第13話連れさられるメドと青いドラゴン




「え~~と『すとれーじまじっく』?」



 メドが私の為に用意してくれたご飯が、腕の中に消えていく。



「おおっ! 便利だねこれはっ!」


 私はメドを追いかける前に、試しに使った魔法。

 それはこの『収納魔法』だった。


 どういう仕組みかは分からないけど、魔力量に応じて収納できる量が決まるらしい。それが重さなのか、面積なのかは記載されていなかったから分からない。


「そこら辺は、後で検証してみよう」


 そんな訳で、せっかくメドがご飯を準備してくれたんだから、後でゆっくり食べようと思って『収納魔法』に保管しておいた。


 もしかしたらお屋敷ごと収納されちゃう?

 なんて冷や冷やしたけど、さすがに大丈夫だった。


「ん、お屋敷って収納できるの? まぁそれも後で確認だね」


 一先ずまたメドを探しにお風呂場を出る。



「メドぉ~~っ!!」



 叫びながらエントランスまで戻りメドの名を呼ぶ。


 もちろん浮遊魔法の『ほばー』は使用したままだ。

 じゃないと私は亀より遅い歩みになるだろうからだ。



 ズズッ――――――――ンッッッッ!!!!


 グラグラッ



「えっ!? な、なにっ?」


 大きく地面が揺れる衝撃と同時に屋敷全体も揺れ動く。



「そ、外かなっ!?」


 その何かの大きな衝撃音は、この先の外から聞こえてきた。

 玄関を抜けた大きな庭のある屋敷の外だ。


「な、なにっ??」


 嫌な予感がしながらも玄関まで浮遊して向かう。

 そしてその無駄に豪華な、外に続く扉を開ける。



 そこには――――


「えっ!?」


 大きな、いや、屋敷よりも巨大な群青のドラゴンがその存在をアピールするかのように、大きな翼をはためかせていた。そして今にも飛び立とうとしている。


 その青いドラゴンはメドのドラゴン化と同じくらい。

 恐らく50メートル級の大きさだった。



「メ、メドっ! な、なんでっ!」



 私は慌ててメドの名前を叫ぶ。


 何故なら飛び立とうとするドラゴンの手、そこにはメドが握られていたからだ。



『ナンダ、キサマは』


「メドっ! どこに行くのっ!!」


 群青のドラゴンが何かを言ったが無視する。


 今はそれどころじゃない。

 トカゲなんて、今は相手にしていられない。



「ごめんフーナさま。ワタシ負けた。このドラゴンについていく」


「負けたってなに? どういう事っ!? それとこのドラゴンはっ!」


「こいつはエンドの下僕。エンドに言われてワタシを――――」



『グハハッ! コイツはナニを考えてるのかニンゲンの姿で挑んでキタッ! チカラはオレよりも上だというのに馬鹿な奴ダっ! ダカラ勝負のルールーにシタガッテ、オレが連れていく。グハハッ! 馬鹿なメスだッ!』



 聞いてもいないのに、群青のドラゴンはペラペラと話し始めた。

 お陰でなんとなく事情が分かった。


 でもその前に確認しないといけない事がある。



「ねえっ! メドは『END』て奴のところに行きたいの?」


 ドラゴンの手の中のメドにそう尋ねる。


「ワ、ワタシは負けたの。だから行く」


「メド違うよっ! そうじゃないよっ! 『メドがENDのところに行きたい』か『私と一緒にいたいか』そういう意味だよっ! どっちなのっ!」


「ワタシは――――」


 メドはこのドラゴンの話だと「人間の姿で」勝負したって言っていた。

 その内容はわからないけど、メドはきっと私が言ったことを覚えていたんだ。



 (私が人間だから、メドも合わせてくれなきゃダメだよね)



 そう言ったことを、こんな状況でも守ってくれていた。



「そのせいでメドは――――」


 きっと負けたんだ。

 その勝負に。



「メドどうなのっ! 私と一緒じゃ嫌なの? ENDがいいのっ!」


「ワタシ、フーナさまと一緒に―――― いたいっ!」


「うんっ! わかったっ!」


 タンッ


『ハァッ!? オマエらはいったいナニを言っているのだ? 勝っタのはこのオレだぞっ! オマエみたいなニンゲンなんてカンケイないだろッ! ジャマだからヒネリ潰し―――― ウギャッッ――!!』


 ガバッ!


