第40話 協力

 ゴミ拾いはどれほどゴミを集めていようがいまいが、18時までには終わりということにしていて、後1時間ほど残っていた。

 俺は公園のゴミは大体拾い終えたので、他の箇所を手伝いにでも行こうかと考えていた。

 他の場所…真っ先に思いついたのは会長が担当していた商店街の方だった。


 ゴミを拾いつつ、その商店街の方へと俺は向かっていった。

 色々な店が並ぶその商店街に着くと、人がそれなりに歩いていた。こんな場所なんかは基本通らないようにしている、こういった人が多い場所は苦手だ。なるべく通行人と接触しないようにして人を避けながら目立たないように端の辺りのゴミを拾いつつ会長を探していた。


 すると、子供の泣き声が聞こえてきた。

 気にはしていなかったが、その泣き声のする前方を見ると、そこには会長の姿が見えたのだ。

 会長は軍手などはめていなくて、ゴミ拾いの一式の道具を身につけておらずに、その泣いている小学生低学年くらいの女の子をあやしながら手を繋いで歩いていた。

 ゴミ拾いをせずに何をしているんだ…。


 すると、一人の30代くらいであろう女性がそちらへと小走りで駆け寄っていた。周りの雑音で聞こえないが、何か言いながらその子供を引き渡していた。

 どうやら迷子の親を探していたみたいだな。


 それから、会長はすぐ側の路地裏の方に入って行った。それを追うように俺はそちらの方へと向かった。

 そして、そこを見ると道具一式を身につける会長の姿があった。

 すると、会長は俺の存在に気付いていてこちらを向き、びっくりした表情をしていた。

 

 「影井君!?どうしてここへ…?」

 「…いや、ここを手伝おうかと思ったんですが…何していたんですか?今、子供と一緒にいましたよね」

 「見ていたのね…。一人めそめそと泣いていた子供がいたからね、話しかけたら迷子だと言うの。だから一緒に母親を探してあげていたの」

 「ゴミ拾いは…どうしたんですか」

 

 会長の持っていたゴミ袋には少量のゴミしか入っていなかった。


 「ごめんなさい…まだ、あまりできていなくて」


 会長がまともにやらないわけがない。何か理由でもあったはずなんだろう。


 「何か…他にしていたんじゃないですか」

 「…うん。私がまずここに来てからね、なんだか道に迷っている様子のおばあさんがいたから、道を案内していたの。それから重そうな荷物を持ち歩いている女性がいたから、それを手助けしてあげて、それから———」


 そんなことだろうとは思っていた。本当にお人好しがすぎる。

 そんな話している最中、会長は俺の後ろを見て何かに気がついたような顔をしていた。


 「影井君ごめん、ちょっと待っててくれないかな」


 もう一度、その道具を置いてから俺の後ろを通り過ぎていった。

 そして、後方のそちらを見ると鉄の大きめなゴミ箱の中を漁るスーツ姿の顎髭を生やした中年男性がいた。


 「どうかされましたか?」


 会長は迷いなくその男性に話しかけていた。

 よくもまぁ、こんな状況で話しかけに行けるものだな。

 その男性も、突然女子高生なんかに話しかけられたものだから驚いた表情をしていた。


 「いやぁ、誤ってここへ捨ててしまったんだよ、大切な書類の入った封筒」

 「大変!探し出さなきゃ!」


 会長は躊躇いなくそのゴミの中へと手を突っ込んでいた。

 なんで大事なものをそんなところへ捨ててしまったんだ…いや、そんなことより会長はどうしてそうすぐに首を突っ込んでしまうんだか…。


 「いやいや、いいよ。なんなの、君」

 「私は音無高校という学校の生徒会長です。ゴミ拾いのボランティアをしていました。こういうことに協力することもその一環だと考えています。協力させていただけないでしょうか」

