の元へと移動し、その横にストンと腰を下ろした。
エサが思い通りの結果を生んだことで、ほくそえむ彼。
そしてそのやり取りがあってから、彼女は文字通り彼の側に居続けるようになった。
部屋の中にいる時は必ず彼の横で腰を下ろし、
彼が出かける時は彼の腕を取ってついて行き、
風呂に入る時は一緒に入浴し、
トイレの時も狭い空間で二人共になり、
着替えの時も彼の横で行い、
夜寝る時は彼の横で添い寝する。
恋人同士であるならばままありそうなそれらに、最初は彼は何も気にせず、彼女の行動を眺めていた。
しかしそれが三日四日と続き、さすがに彼も違和感を覚えはじめ、
十日が過ぎた頃になってようやく、彼は疑問を覚えるのだった。
こいつは家に帰らないのかとか、なぜ仕事に行こうとしないのだろうかと。
彼女が彼に家に泊まることはそれなりにある事なのだが、しかし十日も家に帰らないということは今までになく、仕事にいたっては普通に考えて一週間以上も仕事がないということがあるのだろうか、と。
二週間以上が経過し、さすがにこれはおかしいぞと、彼はとうとう、彼女に仕事はどうしたんだと疑問をぶつけた。
「ああ、仕事でしたら、とっくのとうに辞めましたよ。だって、仕事に行けば、貴方の側にいられませんから」
対して返ってきたのは、すました顔をした彼女のそんな答え。
それに対して彼は、は? と更なる疑問を抱かずにはいられなかった。
そんな理由でこれまで続けてきた仕事をあっさりと辞める?
彼が言えたことではないだろうが、仕事を辞めるというのもそこまで簡単なものではないはずだった。金の問題だけでなく、仕事先の関係とか、色々とそういうもので。
だがそれを、そんな理由で、あっさりと辞める彼女。
この瞬間から、彼は彼女がどこかおかしな人間だと、そう思うようになったのだった。
―――バタン。バタバタバタバタ、ストン。
彼女は帰宅して彼の元へと近寄ると、口にくわえたビニールをその脇に置く。
「くぅーん。くんくん」
彼女はいまだなお犬の役を演じ、四つんばいで部屋の中をスタスタと歩き回っている。
そんな彼女を彼は蔑みの視線をもってして横目で見ていた。
彼は今日に至るまでに、様々な命令を彼女に下していた。
例えば、母親の形見であるという手帳を捨てろ、とか。
例えば、彼女が親友と謳っていた人物と絶縁しろ、とか。
例えば、実の姉に罵詈雑言を浴びせろ、とか。
それら命令に、彼女は完膚なきまで完全に、応じた。
形見の手帳はビリビリに破き、燃やして捨てた。
親友は携帯のアドレスを消去し該当人物の写っている写真を全て捨てた。
実の姉が訪ねてきた時、彼が思いも付かないひどい罵倒を彼女は吐き続け、挙句の果てに姉は「もうアンタなんか妹じゃない」とまで言っていた。
どんな彼の命令に対しても、忠実に実行する彼女。彼への隷属性は、区切るところがなかった。
今彼女が演じてる犬の真似にしても、それはけっして、彼の性癖等からでた命令ではない。
ひょっとすると、この命令には従わないかもしれない、という推測を持って、彼がしたものである。
「わんわん!」
がしかし、結果はご覧の通りの有様。嫌がるどころか嬉々として、その命令に従っていた。
犬のように鳴き、犬のように歩き、犬のような首輪を付ける。
首輪は彼女自らが用意したものだった。
彼は、自分が命令すれば、彼女はどんなことでも行うのではないかと考える。
生ゴミを食べろと言えばすぐに口に入れ。
そこから一歩も動くなと言えば、毒蛇に囲まれていたとしても微動だにせず。
誰かを殺せといえば、躊躇なく殺人を犯す。
彼にはその姿が容易に想像が付くのだった。
「わんわんわんわん」
彼は、そんな彼女の行動理念をおかしいと思うと同時に、気持ち悪く思った。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
嘔吐をしそうな気持ち悪さ。
早速封を開けたアルコール飲料が彼の口から少量こぼれる。
「ペロペロ、ペロペロ」
彼女は落ちたそれをなめる。けっして清潔とは言えないフローリングの床に落ちたそれを。
こんな人間とは早く別れたい。
彼の心の中にはそんな思いがあったが、しかし今なお彼女と一緒にいるのは、なまじ彼女が美しい美貌をしており、たとえ気持ち悪かろうと命令を何でも聞くというのは利用価値があるからだった。
だから捨てられない。別れられない。離れられない。
「わーん、わん!」
