大ハズレらしいが頑張って見ようと思う。
@kanoroku
第1話
20後半で会社を首になり、そこからは派遣社員として、工事で働いていた。
その頃からだろうか、毎日が同じになって行ったのは。朝会社に行き、帰りにコンビニで弁当を買い家に帰る。家でやる事と言えば動画を見たり、ゲームをしたり。休日は酒を呑み寝るだけの生活。
別にこの生活に不満はない。ただ時折思ってしまう。このまま時間を無駄に浪費するだけでいいのかと?もっとやる気になれば出来る事はいっぱいあるんじゃないかと。
でも思った所で体は動こうとしない。不意に駆られる不安など日常に流され消えていくのだから。「だから欲しい。何か自分を変えられるような大きなきっかけが。動かざる終えない自体が。」
ピピピ、ピピピ、ピピピ。
目覚まし時計の音で目が覚める、時刻は6時30分。
冴え切らない頭でテレビをつけ、重い体を何とか起こし、布団から出てベッドをソファー代わりにして座る。
テーブルの上に置いてある、タバコに手を伸ばし火をつける。
ここまでしてようやく目が覚める。テレビは朝くらいしか見ないから、チャンネルはいつも同じニュース番組だ。
何やら大きな事でもあったのか、キャスターの人は少し慌てながら、ニュースを伝えていた。
どうやら10年前に行方不明になった人が突然見つかったらしい。こうした失踪事件は何故か多々ある。でも見つかったのは今回が初めてだ。ニュースが言うには見つかった人は衰弱してる様子などはなく健康らしい、でも記憶が曖昧でハッキリした事は覚えてないんだとか。
特に関心があった訳ではないが、見入ってしまった、一通りそのニュースが終わり、時間を見てみると7時を超えていた。
俺は慌ててベッドから立ち上がり、歯を磨き、顔を洗い、服を着替える。
会社に行くだけだから、服装はほぼ同じ。
ジーンズに黒の無地のロンT。濃い緑のパーカーにお気に入りの革ジャン。変わるのは中のロンTの色くらいな物だ。
着替え終わり、家を出て会社に向かう。これが俺の日常。
30歳独身。三鹿 冰流の変わらぬ日常の筈だった。
***
王立フリアード・シュタイン学校。
過去の迷宮突破の英雄フリアード・シュタインが自分に続く若き世代の為に建てたこの学校では、16〜20の若者が迷宮攻略の為の知識と技術を学んでいる。
この学校は4年制で2学年に上がる事で迷宮探索の許可が与えられる。ちなみに言えば学校に通ってない物は迷宮に行けないのか?の問いに対してはノーだ。迷宮に行きたきゃ勝手に行けばいい。ただ知識も無しに迷宮に潜るのは自殺行為だが。
もう一つ。2学年に上がる時に使い魔召喚と言う儀式がある。学校側が用意してくれる召喚石と自分で用意した触媒を用いる。この触媒が良い物であれば、強力な使い魔を召喚出来るので、この学年に上がる生徒達は必死になっていい触媒を集めようとするのだ。
強い使い魔=迷宮探索が楽になる。からだ。
ここにも1人、いい使い魔を求める為に自分の全財産を叩こうとする物がいる。
***
召喚の儀式前日。
1人のローブを着た少女が出店の前で店主と話しあっている。
「お客様何をお探しで?」
明らかに悪そうな顔をした中肉中背の男だ。
「いい触媒が欲しい。」
ローブの少女は短く告げる。
「なるほど。そんな時期ですか、ならこれはどうですか?」
悪い笑みを浮かべた男はそう言って、一本の鹿の角のような物を取り出した。そして、そのまま説明を続ける。
「これはですね、聖域の迷宮の下層に存在する、聖鹿の角なんですよ。何でもこの角を持つ物はあらゆる災いから守られ、幸運は向こうからやってくる。なんて噂があるほど凄い物なんですよ。」
