思いがけない彼女の深層
Hiwatari.M.
第1話 出会い~平穏な日々
いつのまにか、ぼくは彼女とそういう関係になっていた。
と言っても、未だ手すら握ったことなどない。
ただ、同じ空間に居ること。
その関係をどう説明していいかは、ぼくは、まだわからない。
彼女と会ったのは、やたらと大きい百貨店の文房具売り場。
ただ楽しそうに、文房具オタクというのだろうか、ただならぬ思い入れがあるように見えた。
長い黒髪の高い位置のツインテール、本来ならこの時点で、そう、“痛い人”感なのだが、ぼくはその、ちょっとクールに見える端正な顔にツインテールが何故か似合っていて、すっかり見惚れてしまったのだ。
彼女は奇妙な形の文房具の使い方や便利さを切々と説いて居るのがとにかく楽しそうで、その笑顔がすごく綺麗で、見るたびに見とれてしまって、ついつい余計な、使わないかもしれない文房具を買ってしまっていたのだ。
すっかり常連になり通い詰め、それでも彼女は嫌な顔せず挨拶してくれていた。
たまにポニーテールの時もある。それもまたいい。
ストーカーだなこりゃ、気をつけないと。
「
苗字は名札で、下の名前は他の店員さんが呼んでたから。
直接聞いたわけではない。
聞ける勇気があったのなら、何もこんなに悶々とはしないのだ、ヘタレなぼく。
僕は相変わらず仕事帰りに立ち寄っていた。つまらない日常のオアシスだ。
帰っても一人暮らしの僕には何も待っていない。寂しくはないけれど、ちとわびしい。
頻繁に行きすぎるとバレバレだし、遠くから見るだけの時もある。
我ながら姑息なり。
ある時田舎の母親からご近所で取れたという野菜を山盛りに送ってきた。(これだ!)
まだ土の付いた野菜を袋に分けて、文房具以外の話をする作戦開始だ。
ぼくは他の店員さんから彼女が離れるのを待って、何もなかった様に平静を装い近付いた。
「あのおぉ」
「あ!いらっしゃいませ〜今日は何をお求めですか?」
「あ、いや、今日は、その、これを」
「え、」
彼女が一瞬固まった。しまった、まずかったか。
「田舎から大量に送られてきて、その、食いきれないし、他にあげる人もいないから……」
ぼくは少し焦りながら早口で言い訳を言い出すと
「これ、わたしが貰っちゃっていいんですか?すごーい嬉しい!」
「ええ、どうぞすみません」
なんか謝ってるし。
顔が赤いのが自分でわかるくらい、照れている。
営業スマイルでない笑顔もいい!
「それじゃ、ま、また来ます」
恥ずかしさMAXのぼくは足早に立ち去ろうとした。
「ああ、待って」
彼女がぼくの腕を掴んだ。ドキッとした。
「あの、お名前、教えてください。いつも来て下さっているのに…知らないから」
ぼく、名前を訊かれてる。
「えと、光澤です。光澤 涼太」
「みつざわさん!ありがとう。またここで待ってます。ずっと」
ずっと…いっそクソつまんない会社辞めてここで働きたい!無理だけど……
「は、はいまた来ます、泉原さん」
な、名前呼んでみた!呼んでみたよ‼︎緊張した〜
それからというもの、田舎から(じゃないものも含めてだけど)のお裾分け作戦を貰ったタイミングで行なっていた。
(そんなに物おくられてこないしね、たまにですよ)
そしたら、いつも貰うばかりで悪いのでと言って、あげた食材で作った料理だと言ってタッパに詰めて持って来てくれた。
まじか、早くも手料理ゲットだ。
その夜は久し振りの家庭料理を満喫した。
いつものスーパーで買った安弁当とは天地の開きだ。
何だか急接近!何もしてないのに自然に仲良く…なれた?のかな。
暫くそんな感じで、彼女の顔を見に行っていると、一緒に働く同僚のおばちゃんが、
「いつもの彼、来たわよぉ〜」
なんて茶化されて、お互い赤面して笑い合ったり。
「ごめんなさい、そんなんじゃないのにね。光澤さん」
「ああ、いや、何というかその、こちらこそすみません。居心地悪くさせてますかね?」
「そんな事ないですよ。嫌じゃなければ、いつでも来てくださいね」
「ありがというございます。なんかもう習慣になっていて、考え事して歩いてたら、いつのまにかここにいる事あるんですよ(笑)」
「あはは、やだ何それ(笑)危ないですよ、気をつけてくださいね」
彼女は面白そうにクスクス笑っている。この笑顔だけで白飯おかわりできるよ。
「そうだ、光澤さん」
「はいぃ?」我ながら間抜けな返事をしてしまった。
「いつも色々な物貰ってしまって、すごく申し訳なくて……」
「いえいえ、全くそんな事は。実はあまり炊事が得意じゃないので余っちゃうんですよ。気にしないで食べてくれた方が。勿体無いし」
「そうなんですか?じゃあ、わたしが作りますよご飯。迷惑じゃなければ!」
「え」
何ですか今の。空耳?女神のささやき?