彼の中で彼女に対する気持ち悪さは溜まっていく一方である。いくら溜まろうと、それが減る事はまったくない。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「わんわん」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「わんわん、わん」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「わーん、わーん、わーん」
こんな彼女といてしまう自身が嫌になる。
こんな彼女といなければならない未来が嫌になる。
こんな彼女が嫌になるこんな彼女が嫌になるこんな彼女が嫌になる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「わん!」
彼の中で、何かが切れる音がした。
「あー、もううるさいうるさいっ! そうやって鳴くのやめろ! つーか今すぐ消えろ! 死ね! 死んじまえよっ!」
「…………………………」
彼女は鳴くをやめ、それからすたすたと、キッチンの方へと歩いてく。そして、
「はい。喜んで」
おもむろに側にある包丁を手に取ると、なんの躊躇いも戸惑いも逡巡も一瞬の間も刹那もなく、実に喜びに満ち溢れた表情で、自らの喉にそれを、彼女は突き刺した。
タイトル:「害虫駆除」
星座:てんびん座
タイプ:排除型ヤンデレ
「……………(ガラガラ)あら、ごきげんよう。
え、私? ついさっきまで図書室で自習を少々。それで帰ろうと思いましたら、生徒会室に入っていく貴方が見えたものですから。何事かと気になりまして。
………生徒会の仕事のお手伝い、ですか? にしてはずいぶんと、ごくつろぎなさっているようですけれど? お茶を飲み、お菓子を食べるのが仕事なのですか?
ああ、なるほど。その仕事が終った後、生徒会長にお誘いを受けて、ですか。
ごきげんよう。生徒会長さん。
他の役員の方は………へぇ、もう既に帰られた後。
生徒会長さんと二人きり、ずいぶんと楽しそうで。私、お邪魔でしたか?
ふふ。そう言ってもらえるとありがたいですわ。
………ん、ああ。貴方はちょうど帰るところだったんですのね。
ええ、さようなら。それではまた明日。ごきげんよう。
……………(ガラガラ、バタン)
ん、私は帰らないのかって?
ええ、ちょっと。貴方にお話がありまして。生徒会長さん。
いえいえ。そんな大層な話ではありませんわ。少々貴方にお尋ねしたい事が。
―――貴方一体、どういうつもりなんですの?
あら、きちんと言わなければならない愚鈍ですか。せめて、猿並の頭のできがあると思っていたのですが。
彼に対しての態度、振る舞い。それが一体どういうつもりかとお尋ねしたんですよ。お猿さん。
将来、私の主人となっていただくあの方に、これ以上、こびへつらう売春婦のような真似は控えていただけませんこと? あの方に悪影響があったらいったいどうなさるおつもりですか。
主人? ええ、文字通りの意味で、主人ですよ。私の主人。そのくらいの理解力はあって助かりますわ。お猿さん。いえ、生徒会長さん。
彼と恋人関係でもないのにどうして、ですか?
一々うるさいお猿さんですこと。今、質問をしているのは私です。まったく、質問に質問を返すなど、礼節をわきまえないところが本当にお猿さんですわね。いっそのこと改名したらどうですか?
………へぇ、あの方に好意を持っているから、ですか。やっとのこと、質問答えていただきましたわね。
―――それで? それが一体どうしたのです?
貴方のような、そこら辺の路傍の石となんら変わらない貴方が、あの方と釣り合いが取れるとお思いで?
ふふ。実に面白い冗談ですわ。サーカスのピエロよりかは、楽しめる冗談ですこと。
………冗談ではない? では、どのようなところがあの方と釣り合うのか、言ってみて欲しいものですわ。
全国模試でトップクラスに入る勉学の実力?
ふふ。参考書の丸暗記するだけで得られるものなど、何の価値もありませんわ。烏合の衆で一番になったところで、烏合は烏合に変わりませんもの。
本当の勉学とは、自分自身のために行うためのものです。将来のビジョンを正確に思い描き、そのビジョンに沿って真に必要な知識を十二分に蓄える。
自分にとって何が必要になるのか、それすらわからない愚か者には、烏合の衆でのトップに、せいぜいはしゃいでいるといいですわ。
生徒会長という役職?
