第22話メドと合流と挨拶と




「フーナさま。これは一体……」


 地上に降りてきたら、メドが珍しく目を見開き驚いている。


 冒険者のギルドの建屋があったであろう

 今はただのデカい水溜まりを見つめて。



「ち、違うんだよぉっ!わざとじゃないんだよっ!だってメルウちゃんが出てきて、メドがいなくなって、それで鳥さんがわたしを――――」


 私はそれに対しブンブンと長い袖を振って言い訳する。


「ワタシが出て、いなくなって?フーナさま適当な事言わないで」


 と、ジト目を更に薄めて私を鋭く睨む。


「ち、違うんだってっ!メルウちゃんは脳内の女神でメドはメドでしょっ!だから別人なんだよぉっ!」


 あわわと説明するけど自分でも何言ってるか分からない。

 こんな時まで女神のメルウちゃんは私を困らせる。


「もういい。アド、ワタシたちは一度離れよう」


 そう言ってアドの手を引いて私に後ろを向け歩いていく。


「メ、メドぉ!私を置いてかないで!見捨てないで!せっかくメドに会えたのにっ!なのに、う、うわわわんっ!」


 私は頭を抱えて蹲り大泣きする。

 止めようと思っても止めどなく涙が溢れてくる。


 幼女の姿になってから本当に情緒不安定だ。


 やはりこの姿に子供らしさが引っ張られているんだろうか。


 女神のメルウちゃんを見てウキウキし、メドの美しい幼女姿を見てドキドキし、アドのロリ巨乳を見てワクワクしてるし。


 って、これは元々だった気もしないわけでもないけど……


 それでも感情の起伏をコントロールしずらいのは本当だ。



「お、おいフーナっ!それと白い幼女と青い……幼女?」


 そう声を掛けてきたのはロリ男だった。


 なんでアドで幼女呼びを言い淀んだのかは、きっとあの容姿に不釣り合いな大きな胸を見たからだ。


 やはりこの男はロリコンだ。

 私たちには危険な存在だ。


「何?」

「何だ?」


 メドとアドはロリ男の呼びかけに仲良く後ろを振り向く。

 その繋いでる手の間に私も入りたい。


「そのぉ、そこの白い、えーと――何て呼べばいいんだっ!?」

「メドでいい。そう名付けてもらったから」

「そ、そうか変わった名前だな俺はルーギルだ。で、そっちの青いのは?」

「俺はアド」

「俺?お前も変わった名前だなっ!それと俺って。そんなデカいむ――」

「それで何?」


 ルーギルと名乗った冒険者風な若い男は、アドの胸部に目を奪われながら何か良からぬ事を口走りそうになったところで、メドが話に割って入る。


「あ、何かお前ら知り合い同士だろ?フーナと魔法使い同士で。だから礼と、それと何か勘違いしてるっぽいから、それの説明もしようと思ったんだよっ」


 ルーギルは私とメドとの間に入ってそう口を開く。


「で、だ。取り敢えず、メドだったな?お前には礼を言いたい。ここら辺りを魔法で守ってくれただろっ?そして街の人間もなっ」


「……人間と共存するのは当たり前。持ちつ持たれつだから。だからワタシは守った。別に礼を言わなくてもいい」


 メドが珍しく長く話したけど、めっちゃカタコトだった。

 やはり会話は苦手なんだろうか?


 まぁ、いきなり流暢に話されても、それはそれで引くけど。

 ジト目幼女には無口が似合うからね。


「人間?何かお前も変わってるなっ?まぁいいや。それでも救ってもらった事には変わらねぇ。だから礼を言いたかったんだっ、ありがとなっ!」


 頭の後ろに手を回しながらルーギルはもう片手をメドに伸ばす。

 それを見る限り、握手でお礼を伝えたいんだろうとわかる。


 その顔はちょっと照れたようで、でも真摯な目でメドを見ていた。

 きっと心から感謝しているんだなと思う。


「ん、わかった。アド、ここで待ってて」

「わかったメド姉ちゃんっ!」


 メドはアドにそう断り、手を差し出してるルーギルに近づいていく。


「良くやってくれたなっ!フーナもお前にも――」


 ルーギルはそう言いながらメドを出迎える為に笑顔で近づく。


 そして、


 メドの白くて小さな手と、ルーギルの黒くて大きな手が触れあい握手を交わす。


「――世話になった!本当に助かったぜ。にしても――」


 と、誰もがそう思っていた。


「――フーナもお前も凄い魔法使いなんだ――なはぁっ!?」


 ガシッ

 ブンッ!