「あ、迷惑だったかな。ごめんなさい」
少ししゅんとする彼女
「ホントですが?そんな嬉しいことがあっていいんでしょうか?」
にっこり笑顔の彼女がぼくの頬をつねった。
「いでで!」痛い。
また彼女がクスクス笑っている。
「夢じゃないでしょ?」
つねられたままのぼく。
「いたいでふ」
二人で笑った。
「折角の食材も一人で食べるのは味気ないわ。良かったら一緒に食べませんか?のお誘いでした。どう?」
「喜んで!」
多分これは“お礼に”という意味だろう。
過分に期待すると後々痛々しいからな。せめて今だけ妄想に浸らせて!
「早速なんだけど、わたし今日5時にはあがれるのだけど?お忙しいですか?」
いきなりの不意打ちで目が回る。こんな展開あり?
「ずっと、待ってます!」
「え、やだぁ、今からここで待つの?あはは、何時間も?(笑)」
そうか、今日は休日に来てたんだった。まだ真昼間だわ。
「あ、そうか、そうですよね。じゃあ、どこかで時間つぶしてまた来ます」
「急にごめんなさいね。じゃあ、また後で!」
ひらひらと手を揺らす彼女に見送られ…ん、待てよ、どこで料理するんだ?ぼくん家?
機材と言っても鍋1個、フライパン1個、包丁と一人用の土鍋くらいしかないぞ?大丈夫かなぁ
部屋が散らかってないか不安になり、ひとまず時間まで自分の部屋に戻る事にした。
慌てて部屋を掃除し、いい暇つぶしにはなったけど、彼女がぼくの部屋に?非現実的な光景だろうな。
などと妄想しているうちにいつもの百貨店の文房具売り場。
すでにユニフォーム代わりのエプロンを外し、私服の彼女が待っていた。
落ち着いた色合いの装いに、またいつもより大人びた彼女が美しい。
「ごめんなさい、待っちゃいました?」
「ううん、なんか周りに気を使われちゃって(笑)もう帰れ〜とか追い出されちゃいました」
「そうですか。なんかすみません」
「うふふ、なんで光澤さんが謝ってるのかな(笑)じゃ、行きましょうか」
「はい。あ、でも、あまりうちには機材揃ってないですけど」
「使い慣れている方がいいし、わたしの家に来ませんか?戸建で割と広いし。ボロ家ですけど(笑)」
「そ、そうですか、いいのかな。お邪魔して」
「どうぞどうぞ」
「じゃあお言葉に甘えまして」
ん、広いんだ、戸建?まさか家族がいるのかな?まさか旦那さん?
うへぇ、テンション下がってきた。
そりゃそうだよなぁ、こんな美人放っておかないよな。
「そだ、どうせならスーパーで色々買い足して、豪華にいきましょうか!」
「そうですね、欲しいものがあったら言ってください。ぼく運びますから」
「ホント?よし!今日は腕によりをかけて作りますか!料理って少し作る方が難しいし美味しくないのよね。食べてくれる人もいないしぃ?(笑)」
とぼくの顔を悪戯っぽく覗き込む彼女。
「え、いやぁ、幸せ者だなぁ、ぼく」
照れ隠しに頭をかいた。ん?食べてくれる人もいない?単身赴任とかなのかな?時間合わない職の人とか?