せいぜい進学上有利になるための内申点稼ぎの行為に、どうしてそこまで誇らしげなのか、まったく意味がわかりませんわね。
この学校をよりよくするため? ふふっ。はなはだ疑問でしかありませんね。
貴方は知っているのですか?
一年のクラスで蔓延している集団的ないじめ行為。ただ前年の繰り返しだけを行い、向上心のまったくない教師陣。校舎裏等各所にはびこるゴミのポイ捨てでの衛生環境の欠如。
挙げていけばきりがありませんが、こんな学校の現状を数ヶ月以上放置おきながら、よくもまあそんなお題目を掲げる事ができますわね。
もし私が就任したのなら、一日で解決できる問題ですのに。
まあ私はこんな学校なんてどうでもいいと思っていますので、やりませんが。
………これでよくわかりましたことでしょう?
いかに貴方が、あの方と釣り合わないか。
いえ、釣り合わないどころか、隣を歩くのさえおこがましいということが。
低脳なお猿さんにもわかるように丁寧に説明しましたから、よくわかりましたよね?
………ふむ。これだけいってもわからない、と。
―――なら、仕方ありませんわね。まったく、お猿さんでも、もう少し聞きわけがあるというのに。
はい? それならどうするのか、ですって?
ふふ。ふふふふ。
ふふふ。ふふふふふふふ。
ふふふふ。ふふふふふふふふふふ」
「………ふむ。ファミレスというものには初めて来ましたが、そう中々、悪くはないものですわね。
口に合ったかどうか?
まあ正直に述べるのであれば、食材も調理方法も給仕の人間も、著しく質は劣るものとしか言い様がありませんが、貴方と食事を囲むというのであれば、さっきも言ったようにたまにはこういうものも悪くはありませんわ。受け入れる事もやぶさかではありません。
ぜひともまた誘ってくださいな。喜んでお受けいたしますから。
………ああ、その話。生徒会長さんの事ですか。確かに彼女は残念でしたわね。急に退学になってしまわれて。
なんでも売春行為をなされていたようで。
人は見かけによらないものですわ。男の方とホテルに入っていく姿の写真もあったようですし、それが動かぬ証拠です。
え? そんな写真があったのかって?
ええ、たまたま人づてに聞いただけですわ。
本当に。たまたま。たまたまね。
(スタスタスタ、ピタ)
………ええ、ごきげんよう。
ええと、この方は?
………ああ、貴方の隣の家の、幼馴染の。
ええ、彼から噂はかねがね聞いてますわ。
いえいえ。そうそう悪いエピソードは聞いておりませんわよ。
せいぜい、小学生の頃テストで0点を取ったとか、幼稚園の頃におねしょをしたとか、そういったものくらいですわ。
………ふふ。お二人はずいぶんと仲がよろしいのですね。ずいぶんと、羨ましいことで。
(~~~♪)
あら、電話のようですわね。貴方の携帯みたいですよ。
…………………………
ん、急に帰らなければならなくなった? 妹さんから。
ええ、わかりました。それは仕方ありませんもの。
いえいえお気になさらず。気を悪くなどしていませんから、大丈夫ですわ。
ええ、それでは、ごきげんよう。道中、お気をつけてお帰りなさいまし。
(スタスタスタスタ………)
………ああ、貴方。彼の幼馴染なのですってね。折角でしたらそこの席へどうぞ。これを機会に、良ければお話しませんか?
(………ストン)
ありがとうございます。
さて、では………
―――金輪際、あの方に近付くのはやめて頂けませんこと?
ええ。もちろん貴方に言ってるんですのよ。聞こえませんでしたか?
どうして貴方にそんなことを言われなくちゃいけない?
それは、私があの方の将来の妻となる者だからですわ。妻として、主人に害をなすような俗物は、排除しておきませんと。
特に、貴方みたいな雌豚については。
彼と恋人でもないどうしてかって? はあ、ここにもまた、礼節をわきまえない方が一人。いえ、一匹。
いえいえ、こちらの話ですわ。聞き流してくださって結構。
私とあの方が結ばれることは既に決まっていることですの。現状がどうであれ、将来が既に確定している。ゆえになんら問題は生じなくって?
納得ができない?
