第9話ドラゴンとの戦い再び幼女ver




『勝負で勝ったら』



 なにそれ!?


 要するに……


『やりたい事は勝手にやって、嫌なものは力で屈服させろ』


 てことだよね?


 なんか思ってたご主人さま像と違う。

 種族としての考え方が、そもそも違うって事?


 でもこれじゃ、お風呂にしてもメドが嫌だって言ったら、いちいち勝負しなくちゃならないじゃん。ご主人さまの意味ないじゃん。



 そう言う力づくの上下関係なんて――――


『ま、まあ、嫌いじゃないかも?』


 だって勝負に勝っちゃえば同じ事だろうし。



 その前にメドに確認したい事があったんだ。


「ねえ、メドあのね?」

「そう言えば、メドってワタシ?」

「え、そうでしょう? 違うの?」


 なんで今更?


「初めて呼ばれた」

「あっ!」


 そ、そうだよねっ!


 なんか勝手に呼んでた気がする。

 メルウドラゴンちゃん。略して『メド』って。


「そ、そうっ? 嫌なら違う風に呼ぶけど」

「別にいい」

「そ、そう、それなら良かったっ!」

「ん、それでいい」


 コクと頷いたメドは、わかりずらいけど微笑んでるように見えた。


『か、かわいいっ!』

 

 微かな笑顔を見てドキドキしてしまう。

 もしかして、ご主人さまに名前を付けて貰った感じで嬉しいのかな?



 それよりもまだ大事な確認が。

 その返答によっては、私の将来が変わる大事な質問だ。



「え――と、メドって私の事きらい?」

「普通」

「そ、それじゃ! 好き?」

「嫌いじゃない」

「そう………」


 う、う――ん、なんか要領を得ないね。


 まるで、彼女が彼氏に手料理を作ってあげて「ねえ、美味しい?」と聞いたのに「不味くない」て答える彼氏みたいで「一体どっちなのっ!」て感じ。


 でもそれも仕方ないよね。


 私はメドの森を破壊して、尚且つボコボコにしちゃったし、大きな屋敷も奪われた感じなんだから。むしろ好きな方がおかしいんだよ。きっと。



「あ、あのさ、メド、さっきの勝負の事なんだけど」


 私は諦めて最初の話に戻す。


「何?」


「メドはさぁ、わたしとこれから一緒にいるんでしょう? だったら私は人間なんだから、メドもそれに合わせてくれなきゃダメだよねっ」


 正論言って攻めてみる。


「ん……………」


 お、考えてる考えてるっ!

 これは脈ありかも?


「でもそれは別」

「そう……」


 気のせいだったみたい。


「それじゃなにやって勝負するの? またケンカみたいなのは嫌だよ?」

「ん、腕相撲やる」

「えっ!?」


 なんか予想に反して平和そうなのきたっ!