「あー、本気で言ってないでしょー、酷いな。」ちょっと拗ねる
「そんな事ないですよ、本気本気」
「優しいなぁー光澤さん。彼女が羨ましいです」
拗ねるフリをやめて笑顔に戻る。
「え、そんなの居ないですよ。食材あげる相手いないって言ったじゃないですか」
「ふぅ〜ん、そうなんですね。じゃあ、今日はわたし独り占めですね」
「はい、独占です!」
何言ってんだぼくは(笑)クスクスまた笑われてる。
楽しそうにしていてくれるだけでもう心がいっぱいで、もうなんでもいいや(笑)
ぼくたちは最寄りのスーパーに入った。
近所では品揃えが良くて安いと有名なお店だった。
ぼくは積んであるカゴとカートを取りに行き、彼女に追従する形で後ろを追いかける。
「わぁ、なんだか新鮮!」
「ん?野菜がですか?」
ぷっと彼女が吹き出す。
「いえ、男の人がカゴとか用意してくれて、スーパーでお買い物する事が!(笑)」
「あぁ(笑)」
ただ買い物するだけなのに、今、ぼくの世界は輝いている!(大袈裟だろ)
「ぼくで良かったらいつでもお供しますよ」
彼女も楽しそうだ。雰囲気だけだけど、旦那さんとか居なさそうだな。
よし、チャンスあり!
「ねね、光澤さんはお酒飲める人?」
「ええ、お付き合い程度しか飲んだ事ないので限界わかりませんが、一応」
「折角だし付き合ってくださいな?スパークリングワイン♪」
「了解しました隊長殿!」
ぼくは敬礼してみせた。
「うむ、よろしい。付いて来たまえ(笑)」
彼女も調子をあわせてくれた。
色々なお酒が売っているお酒売り場で、彼女は瓶に貼られているラベルを見比べ、
白のスパークリングワインを一本カゴに入れた。
安いけどフルーティなヤツらしい。
銘柄の事はよくわからないからお任せだ。
色々食材やらつまみを放り込んで、レジに向かう。
最近のレジはセルフで、自分でバーコードを読み取って会計するシステムだ。
よくスーパーで弁当買うのでお手のものだ。
手早く会計の装置に読み込ませ右から左へ物を移す。
彼女が隣で袋詰めを行う連携プレーで、ツルッと会計を済ませると、袋をぼくが抱えた。
「あ、重いから半分持ちますよ」
彼女が手を伸ばそうとしたが、
「いや、これはぼくの仕事なんで、ぼくが持ちますよ。大丈夫です」
「なんかごめんなさい、じゃあカート片付けるね」
なんか新婚さんみたいだなぁなんて追加妄想開始。
瓶があるからそこそこ重かったけど、こういうのはぼくが持つべきだよね。
うん、お家にお邪魔するのに、何もしないわけにいかない。
「ここからそれほど遠くないので」
カートを片付けた彼女が申し訳なさそうにしている。
「大丈夫です。料理をご馳走になるのに、このくらいは」
「元はと言えばわたしが貰いっぱなしで……」
「じゃあ、おあいこって事で!」
「そうですね(笑)」
こういうところ、凄くいいなぁ。気は使ってくれるけど、すぐ笑いあえる。
こんな人とずっと居られる人は幸せなんだろうな。
10分くらい歩いたところで彼女は立ち止まった。
小さいけど庭があって、小ぶりな戸建の前だった。
「ここです、どうぞ」バッグから鍵を出し玄関の鍵を開けた。
もう既に暗くなっているが、家には電灯は付いていなかった。
彼女は入るなり照明スイッチを操作した。
「あ、お邪魔しま〜す」
誰も居ないというか、女性が住んでいるにしてはさっぱりというか、物が少ない。
「適当に座っててください。今度はわたしの仕事ですね(笑)」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせていただきます」
しばらくするとビールを持って来てくれた。
つまみにナッツ。
「料理これからだから少し時間かかっちゃうけど、一杯やっててください」
「すみません、何か手伝いますけど、簡単な事なら」
こちらが申し訳なくなって来た。
「いいえぇ、ここはわたしに任せてもらいますよ?ふふ」