別に貴方に納得して下さらなくてもいいですわ。これは私とあの方のことなのですから。部外者で雌豚の貴方の納得なんて、必要ありませんもの。
それで? 私の質問にまだ答えは頂いてませんのだけれど。それともついさっき言ったことまでお忘れなのですか? 記憶力まで悪い雌豚なんて、実に愚かな愚者ですわね。
………離れるつもりはない、と。それはまた、どうして。
たかだかあの方の幼馴染に過ぎないのでしょう? 貴方は。正直に言ってそんな人間があの方に近付くだけでも、不愉快極まりないのですけれど。
彼と結婚するから?
ふむ、それはまた、大きくでましたわね。であれば、億が一にもありえないでしょうけど貴方があの方にどう相応しいのか、この私に説明してもらいたいものですわね。
………料理が上手い?
ふふ。ふふふ。
あれ、ここは笑うところなのでしょう? 奇をてらって面白おかしな発言をする芸なのでしょう? はいはい、実に面白いです。おひねりをあげますから、さっさとこの場から消えてくれませんこと。
ふふふふふ………ふぅ。
料理が上手くて、美味しい料理を作って上げられる、でしたっけ?
そんなの、最低の最低の最低の最低の最低条件でしょう。むしろ、美味しくない料理のどこに価値があるのか、教えて欲しいものですわ。
それが最低の条件。
妻であるものとして必要なのは、主人の健康管理ですわ。
主人の体重、身長、生活習慣。はたまたその日の運動量、睡眠時間、不足している栄養。それら全てを計算に入れた上で料理を仕上げ、適切な時間に適切な量を召し上がってもらう。
それができない料理の腕など、子供のおままごと、いや、山から下りてきた野生生物が畑を食い散らかすのと、なんら変わりありませんわ。
じゃあ貴方にそれができるのか?
もちろんですとも。あの方の今日の運動量、睡眠時間等は頭に入っておりますし、今日はもちろん、昨日までに食した食事も全て把握しています。その上で適したメニューを先ほどはあの方に選んでもらいました。もちろん自分から選ぶように誘導して、ですが。
今日はこの場所ですからこんな低俗なものでも仕方ありませんが、さっき食べたもの以上のものを作り上げる事も、私には容易ですわ。
ただ料理のレシピを覚えるなら、誰にだってできる。でもそれは食事のほんの一要素でしかない。おわかりですか?
では他に何かありますか? 泥棒猫さん。
昔からのあの方の事をよく知っている?
ふふっ。ふふふふふふふっ。ふふふふふふふふふふふふふふっ。
ああ、失礼しました。ただあんまりにも貴方が同じ実に愚かな行為を繰り返すので、少々はしたない真似をいたしました。
ではあの方のことをよく知っているあなたに、質問ですわ。
現在のあの方の体重身長体脂肪率、視力聴力握力を答えてください。
違います。
では、一ヶ月前のこの日に食べたメニューを三食全て答えなさい。ただし間食も含めて。
違います。
それでは小学五年生の晩秋、あの方が泣きながら下校した日がありましたが、さて、その理由は?
違います。
あらあら、こんな簡単な質問にも答えられなくて、よく『昔からよく言っている』なんて大法螺がふけましたのね。
嘘つきは泥棒の始まり。泥棒猫に相応しい諺ですね。猫じゃらしでも振ってあげましょうか? にゃあにゃあにゃあにゃあって言いながら。
もちろん私は知っておりますとも。私は貴方とは違って嘘吐きでも泥棒猫でも雌豚でもありませんから。あの方の全てを把握する。それは妻にとっては当然のことですから。
では、承諾いただけますか? もう金輪際、あの方に近付くことはしない、と。確約を取っておきませんと、後からああだこうだ言われるのは御免ですから。
―――ふう、これでもまだ、納得してくださらない。
そうですか。そうですか。往生際の悪い雌豚ですこと。
頭の中に脳みそが入ってない方は、本当に困り者ですわ。
ふふ、ふふふふふふ。
ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「………お邪魔しますわ。
へぇ、案外物が少ないんですのね、貴方の部屋って。
いえ、散らかり放題のイメージは特にありませんが、男の人って、もっとこう、煩雑な印象を持っていたものですから。すみからすみまで整理整頓が行き届いていて、好感が持てますわ。
………ふむ。妹さんがやってくださると。いい妹さんをお持ちなんですね。
窓からの風景もきれいですわね………そういえばお隣の幼馴染さん、急に引越しなさったらしいですわね。
なんでも急に父親が会社をリストラされたそうで。怖いですわね。世間の荒波、というものは。こうして目の前で見てみると。
………ええ、まあちょっと。その会社というのが、私のお爺様の会社の子会社だったらしいので。噂程度の小話を。
そんなに寂しそうな顔をされなくても。折角の麗しい美顔が台無しですわよ。
大丈夫です。私は、貴方の前から消えるなんて事は、ありませんから。
では、失礼して………ん、もっと足を崩してもいいって? いえいえ、お気遣いなさらずに。貴方の前では常に美しく振る舞いたいですもの。親しき仲にも礼儀あり、ですわ。
(ガラガラ)
ああ、お茶なんか結構ですわよ。
………なるほど、確かに今私が言ったばかりですわね。
では、お言葉に甘えましょうか。
(バタン)
…………………………で、そろそろ出てきませんこと? そこにいるのはわかってますわよ。
それとも私が開けた方がよろしくて? そのクローゼットの扉を。
(スー………パタン)
妹さん、ですか。まあクローゼットの大きさからして、十二分に予測できましたけど。
どうして隠れているのかがわかったのか?
