その手は平和を掴む (3)
翌日。
撃墜騒ぎがあったにも関わらず、情報統制の成果か何事もなく1日が過ぎていった。
昨日のことなどなかったかのように、3人は仲良く食堂で朝食を摂り、訓練に励み、いつも通りの日課をこなした。
レミの元には花束が届けられた。彼女はそれを3つに分け、アイレーネとユニカ、そして自分の机に花瓶を置き、花を飾った。黄色い薔薇であった。
その日の夜。ユニカが眠ったのを見届けて、アイレーネとレミはこっそりと寮を抜け出した。
テーブルの上には書置き。
”ちょっと用事があるから、先に朝ごはん食べといてね。アイとレミより”
―――
「あの子たち、すごく強いねえ。ツァイデ」
「ええ、かなり派手に、でも静かに。模範的ですね、フェミア姉様」
夜闇に紛れて、高空から都市ハノーファーを見下ろす二つの影。魔法少女だ。白銀の鎧に身を包み、それぞれ砲と長剣を腰から下げている。
「でも、こんな悠長に眺めてていいんですか? 早くしないと守備隊全滅しちゃいますよ」
「もう少し待ってもいいんじゃない? クライアント的には良くないかもだけど」
眼下の光景を眺めて、口元に微笑を浮かべる。電源を遮断された都市は暗闇に閉ざされてはいるが、魔法少女の強化視覚はわずかな光にも反応する。
「見なさいツァイデ。未だに一人の死者もでてないみたい。大した腕だねえ」
「――私でもそれくらいできますよ姉様」
そう呟いて、格闘戦用に銃身を切り詰めた小口径レールガンを手に取り、ストックを展開する。
「待ちなさい、ツァイデ。一番マズいのは連邦政府が十分な戦力を保持した状態で戦争のための理由だけを手に入れることでしょ? 無人機が全滅するまでここで眺めてたとしても、明日の総会で叱られることはないんじゃないかな」
「フェミア姉様は、一体誰の味方なんですか」
「強いて言えば……あなたのような私の大切な妹たち。それから歴史の真実」
よくわからない、といった顔で視線を下へ戻すツァイデ。高く投げ飛ばされた車両が地面に激突し、眠っていた鳥たちが一斉に飛び立つ。
「あと10両ってとこかな。そろそろ支度を始めても良い頃だね」
「はい、姉様」
―――
翌朝、3つのニュースがアウストラシアを震撼させた。
RRW及びユゴナール社所属の魔法少女2名が、魔法少女システムと武装一式とともに脱走。格納庫の係員が共犯の疑いで拘束された。
ハノーファーとヒルデスハイムに駐留していた連邦軍の機甲部隊が所属不明の勢力による奇襲を受け壊滅。この戦闘は深夜、3時間にわたって行われ、連邦軍の損害は次の通り。戦闘車両(無人機を含む)247両。航空機(無人機を含む)42機。負傷者21名。死者0名。
襲撃者は2名とみられ、連邦政府の依頼を受けた武装組織『ポメラニアにおける聖ウルスラの孤児院騎士修道会』により、既に撃退されている。騎士団の公式発表によれば、2名のうち1名は戦闘により死亡、残りは捕虜として身柄を拘束中。捕虜の氏名はアイレーネ・アシュカ。
なお、この襲撃により連邦軍は一時的に戦闘能力を失い、これに代わって上記武装組織が安全保障任務を代行することとなった。
同日、上記ポメラニア騎士団は、連邦政府に代わりアウストラシアに対して宣戦を布告。
延べ数千人の死者を出すことになるゲルマニア内戦の始まりであった。
――その手は平和を掴む【終】――
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