第29話幼女のピンチに幼女




「けど、どうしよう?魔法が通じないなんて…… だってわたしは魔法使いだよ」


 簡単に破られた、二つの魔法。

 『マジックドーム』と『マジックウォール』を思い出す。


「そ、それでもやってみないとわからないよねっ!」


 ブルルと頭を振って白ENDを睨む。

 そもそもこれだけのことでは、憶測の域を出ない。


「な、ならっ!」


 もっと検証が必要だよねっ!



「『ふぁいあーすぴあー』っ!」


 杖を構え白ENDに炎の槍を放つ。

 ただし、その大きさは電柱よりも巨大なもの。


『ふん』


 バシュンッ


 それを片手の黒腕で、軽々弾く白END。


「1個がダメならぁ~ 『ふぁいあーすぴあ』っ!」 ×50


『っ!?』


 私は杖の周りに50もの炎の槍を出現させる。


「いっけぇ~っ!」


 杖を振り抜き、50本全てを一気に放つ。


 シュシュシュ―― ンッ!


『うぬっ!?』


 ズドドドドドドドドッ――――!!


 その全てが白ENDに命中する。


「まだだよっ!」


 結果を見るより早く、次なる魔法を唱える。


「『うぉーたーあろー』×50『すとーんにーどる』×50」

「『えあかったー』×50『さんだーばれっと』×50」


 初級魔法の、水、土の属性魔法を連続で唱え、発射する。

 続けざま、風、雷の魔法も間髪入れずに叩き込む。


 ズドドドドドド――――――――ンッ!!!!


 200をも超える、初級魔法ながらあり得ない大きさと威力の魔法。

 その全てが白いENDに直撃する。 


「うぐぐぐぅ~っ!! 熱いっ! 痛いっ! 痺れるっ!」


 その魔法の暴風のような余波が、地面にいるこちらまで届く。

 私は両手の長い袖で防ぎながら、その隙間から上空の白ENDの姿を探す。


 ただ、大量の水蒸気のような霧が発生し、中々姿が見えない。



「これぐらいじゃアイツはやられないっ! きっとピンピンして出てくるよっ!」


 杖を構え、身構えながら霧が晴れるのを待つ。

 霧が晴れた途端に攻撃を仕掛けてくるはず。


 それがお決まりのパターンだからだ。



「あ、待ってないで魔法でどかせばいいじゃんっ!『ういんどぶれす』」


 ブワ――――ッ!


 ふと気付き、風の魔法で全ての霧を吹き飛ばす。

 そしてすぐさま臨戦態勢を取る。


「…………あれ? なんか小っちゃくなってない?」


 霧が晴れた上空には白ENDの姿が見える。


『ううっ』


 ただどこか様子がおかしい。


『う、腕がっ』


 私をぶっ飛ばした、禍々しい黒ENDの腕が


『け、消し飛んじゃったよぉ~っ!』


 見事に無くなっていた。


「え?」


 ただ無くなったとは言っても、元々の小さい腕は残っている。

 ぶらんと力なく垂れたままだけど。



「………………」

『………………』


 なぜか地上と空中で見つめ合う、私と白END。


「…………効いてんじゃん」

『っ!!!!』 びくっ!

「テンプレなんてなかったよ」

『………………』

「身構えてて損したよ」

『………………』

「だったら、ここからは――――」

『………………?』


「ずっと私のターンだねっ!」



 私は白ENDを「ビシィ」と指差し、声高らかに宣言する。

 相変わらず袖がだらんとなって、指先は見えない。


『うわあぁぁぁん~~っ!』


「泣いたって許さないからっ―― て、こっちくるのぉっ!?」


 私の啖呵を聞いて号泣したと思ったら、泣き顔のまま突っ込んでくる。


『うわあぁぁぁん~~っ!』


 ギュン ――ッ!


「は、速すぎだってぇっ! 間に合わないっ!」


 予想外の行動と、あり得ないスピードで魔法が間に合わない。

 弾丸より早く、私に向かい飛んでくる。


『うわあぁぁぁん~~っ!』


「え? 今度は何っ!? 黒のおパンツっ!?」


 白ENDは私の目前で片足を上げる。

 その際、中身が見えてしまったものを目に焼き付ける。


「う、うそ?」


 おパンツを丸出しにしながら上げた片足は


「ま、まさか…………」


 見る見るうちに巨大化し


「あ、足も黒ENDバージョンにっ!?」


 漆黒の巨大な足に変化する。



『うわあぁぁぁん~~っ!』


 ブゥンッ!


 そして号泣したまま、地上の私に踵落としを仕掛けてくる。


「わっ、わっ、防御魔法っ!『まじっくばり――』 うぎゃぁっ!」


 ゴガァァァ――――ンッ!!!!


