第17話 自身の家族

 コンビニ弁当を買ったあと、俺は薄汚れた木造アパートに帰ってきた。


 アパートの錆びれた階段を上がると、扉を開け中に入った。玄関には、まだ親父の靴があった。機械油で黒く汚れた靴だった。

 靴を脱ぎガラス戸を開けると、親父は作業服に着替えていた。これも油で汚れ、何日も洗っていないため酷い異臭を放っていた。親父は俺の方をちらりと見ると、すぐに興味なさそうに顔を背けた。


 俺の親父は、若いころに背中に彫った刺青が今でも自慢なチンケな男だった。酔うと何度でもこう話してくる。

 俺の背中には観音さまがいるんだ! 誰もが俺をビビりやがる。なのにてめえときたら……、お前も俺の金で飯を食わせてもらってるんだから、もっと俺を敬ったらどうだ! クソガキが。


 テーブルの上には、缶ビールの空き缶や中身のないコンビニ弁当が散乱していた。俺はキッチンに向かいゴミ袋を持ってくると、空き缶と燃えるゴミにわけ捨てた。親父はそれを見ると舌打ちした。嫌味たらしく見せつけるんじゃねえよ。こう思っているはずだ。


 俺はゴミ袋をキッチンに戻した。キッチンには既に一杯になったゴミ袋が二つあった。一つは缶ビールと缶コーヒーでパンパンになっていた。底のどこかが破けているようで、床に液体が漏れていた。

 雑巾でそれを拭くと、流し台へほうった。流し台も、何日も洗ってない食器でいっぱいだった。俺はスポンジを持つと、水に濡らし洗剤をつけ黙々と洗い出した。


 着替え終わった親父は、車のキーを持ち外に出ようとしていた。

 俺は言った。「このあたりで猫が殺されたとか、訊いたことない」

 親父は鬱陶しそうに振り返り、

「さあ」と一言いうと出ていった。俺たちのあいだには、行ってきますも行ってらっしゃいもなかった。


 俺は手を洗い水道を止めると、冷蔵庫を開け缶コーヒー取り出した。

 一気にコーヒーをあおると、コーヒー缶を見つめた。なんとなくだが、親父が酒に依存しているわけが解った。解りたくはなかったのだが。

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