彼女の料理が出来るまで、スマホいじったり、キョロキョロしたり。
リズミカルな包丁の音が軽快に走る。
意外と早く始めの一品が出来て来た。
「すげぇ美味そうな香りだ!」
「手抜き料理だけど、意外と美味しいんだよこれ」
野菜や色々な物の炒め物だ。
「まずは乾杯ね」
彼女もグラスを持ってきたので、そこへビールを注ぐ。
「えーと、何に乾杯?」
何気に聞いてみた。
「んー、なんだろ。そうだなぁ、出会いと、今日もお疲れさまで乾杯?」
「うん、賛成!乾杯‼︎」
カチャン
二人のグラスが触れて乾杯の音を立てた。
ビール飲みながらも彼女はキッチンに戻り、手早く料理を作ってくれた。
リビングに地べたに座るタイプのローテーブルがあり、次々とテーブルを埋めた。
「はぁ、頑張り過ぎちゃったかな?」
「稀に見るご馳走の山ですな」
「じゃあ、責任持って食べてねぇ。わたしの愛がたっぷりよ?(笑)」
おいおい、もう酔っているんじゃなかろうな、などと思いつつ。
「はっ!今日は泉原さんの貸し切りなんだった!ぼく頑張ります‼︎」
言った瞬間目を丸くしたかと思ったら、彼女は爆笑した。
お腹を抱えて笑い転げている彼女は、少女のようで可愛かった。
彼女の素朴な手料理は薄味だがどれも美味しくて、一緒に色々な話をしながら、と言っても主にぼくの事が多くて、こんな仕事をしていてとか、こんな変な客がいてとか、バカ話を楽しそうに聞いてくれていた。
買ってきたスパークリングワインも入り、彼女もほんのり赤い顔をしている。
まるで昔から知っている仲の様な錯覚をしてしまって、たっだ彼女の笑顔が見たくて話しを続けた。
彼女の酔った顔も美しくて。
ずっと続けばいいのに。
時を忘れて楽しい時間を過ごした。
「ほんとに今日は凄く美味い食事と楽しい時間をありがとうございます」
家族がいるかどうかわからないけど、少なくとも今この家にいるのは彼女だけだ。
図々しく居座るわけにいかないなと思い、言葉を切り出した。
本当はいつまでも一緒に居たかったけど、もうそろそろわきまえないとと理性を働かせてみる。
「え、まだいいでしょ?明日仕事ですか?」
たまたま2連休で明日も休みだった。
「いえ、休みですけど、もうこんな時間だし、泉原さんだって眠いでしょ?」
「優しいんですね。紳士なんだぁ」
「そんな事ないですよ。これ以上居たら帰りたくなくなっちゃいそうで」
「じゃあ帰らなくていいんじゃないですかぁ」
酔いながら抗議してくる。
「酔ってますね(苦笑)わかりましたよぉ、まったく」
難なくぼくの理性をノックアウト、ぼくの負けでした。
軟弱な理性であった(笑)
「わたしも明日はシフト入っていないんで……きゃっ」
彼女はゆらりと立ち上がったが、よろけてこけそうになる。
「あっ!危ない‼︎」
ぼくは言って支えようとしたけど、支えきれずもろとも倒れた。
幸いぼくが彼女の下敷きになる形だったので、彼女は無傷だ。
「ごめんなさい!大丈夫?」
ぼくの上に乗っかった彼女は慌てているが、動けずにいる。
「大丈夫大丈夫。痛いところない?」
「わたしこんなに飲んだの久しぶりで。楽しかったの。飲み過ぎちゃった」
ぼくの上で突っ伏す彼女。
すげぇ可愛いんですけど、どうすればいいんだ。
「ぼくの方こそすげぇ楽しかったです。今までに無いくらい」
「ホント?良かった。寂しかったのかな、わたし。光澤さんは色々優しくしてくれるお客さんではあるけれど、普通誘わないよね。ごめんなさい。」
「え、あぁ、でも嬉しかったのは事実です。ぼくで、良ければ」
「ホント、ジェントルマンだね。しっかりわたしの下敷きになってるし(笑)」
「怪我しなくて良かった!偉いぞぼく(笑)」
「あはは、自分で言ってる(笑)」
「自分で褒めなきゃ褒めてくれないもん」
また二人で笑い合った。彼女の重みが心地よかった。
その日は結局、彼女の家に泊めていただくことにした。
