第19話 電信柱の発見
待ち合わせ場所に戻ってみると、今井はすでにいた。
「成果は得られなかったね。まあ、そう簡単にはいかないか……」と今井は言った。
「そうですね、地道な作業にはなりますが。……そもそも、犯人は他の場所では猫を殺していないのかも知れませんし」
「それだとどうするの?」と今井は心配そうに言った。
「別の手を考えます」と俺は言った。「今は、可能性が少しでもあれば確かめていきたいんです。解らないことが多いので」
「なるほどね……。まあ、今日は帰ろうか」
「はい、そうしましょう」
俺たちは駅に向かって歩き出した。今井は疲れたと呟き、ぐっと伸びをした。
ストレス発散による犯行だとすれば、他の場所でも殺しをしていても可笑しくないという考えは、悪くはないはずだ。初犯が学校というのは、考えにくいだろう。
ならば、動機はストレス発散ではないのだろうか──?※
俺が顔をしかめ考えていると、今井は言った。
「なんだが、悩んでるようだね」
「ええ、さくらのためにも早く解決せねばなりませんから」
「ごめんなさいね……」
「どうしてあなたが謝るんです」
「だって──あれ?」
と、そこで今井は立ち止まると、ぐっと目を凝らし、電子柱を見つめた。正確にいえば、電子柱に貼られてある紙を。
「どうしたんです」
俺も今井のそばに近づくと、その貼り紙を見つめた。紙はA4ほどの大きさで、雨で剥がれないようにファイルしてあった。
大きな文字で『迷い猫を探しています』と書かれ、その下には猫の画像が貼られていた。画像は少々荒く、猫は横を向き、顔だけはこちらにむけていた。薄茶色で左耳と尻尾の先端だけ白かった。画像の下には、名前や年齢、特徴などが書いてある。名前は、ミヤというらしい。飼い主の連絡先と住所もそこに書かれていた。
今井はこの貼り紙に指をさすと、
「もしかして、これなーちゃんなんじゃない……」
「なに!」俺は思わず声を上げた。
「さくらから聞いた特徴と、なんだか似てもの。きっとそうよ」
俺は顔を近づけまじまじと貼り紙を見た。
「確かに、そうかも知れない……」
そう言うと上体を戻し、顎に手をやり腕を組んだ。
盲点であった。
飼い猫という点を考慮していなかった。確かさくらは野良猫と言っていたはずだ。首輪もしていないし、さくらも野良と勘違いしてたのだろう。思えば、この猫は人懐っこいと言っていた。その時に飼い猫という線も考えておくべきだった。ヒントはあったのだ。
くそう、と俺は思わず呟いた。
「どうしたの」と今井は心配そうに言った。俺は気にしないでくれと手を挙げた。
そうしてもう一度顎に手をやり、黙考した。
飼い猫となれば、状況も変わってくるだろう。もし犯人が飼い猫と知っていたのなら、“飼い主への怨みよる犯行”という線も出てくるのだ。
これが解ったのは大きい。ただのストレス発散ではなかったのかも知らないのだ。怨みによる犯行と考えた方が、リアリティーがあろう。
動機が解ったのなら、それに当てはまる人物を探っていけばいいのだ。これは大きく捜査が進む。今度はにやりと笑った。
「一度、この飼い主を当たってみます」と俺は言った。「おかげさまで、大きく捜査が進みそうですよ」
「ほんと!? 良かった。今から行くの?」
俺は貼り紙を剥がすと言った。
「ええ、行ってみます」
「でも、わたし──」
「門限があるんですよね。飼い主のところへ行けば、その時間が過ぎてしまうかも知れない。大丈夫、俺一人で行くので気にしないでください」
俺は手に持っている貼り紙に目を落とすと、電話番号と住所を再度確認した。住所は、学校から数軒離れたところだった。なるほど、だから猫はよく学校にやって来たのだ。
「駅まで、送って行きますよ」と俺は今井を見やると言った。
「ううん、一人で帰れるからいいよ」
「日も落ちてきましたし、大丈夫ですか?」
「うん、人通りの多いところを選んで帰るから。夢野くんは、紳士だね」
「綺麗はお嬢さんを一人で帰すわけにはいきますまい」
今井は声に出し笑うと、じゃあと手を挙げ駅に向かって歩き出した。
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