「よっと、大丈夫メド?」


 腕の中にいるメドにそう聞いてみる。


「ん、フーナさまありがとうっ。でもあいつは?」



『グオォォッッ、キ、キサマッ!』


 群青のドラゴンは大きなお腹を抑えて、私とメドを睨んでいる。

 50メートル級のドラゴンが、人間の一撃で苦しんでいる。


 

 メドが私と一緒にいたいと返事してくれた時に、ちょっとジャンプして杖で「ドスッ」とボディに一発入れていた。


 そしてその痛みで離したメドを、私がキャッチしただけだった。



『キサマ、エンドさまとオレに逆らうノカッ! ダッタラキサマもっ!』


「ちょっと待ってっ!」


 怒り狂う群青のドラゴンの言葉を遮って、後ろのお屋敷に振り返る。



「『すとれーじまじっく』 よしこれでOKっ!」


 収納魔法で私のお屋敷を丸ごと収納する。

 そしてそこには、ただ広いだけの空き地が出来た。


 と言っても、お庭とか庭園とかはそのままなんだけど。

 あれは収納できるかわからなかったから。



『なァっ! あの大きさをマホウでだとッ!』


 その光景を目の当たりにして、驚愕する群青のドラゴン。



「ん、フーナさま凄いっ!」

「えへへ。まぁねっ!」


 そしてその前では、メドに褒められる私。


 おおっ! 珍しくメドが少し驚いている。気がする。

 もしかして収納魔法を見たのは初めてだったのかな?



 続いて更に魔法を唱える。


「『まじっくどーむ』」


 次なる魔法で、今度は私たちとドラゴンを閉じ込める。


 お屋敷を収納したのは壊したくなかったから。

 ドラゴンを閉じ込めたのは、周りを気にしなくてもいいようにだ。



「さあ、こっちの準備は出来たよっ! だからかかってきなよ大トカゲっ! 私のメドを連れ去ろうとした事は絶対に許せないんだからねっ!」


 おあつらえ向きの戦場を作った後でそう挑発する。



『た、たかが、収納魔法が得意なダケの人間風情ガっ! ならオレの攻撃をウケてみろォ――――っ!!』



 群青のドラゴンは咆哮すると共に、巨大な口から氷の霧を放射する。

 ブリザードブレスと呼ばれるものだ。


「んっ! それぐらいわたしの魔法でっ!」


 メルウちゃん装備の杖を前に出して魔法を唱える。


 氷に対抗するにはやっぱり炎だっ!


「いくよっ! 『とーち』」


「フーナさま。それは火を灯す魔法。蝋燭ろうそく松明たいまつの」

 

 魔法を唱えた後で、メドがそんな事を言ってくる。


「へっ?」


 それを聞いて、間の抜けた声が出てしまう。


「え? ひ、火が出ればなんでも一緒でしょっ!」


 構わずにそのまま発射する。

 このままだったら、私たちが危ないからだ。

 また凍りたくもないし。



「いっけえ~~っ!!」


 杖を突きつけすぐさま発現した、火を灯すだけの魔法。



 それは――――


「わっ!?」

「んんっ!?」



 ゴアァァァァ――――ッ!!!!



 巨大な群青のドラゴンはよりも大きな「火」だった。


『う、ウわあァっ! 押され――ッ!! うがァァッ!!』


 ジュッ


 それはドラゴンの吐いたブリザードを軽々飲み込んだ。


 そしてその勢いのまま、

 ドラゴンの姿までをも飲み込んだ。


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