 二人が手を握り合った瞬間、メドの前からルーギルの姿が消えていた。

 消えたというか、超高速で真横に飛んでいった。あり得ない速度で。


「えっ!?」


 ビュンッ!


 ドゴオォォォォンッ!!!!

「ふごぁっ!!」


「いいいいいいっ!!!!メ、メド何やってんのぉっ?」


 そんな破壊音と絶叫が元冒険者ギルド前の建屋から聞こえる。

 それはメドと握手したルーギルだった。


「ルーギルっ!」

「ちょ、ルーさん大丈夫すかっ!」

「うわぁっ!ル、ルーギルあんた大丈夫っ!?」


 建屋に激突したルーギルに、

 冒険者ギルドの人たちが駆け寄り声を掛ける。


 この3人の人たちも無事だったんだ?

 

 ってそれよりも――


「メ、メドっ!な、何でロリ男吹っ飛ばしたのぉっ!?」


 私はそんな奇行に走った張本人のメドにホバーで近づく。


「何って?ワタシはただいつも通りに――」


 そんなメドは何故かキョトンと不思議そうな顔をしていた。

 何かワタシした?みたいな。


 にしても、良く分からない事を言ってる。

 いつも通りって、人ひとり吹っ飛ばすのが?


「な、何って、何でロリ男にあんな事したのぉ!握手してたんじゃなかったのっ!!ロリ男戦ってもいないのに、もう2回も吹っ飛ばされてるよっ!もうボロボロだよぉ!!」


 まぁ、その内の1回は私だけど……。


「あくしゅって何?フーナさま」

「へ?」

 握手知らないの?


「ワタシはドラゴンの挨拶で返しただけ。そしたらあの男が吹っ飛んだ。ワタシはそんなつもりなかった」

「え、それって――――」


 ドラゴン特有のコミュニケーションの取り方があるって事?


「そ、それってどうやるの?手を握って投げ飛ばすの?」

「ん、なら実際にやってみる」


 そう言ってメドは私の前に近づき、手を握る。


 かと思いきや、


「へっ?」


 私を軽く抱き寄せ、お互いの首筋に合わせてスリスリしている。

 メドの温もりと匂いが私の頭を急激に沸騰させる。


「ちょ、ちょっとメド、こ、こんなところでっ!」


 「みんな見てるよっ」と言いながら抱きしめ「クンカクンカ」する。

 肺いっぱいにメドの成分(体臭)を取り込む。


「はっ?」

 ってこれ何か違くない?


 どうやっても私は吹っ飛ばないよね?ロリ男みたくは。

 これで吹っ飛ぶのは私の理性だけだよね?


「あ、あのメドこれって?……」

「ん、これがメス同士の挨拶」


 メス同士?


「じゃ、じゃあ、オスもあるの?何か違うの?」


 私は非常に名残惜しいけどメドから体を離して聞いてみる。


「ん、オスは翼どうしを合わせて払うの」


 と私の手に触れて、すぐさま「パン」と弾く。

 チョットだけズシリとした。


「こんな感じ」

「………………」


 なるほど良く分かった。

 と、言っても深い意味までは分からないけど……


 同性には首を擦り付けて、

 異性には翼を合わせて弾く。


 それでロリ男は異性だから翼の代わりに手で払ったんだ。

 そして堪えきれずに吹っ飛ばされたんだ。


 メドは人型になっても力はドラゴンのまま。


 加減が難しいから面倒って言ってた。

 屋敷の物を壊しちゃうからって。



「なるほどね……」


 私は冒険者ギルドの人たちに介抱されている

 ロリ男を見てそう思った。



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