五感の方は多少、敏感なのですわ。特に嗅覚は、ね。
(ガラガラ………)
あら、お早いですわね。
え、妹さん? ああ、そこのクローゼットに隠れていらっしゃったみたいなのですわ。
いえいえ、何の手間もありませんわ。可愛い妹さんの可愛らしい行動ではないですか。
それで、どうなさったんですか? 手元が留守のように見受けられますが。
………お茶菓子が切れてた? だから近くまで買ってくる? いえいえ、そこまでなさらなくても………はいはい。わかりました。先の発言の繰り返しは、ずるいですよ。
承知しました。ここで待ってますわ。
大丈夫ですよ。部屋の主が不在だからといって、余計なものは見たりはいたしませんから。それこそ淑女あるまじき行動ですし。
ええ、では。
(ガラガラ、スタスタスタ………)
―――それで? どういったつもりなのですか、貴方は? こそこそと隠れてまで、覗き見しようとする。たとえ妹さんであろうと、地べたを這いまわる蟻みたいな行動は正直不快なのですが。
私とあの方の関係、ですか?
ここにもまた、礼節をわきまえない方が、一匹………いえ、何でもありません。
あの方は私の将来の主人となるお方、ですわ。あの方に付き従い、支え、共に歩いていく存在。それがあの方と私の関係。
恋人同士でもないのに、どうしてそう言えるか?
たとえ今現在がそういう関係でなくても、未来が既に決定しているからですの。決定された未来に対して、ありのままを事実を語ってよろしいんじゃなくって?
そんなのは戯言?
いいえ、違います。私とあの方は過去に既に、将来の約束を交わしているんですの。
私がまだ野原を駆け回っていた幼い頃、あの方に言いました。
『将来私達、結婚しましょう』と。
そしたらあの方は、うん。わかった。と、了承してくださいましたわ。
おかしい? おかしくなんてありませんわ。
私が結婚を申し込み、それを了承する。これのどこがおかしいというのですか? 所詮蟻のような脳みそでは理解できないのかしら。可哀想に。
………そうそう。私の方からも貴方に言いたいことがあったんですの。この際ですから言っておきましょうか。
―――貴方、今すぐあの方の前から消えてくださいませんこと。
貴方のような羽虫がぶんぶんと飛んで回っていると、あの方の迷惑にしかなりません。そんな迷惑な存在は、今すぐ消えて欲しいんですけれども。
ええ、迷惑です。目障りです。障害物です。
知っていますよ、私は。貴方が昨日、勉強を教えてもらいたいといって夕方から夜遅くまでこの部屋に居座っていたことを。
先日、買い物だとおっしゃって、本来は私とあの方の休日の時間であったはずが、それを奪い取ったのを。
妹という立場で共に暮らしているのをいいように利用して、よくもまあベタベタと鱗粉を撒き散らかして、少しは虫という自覚をわきまえて欲しいものですわ。
これまでどれだけの時間、貴方があの方から時間を奪ったかおわかりですか? あの方が私に相応しい方に立派に成長になるのを阻害する、まさに寄生虫です。
貴方からこんな事を言われる筋合いがない?
では、どのような筋合いがある、と?