二階に寝室がある様だったけど、流石に覗くわけにいかないし、恥ずかしがっていたので、階段を踏み外さないように上まで付き添って引き返した。
リビングに戻ったぼくは何だか急に現実に引き戻され、バクバクしてきた。
好きになった文房具売り場の店員さんの自宅に上がり込んで、その日のうちにお泊り、何もないけど(笑)
これはぼく史上初の珍事だ。
いや、試練か?などと酔った勢いで支離滅裂な脳内がグルグルしていた。
グルグルしている間に、いつのまにか眠りの暗闇に落ちていった。
ぼくは何か違和感を覚えつつ眠りから少しづつ戻ってきた。
そうだ、彼女の家に泊まったんだっけ。
ただ転がっていた筈なのに起き上がると布団が掛けてあった。キッチンから料理の音が聞こえてくる。
「えーと、おはようございます…」
おそるおそる声をかけると、ポニーテールの彼女が振り返る。
「あっえと、おはようございます。昨日は、その、失態を(笑)」
「ん?何のこと?ですか?」
酔って普段見せない姿を見せたのが恥ずかしかったのだろう。
「ごめんなさい(笑)顔、洗ってきてください。朝ご飯もうちょっとだから」
「朝ご飯まで……いいんですか?」
「大したもの無いですけど〜」
ぼくは顔を洗って、急だったので歯ブラシなかったけど、買い置きがあるのでと彼女が出してくれた。
何だか益々新婚気分!いい奥さんになるなぁなどと妄想が止まらない。
ご飯、味噌汁、ベーコンエッグ、漬物って感じだが、いやぁ、日本の朝だなぁ。
「大したもの無いけど、召し上がって」
「いただきま〜す!」無駄に元気よくしてみた。
クスッと笑ってくれた。
取り留めもない雑談をしながらの朝食!何年振りだろ。
目玉焼きには何かける?とか、天ぷらには何かける?とか、何かけるかの話題で盛り上がった。
「ふぅ、ご馳走さま」
「お粗末様でしたぁ」
「すっかりご馳走になってしまって、すみません。これじゃ割に合わないですよね」
「ほんと、わたしも楽しかったから。何年振りかな、いや、男の人を連れ込んでなんてのは初めてですよ?」
「連れ込むって(笑)ぼく連れ込まれてたんですね!気付かなかった(笑)」
「もう!からかわないでくださいよぉ」
彼女が少しふくれて、また笑い合った。
「一人にしては広いですよねここ」
「あぁ、なんか訳ありみたいですよ?すっごく安いからここにしたんですけど。駅から近いしスーパー近くて便利だし」
え、まさか事故物件?
「あはは、なんか変な想像してません?」
「いやぁ、何か出るとか……」
「出ました?」
「ええ、美人の酔っ払いが!」
「もう!(笑)何かあったとか、そういうんじゃないみたいですけどね」
「そうなんですか」
「人がいるのってやっぱり安心出来ますね」
「そうですね、でもぼくのうちは壁が薄いんで、まさに人がいるって感じですけどね(笑)」
また彼女が笑っている。昨日に続き、何このご褒美タイム(笑)
「ホント夢みたいなひと時でした。楽しかったです」
名残惜しいけど、ホント居座りすぎだ。
「こちらこそ…良かったらまた、遊びに来てくださいな」
「ぼくでいいなら、喜んで。本気にしちゃいますよ?(笑)」
「絶対?」
「絶対!というか、もっとお話したいな」
「ありがとう。涼太さんって不思議な人ですね」
お?下の名前⁉︎
「え、変態は間違い無いですけど(笑)」
「変態なんですかっ!(笑)えと、男の人特有の壁を感じないというか。そんな感じです」
「そーなのかー。じゃあまずは、今度遊びに行きませんか?」
何がまずなんだろう。
「じゃあまたお弁当作って!」
デートなんて学生以来だぞ。しかもこの美人と!
「うわ!すげぇ楽しみです」
でもよく考えると仲の良い男の友達ができた〜という風にも取れるよね。
ぼく安全すぎですか?(苦笑)
SNSとか連絡先とかを交換して、その日は別れた。
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