『ん?』


 でも待てよぉ。



「もしかして、メドはドラゴンになってするの?」


 そう。メドは本来の姿はドラゴンなんだ。

 あの大きな姿で腕相撲したら、力うんぬんよりも物理的に勝てない。



「違うこの姿のまま」

「え、でも、その姿だと弱くなっちゃうんじゃないの?」

「ならない。だから面倒って言った」

「え、なんで面倒なの?」

「力が変わらないから、人間の作ったものすぐに壊してしまうから」

「あ」


 私と視線を外してそう答えた。



 なるほど。

 私と一緒で力が制御できないんだね。


 ただ私の場合は本来人間だし、何となく物の強度がわかるから、メドよりはまだいいのかも。



「こっちきて」

「え?」


 メドは私の手を引き、外のお庭に案内してくれる。

 そこは丸い屋根のテラスと、大きな白いテーブルがあった。


 そしてそのテラスの周りには、名前も知らない色とりどりの綺麗な花々が咲いていた。

 一体だれが手入れしてるんだろう。


『ん~、メイドのドラゴンとかいたりするのかな?』


 何てちょっとだけお庭を見て期待してしまう。

 しかもそれが幼女だったらな、と。



「ここでする。これ頑丈だから」


 何て、妄想しているとメドが手を放す。


 そして白くて細い腕をテーブルの上に載せる。

 そこは大理石みたいなもので出来た頑丈そうなテラスのテーブルだった。


 そんなメドはすでにやる気満々で、腕相撲の構えを取っている。


「よ、よしっ! 勝負だっ!」


 気合を入れて腕まくりをし、メドの白くて小さい手を握る。

 メドの方がちょっとだけ大きかった。




「1回勝負」

「う、うん」


 私は緊張する。


 もしこれに勝ったらメドは私の抱き枕。

 「むにむに」「ぷにぷに」の抱き人形。


 あんな事や、こんな事まで付いてくる。



『うううっ、絶対に負けられないっ!』


 ゴクッ


 緊張のあまり喉を鳴らす。

 うるさいくらいに心臓の高鳴りが聞こえる――――。


 ドクン ドクン


「フーナさま」


 びくっ!


「えっ? な、なにっ!?」


 突然の事で、上擦った声で答えてしまう。



「なぜワタシの手、さわさわしてるの?」

「え? あっ! ご、ごめんっ!」


 き、気付かなかった。

 自然とその可愛い手をにぎにぎしていた事に。


 それは本能だろうか?


 なぜ山に登るのか? そこに山があるからだっ!

 みたいに、幼女の手がそこにあるからだ。


 な、ノリなのかもしれない。

 いやきっと違うな、恐らく煩悩の類だろう。



「よ~い」

「え、えっ!?」


 なんて、また突然に開始の号令が始まる。


『ま、まだっ! 心の準備ができてないってっ!』


 ま、待ってっ!

 ちょっと待ってぇっ!


「あわわっ!」

「どん」

「うわぁ~~~~っ!!」


 ブンッ!


 号令と共に、反射的に思いっきり腕を腕を倒す。


 ドゴオォ――――ンッ!!


 メドの手は、あまり抵抗を感じる事なくテーブルに激突し、叩きつけた轟音が耳に入る。


 更に、


「うっ」

「え?」


 バキッ!

 バキバキバキバキッッッ!!


 ズズズズズゥゥゥゥン――――


「…………」

「…………」


 大きな音と地鳴りみたいな響きとともに、メドの手を力任せに叩きつけた私の力は、大理石みたいなテーブルを真っ二つにしただけでは留まらず、更にその下の地面までも割いていた。



「ま、負けた」


 状況を把握し、ガクっと膝をつくメド。


「ワタシはフーナさまと一緒の寝室」


 そして膝をついたまま、私を見上げて宣言する。

 なんかちょっとだけ悔しそうで、瞳がうるうるしている。



「………………」


 うれしい。

 うれしいんだけど――― 


 ちょっとだけ、罪悪感が。


『あ、あの幼女女神っ! 一体どれだけ私の力を増し増しにしてんのっ! なんか理不尽だよ! メドが可哀想だよっ!!』


 ガックリと項垂れるメドを見て、心からそう思った。


 でも、それでメドの抱き枕化が、帳消しになるかと言えば――――



 そうはならない。



 だって『それは別』の話になるのだから。

 

 メドが私に言った言葉だった。



 そしてメドの抱き枕化が決定した瞬間だった。



「まあ、メド。きっと次は勝てるからあんまり落ち込まないで」


 メドの肩をポンポンと叩いて慰める。


「ん、次は勝つ」


 そう言ってグッと拳を握るメド。


 どうやら次の勝負もありそうだ。

 落ち込んでもいなかったから安心した。



『さあ、次は何を賭けて勝負しようかな? 腕相撲ならもう勝ち確。なんとか次の勝負も腕相撲に持ち込もうっ! そして、ウシシッ!』


 煩悩満載で悔しがるメドを見下ろす私。


 まだまだ私の野望は終わらない。

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