妹だから、ですか。
―――ふふふふふふ。妹だから、ですって。ふふふふふふふふふふふふふ。
妹なんて、所詮同じ母親から生まれただけの存在でしかありません。結婚することはできない存在。
いつの日か必ずしも別れることを運命付けられた存在でしょう。
いつかは別々に暮らす他人になる。
他人。他人。他人。他人。他人。他人。他人。他人ですわ。
血のつながりにしたって、それがなんだというのです。DNAレベルで似ていようが、
結局は赤の他人。むしろそれで結ばれることがなくなってしまうのですから、哀れみすら、覚えてしまいますわ。
だからいい加減、寄生虫であることを自覚なさい。蟻であることを、鱗粉を撒き散らかす蛾であることを、理解しなさい。
これ以上、あの方の側にいるのをやめなさい。
………ふう、これだけ言ってもわかりませんか。これだけ丁寧に説明しても、虫には理解ができませんか。所詮は虫は虫。
いいでしょういいでしょう。
そんな害虫は、叩き潰すのみですわね。
ふふふ。ふふふふふふふふ。
ふふふふふふ。ふふふふふふふふふふふふふ。
ふふふふふふふふふふふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「………残念でしたわね。貴方が留守にしていた間に、強盗が押し入り、そして放火され、家が全焼。
焼け跡には、何も残っていなかったそうですわ。なので何の証拠もなく、犯人は逃走したまま。
貴方の家族は全員、殺されてしまった。
………ええ、よしよし。泣かないでください。
たとえ家族がいなくなろうと、貴方は一人ぼっちではありません。この私がいます。
この私と一緒に、これから歩みましょう。
………ところで、これから住む場所は、まだ決まっていないんですわよね。
それなら是非、私の家に来なさいな。遠い親戚宅に行ったところで肩身の狭い思いをするだけですわ。大丈夫です。私の屋敷は広いですから、部屋の一つや二つ、すぐに用意できます。
迷惑だなんて、そんなことありませんわ。むしろ喜ばしい限りですわ。
だって。これで。
そう、これで私の悲願が叶ったも同然ですから。
―――これからはもう余計なお邪魔虫を、何人たりとも貴方には近寄らせませんわ」
タイトル:「視線の先」
星座:さそり座
タイプ:ストーカー型ヤンデレ
私は君を見ている。
「好きです。僕と付き合ってください」
君は真剣な面持ちでそう言い、頭を下げ、私に右手を伸ばす。
私はその手を取ることなく、ゆっくりと首を横に振り、背を向けてその場を離れた。
やがて君は私が視界から消えたことに気付くと、がっくりした表情で面を上げ、その場から歩き出す。
君の足取りはひどく重く、ずっと俯いたまま道を歩く。
しばらく歩いた後、君の友人が君の隣まで来て、声をかける。
「おうおう。今日例の彼女に告白したんだって? どうだったよ?」
「見てわからないの………」
つん、とすねた表情で君は顔を背ける。
「あー、だめだったのか。いやいやふられたぐらいで気にすんなって!」
バンバン!
勢いよく君の背中を叩く君の友人。
「気にするって………」
前後に体を揺らしながら小さく呟く君。
「まあまあまあ、そこは新しい恋でも見つけりゃいいじゃん。ほら、あの可愛いマネージャーとかさ……………つうか、あの人に告白ねえ」
君の友人はそこで声をトーンを落とす。
「なんつーかあの人って、クールっつうかミステリアスっつうか、なんか、何考えてんのかよくわかんなくね? すっげー無口だしさあ」
「いや、そういうところがいいっていうかさあ………」
勢いよく反論しようとするものの、徐々に自信がなくなって尻すぼみになっていく君の声。
「噂じゃなんかオカルトチックなのにのめり込んでるっつー話だし。まあ、ふられて良かったんじゃね? きっとさ」
バン!
