第37話優しいシーラちゃんと燃えるフーナ




「ごちそうさまでした~っ! シーラちゃん」

「ん、シーラごちそうさま。おいしかった」

「うまかったぞ、シーラちゃんっ!」

「美味だったわよ、シーラ」


 朝から豪華な朝食を食べ終わり、それぞれに感謝の言葉を口にするみんな。

 それはもちろんこのお屋敷のメイドの、透明幼女シーラちゃんに対してだ。


 そんなシーラちゃんが作ってくれた朝食は、朝から大きなハンバーグだった。

 私がお風呂場で呟いてたのを聞いて、それで作ってくれたんだろう。


  ((ど、どういたしまして……))


 すると、どこからともなく、蚊の鳴くような微かな声が辺りに響く。

 この消え入りそうな声は、間違いなくシーラちゃんだ。


「む?」


 きら―んっ!


「そこだ――っ!」  


 ダダッ! ぴょーんっ!


 私は声の聞こえた方、ではなく、一瞬姿が見えたシーラちゃんに向かってダイブする。

 みんなからお礼を言われ油断して、薄っすらと裸エプロンのお尻が見えたから。



「シーラちゃんのハンバーグも食べさせてっ!」


『っ!?』


 自分でもよくわからない事を叫びながら、姿が見えたであろう扉に向かって飛び込む。

 シーラちゃんの持つぷりぷりの、二つのハンバーグも堪能する為に。


 ガッ ガッ


「いっただきま~す…… て、あれ?」


 もう少しで手が届きそうな時に、両足を掴まれグッと引き戻される。

 そしてそのまま逆さまに、ぷら~んと宙吊りにされる。



「え? な、なんで、アドとエンドがっ!?」


 ローブを抑えて見上げると、二人がそれぞれに私の足を持ち上げ見下ろしていた。



「なんでって、それはシーラが驚くからよ」

「そうだぞっ! シーラちゃんが可哀想だっ!」

「ん、フーナさま、シーラからも言われた」


「え? 驚かせるのはあれとして、メドにシーラちゃんはなんてチク、じゃなくて、言ってたのっ!?」 


 シーラちゃんが驚くのは仕方ない。


 だって、私も同じことされたらびっくりするし。

 しかも、そんな顔を見るのもちょっと好きだったりするし。


 それにしても気になるのは、シーラちゃんがメドに何かを言った事だ。

 私の事が嫌いとか、もしかしたらお屋敷を出ていって欲しいとか言ってないよね?



『そ、そんな事言われてたら、わたし、この世界に来て初日で手に入れた住処を3日目で追いやられるのっ! 幼女が集まるこの桃源郷から、問答無用で追放されちゃうのっ!?』


 それだけは嫌だ。


 私はこの世界に来て着々と、現代では隠していた欲望を満たしている最中なんだから。

 こんなに可愛く私好みの、そんな幼女たちをいきなり手放す事なんて出来ない。


 だって、まだまだやりたい事あるし……

 メドともアドとも、エンドとも。



 なんて、ドキドキしながらメドの言葉を待っていると――――


「ん、シーラから言われたのはお風呂場の事」

「え? お、お風呂?」


 って、この話は、朝食前に入ったお風呂の事だよね?


 そこで私に愛想が尽きちゃったって事?

 騙し討ちのようにシーラちゃんを襲っちゃったから?



「ん、そこでシーラは驚いてフーナさまを蹴った」

「う、うん、確かに蹴られた…… それで?」


 ドキドキ――


「ん、それで蹴った事を悪いと思ってる。だからアドたちが止めた。また驚いて蹴ってしまわないように、みんなにフーナさまを止めるようにお願いした」


「え、それって……」

 

 もの凄くいい子じゃんっ!

 襲われた事を怒るんじゃなくて、蹴られた私を心配してくれてるじゃんっ!


『うう~』


 なんて健気で優しくて、しかも思いやりのある幼女なんだろう。

 しかも料理も上手で可愛いし、控え目な性格も好みだし。


『それになんと言っても、裸エプロンから見える、あのプリティなお尻だよね、ぐへへへへっ!』


 宙吊りになりながらも、そんな妄想をしてしまう。

 それだけ私はシーラちゃんにゾッコンなのだ。


「ふんっ!」


 ギュン

 

「わっ!」

「ぬっ!?」


 私はアドとエンドに掴まれながら、その場で回転する。

 二人の拘束から逃げて、シーラちゃんを追うために。


 だって部屋から出ていこうと扉が開いたから。

 だから今ならまだ間に合うはず。


「もう一度っ! ふんっ!」


 ギュルンッ!


「うわっ! フーナ姉ちゃん、もの凄い力だっ!」

「んなっ! 我の力では抑えきれないわっ!」  


 バチーンッ!


「ぬあ、抜けたぞっ!」 

「くあ、逃げられたわっ!」


「よしっ!」  


 二人の拘束から無理やり脱した私は、開いている扉に向かって再度跳躍する。

 シーラちゃんのお尻、ではなく、きちんと頭を下げて謝ろうと思って。


 なのに、


『きゃっ!?』 


 バタン

 ドカッ!


「ぐえっ!」 

 

 なのに、驚いたシーラちゃんは扉を閉めて逃げて行ってしまった。

 そしてその扉に激突し、蛙が潰れたような声を出して、ズリズリと顔から崩れ落ちる私。

 

「な、なんで~っ!」

「ん、今のもフーナさまが悪い。言ったばかりなのに」

 

 そんな私を見下ろして、ジト目で言い放つメド。


「ち、違う、わたしはシーラちゃんに謝ろうと――――」


 シーラちゃんの出ていった扉とメドを交互に見て、そう伝える。


「ん、でももう手遅れ。シーラはそう認識した。フーナさまに近付くと危ないって」


「マジ?」


「まじ? ん、今までもそういう事あったから。だから諦めて」


 そう言ってメドはしゃがみ込んで、倒れ込む私の頭を慰めるようにポンと叩く。

 その際に、メドのパンツが見えて嬉しかったけど、そんな事はおくびにも出さない。

 

 それよりも、もっと重要で、私を燃え上がらせるイベントがたった今発生したからだ。



『ふふっ、難攻不落の要塞と化した、シーラちゃんを攻略する楽しみが出来たよっ! 新たな作戦を立てて、絶対にシーラちゃんと仲良くなるんだっ!』


 メドのパンツを気付かれないようにチラ見しながら、心の中でそう決心した。


 そんな矢先――――



『フーナお姉さんっ! スライムの居場所がわかったのっ! だから早く行って欲しいのっ!』


 脳内には女神のメルウちゃんの、焦りを帯びた声色の通信が入ってきた。


 

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