 魔法は間に合わず、巨大な踵落としをまともに喰らう。

 ビルで言う10階建ての大きさの踵落としだ。



『ふぅ、ふぅ、ふぅ、これでおあいこだよ。そしてエンド』


 息を弾ませ、そのまま「グリグリ」と足を動かす。



『ううっ~、いだぃよぉ、ちぐじょぉ~……』


 その足の裏で、私は全身の痛みに堪えている。



『ぐぅ、ま、まさか、足もでっかくなるなんて、もしかして両手両足がでっかくなるの? ……はぁ、はぁ、はぁ。な、なら全部倒さないと――――』


 「ぐぐぐ」と手足に力を入れて立ち上がろうと動く。

 その際全身に痛みが走るが、まだまだ戦える。


「こ、これぐらいじゃ、諦めない、メドとアドの笑顔の為に――」


 私は地中の暗闇の中、メドとアドを想って力をこめる。



『な、まだくたばってないっ!? だったらっ!』


 白ENDは足を一度持ち上げ、すぐさま私を踏みつける。


 ドゴォ――ンッ! ドゴォ――ンッ!

 ドゴォ――ンッ! ドゴォ――ンッ!


 間髪入れず、巨大な足を何度も振り下ろす。


「うぎゃっ! いだぁっ! 『まじっくばりあ』 あぎゃっ!」


 巨大な足の踏みつけの連打に、魔法を唱えるが防げない。

 そのまま無防備の私に、あり得ない力と質量が何度も襲う。


『ん、ぐぐっ、このままじゃ、いつか、死んじゃ――――』


 諦めたくない。負けたくない。

 でもこんな姿を二人に見せたら心配されちゃう。


 五体満足で無事って決めてたのに…………

 



(フ――――っ!)

(―――――だっ!!!!)


『な、お前はっ? んがぁっ!』


 突如、白ENDの驚愕の声と共に、体への攻撃が止まる。


「な、何っ? 何だかわからな、いけ、ど……、うぐぐっ」


 痛む体を無理やり起こす。


 大丈夫。まだ意識は繋いでいられる。

 魔力だって溢れんばかりある。


 だから何度だって立ち上がれる。


「い、いつつっ」


 フラフラと立ち上がり、辺りを見渡す。



「フ、フーナさま。大丈夫」

「フーナ姉ちゃん……」 


「あ」


 聞き覚えのある、可愛らしい二人の声が背後から聞こえる。


「に、逃げてっ! 二人ともっ!」


 私は後ろを振り向き、直後に二人に絶叫する。


 その理由は――


「え?」

「へ?」



『手間が省けたな、こんなところに来るなんて二匹とも』


 残りの腕を巨大化させた白ENDが、横薙ぎに腕を振り払ったからだ。


「や、やめてっ!」


 タンッ


 私は二人を抱いて跳躍する。


「うぎゃっ!」

「ぐっ!」

「ぎゃぁっ!」


 それでも間に合わず、三人まとめて攻撃を喰らってしまう。



 そして、その威力で数百メートル程ぶっ飛ばされる。


 ズザザザザザザ――――――


「い、いつつっ! やっと止まった……」


 どこまで飛ばされたのか分からない。

 ただどうやら、森の木々を数十本なぎ倒して停止したようだ。


「こ、ここは森の中?」


 周りを見渡すと木々が影になって、白ENDの姿が見えない。

 それでも直ぐに、ここに辿り着くだろう。


「メド、アド、大丈夫っ。わたしのせいで、二人と、も? ――」


「………………」

「………………」


 腕に抱いたまま、倒れた二人に声を掛けるが返事がない。


「メド? アド?」


 ゆっくり起き上がり、返事のない二人を見る。



「メ、メドも、アドもケガしてる……」



 二人の状態を見て、震える声で一人呟く。

 メドも、アドも、小さい体に無数の傷や痣が出来ている。


 メドの白いワンピースも、アドのTシャツもボロボロに破けている。

 美幼女だった、二人の顔にもたくさんの傷があった。


「ううっ」


 きっと私の帰りが遅いから、恐いのも必死に我慢して来てくれたんだ。

 あんなに恐がってたのに、ENDと戦って助けてくれたんだ。


「なのに……」


 私のせいで二人が傷ついてしまった。

 二人を守るために、戦ってたはずなのに。


「…………許せない」


 こんな目に合わせてしまった自分の弱さが許せない。


「…………許さない」


 こんな目に二人を合わせたアイツを許さない。


「うううううっ、もうっ! 怒ったぞぉぉ――――っ!!」


 私は空を見上げて咆哮する。


 その叫びに自身の不甲斐なさと、白ENDへのありったけの憤怒を込めて。



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