もう一度勢い良く君の友人は君の背中を叩く。
「振られていいって事はないと思うけど………」
はあ………と君は溜息を付いた。
私は君を見ている。
放課後の部活動の時間。
水泳部の君はプールの中を泳いでいる。
クロールで水をかきながら、ぐいぐいと水中を進む君。
やがて君はプールの端に手を突いて、顔を出し、眼鏡を外し、真上にいたタイマーを持つマネージャーに目を向ける。
「128.68秒。自己ベストです」
「やったぁ!」
それを聞いた君は大きくガッツポーズし、喜びをあらわにした。
「すごいですね。先輩。このところ自己ベストの連続じゃないっすか」
マネージャーはまるで自分の事のように喜びを表した表情で君に告げる。
「いやまあ、そんなことないけど………」
君は褒められて照れているのか、人差し指で頬を掻いていた。
「いやいやすごいですって。もうレギュラーも間近じゃないですか。私、応援してますからね」
「あ、ありがとう」
君は顔を赤くして、そう答えた。
私は君を見ている。
夕方、夜も間近の薄暗い中、帰路を歩く君。
街頭の明かりも少ない周囲に雑木林が生い茂る狭い道路。
「~~~♪」
鼻歌を歌いながら君は帰宅する。
誰かに聞かれていることが知れれば、瞬間顔を真っ赤にして恥ずかしがるようなラブソングの鼻歌を熱唱している。
一番が終わり、次は二番。それが終わると、また一番に戻って歌い続ける君。
住宅街が並ぶ幹線道路に入るまで、その歌は続いていた。
私は君を見ている。
「えぇー。ちょっとこれ、食べらないよー、ママー」
夕飯時の食卓。
君は目の前の皿に乗ったトマトを見て非難の声を上げる。
「だーめ。そのくらい食べなさい。もう、そんな年になっても好き嫌いが多いんだから。まったく」
「そうだよ。兄貴好き嫌い多過ぎー」
「ちぇー……………」
君は母親と妹にそう指摘され、不貞腐れる。
しばらく拒否感をアピールするためか、フォークでトマトをつついていたが、やがてあきらめたように口へと運ぶ。
口に運んだ瞬間、飛び切り苦い顔を君はしていた。
私は君を見ている。
「先生、ちょっと、トイレに行ってきます」
数学の時間、君は手を上げて教員にそう告げて廊下に出ると、トイレの場所には向かわず、人気のない廊下の端に足を運ぶ。
それから近くの窓を開けると、ポケットからタバコを取り出し一本加えて火を点けた。
「あー………あの先生うっざっ」
イラつくように君は頭を掻く。
その度にタバコの煙が揺れて、周囲の空中へと舞った。
やがて一本分を吸い終えた後、そのタバコを自前の灰皿に入れ、教室へと戻る。
途中君はゴミ箱を見つけると、おもむろに「ダンッ」と蹴り飛ばし、周囲にゴミが散らばった。
君はそのゴミを片付けることなく、足早に歩を進めた。
私は君を見ている。
放課後、部活をサボった君はゲームセンターで遊んでいた。
カチャカチャカチャカチャ。
格闘ゲームのレバーを一心不乱に君は動かす。
君のキャラは相手の体力をだいぶ減らしたものの、後一歩のところで敗れ、「K.O.」の文字が画面に表示された。
「チッ」バン!
舌打ちと共にゲームの筐体を思い切り叩く。
「おい」
と、そんな君に、直前まで君の対戦相手だった見るからにガラの悪そうな人物がドスの聞いた声を出した。
「なんか文句あんのか、テメェ」
「あ、いや、あの。なんでもないです………」
その人物に一睨みを受けて君は消え入りそうな声を出し、そそくさと荷物を手に取って、足早にゲームセンターを立ち去った。
私は君を見ている。
夜、自宅で湯船に体を埋める君。
しばらく心地よさそうにしていると、ガラガラ……、と扉の開く音。
「もう、ちゃんと体洗わなくちゃ、ダメよ」
そんな言葉と共に、君の母親がお風呂場に入ってくる。
「ママ、お風呂の時には入ってこないでよ………」
体を隠すように君は湯船の中で両足を抱え込む。
「だーめよ。そう言っていっつもちゃんと洗わないんだから。ほら、体こっちに出して。ちゃーんと洗ってあげるから」
「もう………」
観念したのか、君はゆっくりとした動作で体を湯船から持ち上げる。そして風呂場の椅子に腰掛けると、君の母親にされがまま、体を洗ってもらっていた。
私は君を見ている。
すやすや………。
暗い部屋の中、君はベットの中で静かな寝息を立て就寝していた。
毛布の下で静かな胸の上下運動。深い眠りに君はついている。
コンコン………。
と、部屋の扉が小さな音でノックされる。もちろん寝ている君は気付かない。
ガチャッ………