 「音無高校の生徒会長…?」


 何を言っているんだ…もはや学校の生徒でもない、今出会っただけの赤の他人だろう。


 「申し訳ないから、その気持ちだけ頂いておくよ」

 「でも…」

 「…会長」


 俺は会長の後ろまで近づいて呼びかけ、会長はそのゴミ箱から手を引いてからこちらを向いた。


 「影井君…」

 「当人もこう言っているんですから…そうしましょうよ」

 「だけど…」


 そして悲しい目をして、再び探しているその男性を見ていた。


 これはもう、どう言い聞かせようと会長はここから動こうとしないと思い、俺は溜息をついてから、そのゴミ箱の方へと手を突っ込み、その男性と同じようにして探した。


 「君まで…どうして」

 「自分も生徒会の一人です、話は聞いてました。探させてください」

 「…いいと言っているのだがね」


 そうは言いつつも会長の時とは違い、特に反対されることもなく探すのを手伝わせてくれた。


 「影井君…!どうして…私が話しかけたからで…影井君がやる必要は…」


 そう思うのなら反省してくれ、無闇に話しかけたのが悪いのだからな。

 会長も、そのゴミ箱へと手を出そうとしていた。


 「やめてください、汚れますから」

 「それは影井君も同じで…」

 「生徒会長さん、ここはこの子にカッコつけさせてあげてくださいよ。男の子なんだから、ねぇ?」


 その男性はそんなことを言った。いや、別にそんなことでやっているわけではないのだがな…。

 だが、会長はそこから退くことをせず、ゴミ箱に手を入れて探すのをやめなかった。


 「影井君も一緒に手伝ってくれても構わない。でも私にも手伝わせて、お願い」


 その言葉に俺は無言で頷いた。その男性も、何か言うわけでもなく探すことを続けた。


 そして、周りからは一体何しているのだろうと変な視線も浴びたが、それを無視して探し続けた。


 「あ!こ、これじゃないですか!」


 会長が奥の方から見つけ出した、その少し汚れたA4サイズの茶封筒を見せて、その男性はそれを手にして中身を確認して、表情を緩ませて喜んだ顔をしていた。


 「これだ!うわー!よかったぁ。君達にはなんてお礼をすればいいんだか」

 「いいんです、こちらから好きでやっただけですので」


 俺は好きでやったわけでもないんだがなぁ…。


 「ごめんな、今急いでるんだ。でも君達、音無学校の生徒か、それならいつか恩を返せる時が来るかもしれない。その時にまた会おう!」


 そんな言葉を言い残して早歩きでどこかへ行ってしまった。

 また会う機会がある人物なのか…?


 「どういうことかしら…。…それより影井君、ありがとう。巻き込んでしまい…それに付き合わせてしまって…」

 「…人が良すぎますよ、会長。あんな見知らぬ人に話しかけるなんてどうかしてます」

 「だよね…また軽蔑するよね、私のこと」

 「…しませんよ」

 「…本当に…?」


 そう、もういいんだ。こんなことでは何とも思わない。慣れてしまったのかもしれない。これがこの人のノーマルなんだよな。

 過去に何かあったのか、それはわからない。だが人には色々事情があるものだよな。

 会長のこういった性格は良い部分ではあるんだ、それを否定したくはない。


 「ゴミ拾い、再開しましょうよ」

 「うん!…私はまだまだ全然拾えてないから巻き返さないと…集まらなかったら翌日…いえ、綺麗になるためには毎日でも本当は手伝った方がいいのかしら…」


 会長は、俺の予想していた通りの考えをしていた。


 「一人が動くことより、みんなで協力した方がいいんじゃないですか」

 「でも、みんなにも協力してもらうのは悪いし…」

 「こういうのって、俺達の動きでこの街の一人一人が汚さないようにと、少しは心掛けてくれるようにとの働きなんだと思いますよ。だから、何事も一人だけでやろうなんてしないでくださいよ」

 「そう…だよね」

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