しばらくした後、可能な限りゆっくりとした動作で扉が開き、ある人物が部屋に入ってくる。
「兄貴、起きてる………?」
君の妹が小さな声で君に呼びかける。もちろん寝ている君は気付かない。
寝ていることを確信した君の妹は、首をきょろきょろと振って、誰も見ていないだろうことを確認してから、もぞもぞと君のベットに入り込む。
君の妹は君の寝顔をしばらく堪能しつつ、
「お兄ちゃん、大好き………」
とその顔にキスをした。
もちろん寝ている君は気付かない。
私は君を見ている。
君はトイレに入り、ズボンを下ろし、用を足す。
しばらくして水を流し、トイレから出る。
私は君を見ている。
君は部屋で、裸の女性が載っている本を読んでいる。
「ぐふふふふふ」
気持ちの悪い声を出しつつ、ページを進めていく君。
私は君を見ている。
「あー、よかったらどうぞ」
朝の登校時、通勤列車に乗った君は、目の前の空いた席を、隣に立っていた初老近い中年の男性に譲った。
どうもと言って、中年が座った。
君はひとしおの満足感を得て、再びスマホに向き合った。
私は君を見ている。
「大好きです! 先輩、付き合ってください!」
放課後、部活の終わった帰り道。君は後輩のマネージャーに告白された。
「ああー………ごめん。今は、そういうのはちょっと」
君は気まずい顔をしながらその告白を断った。
「そうですか………」
とマネージャーは明らかに意気消沈した声を出すと、その場を離れる。
「……………」
そんなマネージャーを君は、静かに見送っていた。
私は君を見ている。
「いや、今大丈夫だって、ほら」
「ええー、でも………」
「いやいや、マジ大丈夫だから」
君は君の友人と慎重に店内を見渡す。
そこそこ広めで人もまばらの本屋。
各所にいる店員は忙しそうに自分の仕事に没頭している。
君は何度も周囲を確認した後、一冊の本を手元の鞄の中に入れると、君の友人と共にきびすを返して店外へと出た。
「ほーら、大丈夫だったろ?」
外へと出てしばらく歩いた後、君の友人が君にそう声をかける。
「んー、まあ、大丈夫なことは大丈夫だけど………」
少し不服そうな表情をしつつ、君は先ほど入れた本の入った鞄を見下ろしていた。
私は君を見ている。
「~~~~~♪ ~~~~~♪」
君は一人カラオケ店の個室で、大声を張り上げて熱唱していた。
甘い歌詞が特徴のラブソング。低年齢層の女子向けのアニメの主題歌。
切ない失恋のバラード。激しい感情を歌うロック。
ストレス発散のごとく、多種多様な曲を次々と歌い上げる君。
私は君を見ている。
「はあ、疲れた………」
周辺が暗い中、人通りの少ない閑静な道路を君は歩いている。とぼとぼとした足取りで、その歩みはひどくゆっくりだった。
「もう練習やだなー………猛練習の、もう練習やだなー………ぷぷっ」
君は一人小さくふき出す。笑い声は周囲に広まり、やがて消える。
「……………」
水泳部の練習による重い疲労を浮かばせながら、君は歩いている。
君が見せる様々な顔。それは全て、君の顔である。
何をしようと君であり、何もしなくても君である。
君でない部分はなく、君の部分は君の部分しかない。
どれもこれも君。あれもこれも君。
君の顔。君の一面。
君によって構成される君。
全てが君の顔。全部が君の顔。
一つが欠けても君でなくなり、違う一つが増えても君でなくなる。
君という君。君が君。君で君。君は君。君の君。
それが君である。
何もかも、全てが全ての、君。
私はそんな君を見ている。
ブッブッブッブッブ―――――――――!
突如クラクションが周囲に響き渡る。
「!」
君は突然の出来事に、瞬時にクラクションが鳴った方を振り向き、そして
ダンッ!
次の瞬間、君はトラックに前方から突き飛ばされた。
数秒間空中を漂う君の身体。物理法則に沿ってきれいな放物線を描き、
バンッ!
その身体は道路に叩きつけられた。
君の四肢は道路に投げ出されて、君を中心に、少しずつ赤い血が花咲いていく。
ドクドクドクドク、血が流れ出ていく。
君の表情は叩きつけられた瞬間からピクリとも動かない。瞬きしない、口は動かない。鼻も耳も、動かない。
どんどんと生気が失われ青くなっていく君の表情。
やがては死を迎えていく君の表情。
夜の街灯だけが、その表情を照らしていた。
私は君を見ている。
私は君を見ている。
私は君を見ている。
私は君を、見ていた。
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