普通の人が聞いたなら明らかに嘘くさい店主の話しを少女は真面目に聞いていた。
「いくら?」
少女は疑いもせず、買う気満々だ。
「お嬢さんは運がいいね。今なら金貨15枚でいいよ。」
男は相変わらず悪い笑みだ。
しかしこの値段に少女は戸惑ってしまう。出せない事は無いが、有り金ほぼ全てなのだ。これを買ってしまえば3日と経たずにお金が底をついてしまう。
少し悩んでる少女を見て、店主は行けると踏んだのか、畳みかける。
「お嬢さんの懐も厳しい見たいだけど、これ買って強い使い魔召喚すれば、お金なんてすぐ稼げるんじゃない?迷宮ってのはそうゆう所だよ。俺も昔潜ってたけど、1日2日で金貨3枚は固かったからねぇ。対して強くない俺でもそれなんだ。この触媒を使えば、俺より強い使い魔は確実なんだよ?悩む必要ないんじゃないかなぁ?」
男は意地悪く、ニヤニヤと言った。
結局この言葉が後押しになったのか、少女はほぼ全財産を叩いて、この角を買った。それが只の角だとも知らずに。店主の男に騙されて。
騙されたと知らない少女は少しの高揚感と共に家路に着く。あれだけの買い物をしたのに、少ししか高揚感がないのも困りものだ。
「あらあら、こんな所で会うとは奇遇ですね。」
角を大事に抱えながら歩いてるローブ少女に声がかかる。
声だけで、誰だか分かるのかローブ少女の気分は少し下がっていた。
「急いでるから。」
短くそう告げ立ち去ろうとする。
しかし声をかけた少女は逃がそうとしない。
「いいじゃないですか、少しくらい。それ、触媒ですの?」
ローブ少女が大事そうに抱えてる角を指指し聞いていた。
「……そう。」
少しの間の後にローブ少女は答えた。
すると声を掛けてきた少女の取り巻き数人から笑い声と共に言葉が飛んでくる。
「見てあれ見窄らしい。」
「本当ね。あんな汚らしい角で何を召喚するのかしら?」
「そんな事言っては可哀想よ。ププっ。お似合いじゃない。」
それぞれが罵声を飛ばしてくる。いつもの事なので少女もあまり気にしてない。
「何が面白いんですの?彼女は彼女なりに必死に選んだ物なのですから、笑う理由などない筈です。」
声を掛けてきた少女はそう言って取り巻きの少女を黙らせる。何人かは不服そうな顔をしているが彼女には逆らえないのだろう、誰も反論が無かった。
「明日の召喚の儀式楽しみにしてますわ。まぁ、私の方が凄い物を召喚するのは決まっている事ですが。それではまた明日。」
そう言って取り巻きの少女を連れて、赤い髪をなびかせながら、帰って行った。
ローブの少女は一つだけため息を吐き、また家路に着くのだった。
翌日。
召喚の儀式は大聖堂で行われる為。シュタイン学校の二年生達は聖堂に集まっていた。
学長の長い話しが終わると召喚の儀式に移行する。
最初の1人が儀式を行う。
貰った召喚石と触媒を台の上に置き、両手を翳して呪文を唱える。
「召喚の儀にて来たる我の片割れよ。我の声に魔力に応じ、その姿を表せ。」
その瞬間、ボンっと音に台の上が煙に包まれる。
煙が徐々に晴れていくと台の上には狼が乗っていた。召喚を行った生徒は喜んでいた。狼の使い魔は頭も良く、強さもあるので当たりなのだ。
ローブの少女は羨ましそうな顔でそれを眺めていた。
その後も次々と召喚を行っていく。大鷹、大蛇、熊、ゴリラ。色々な物が召喚されていく。
中でも凄かったのが、六大貴族と呼ばれる4人で、それぞれ朱雀、青龍、玄武、白虎と伝説級の使い魔を召喚していた。因みにサイズはそんなに大きくはない。あまりに大きいと迷宮に潜れないからだ。
この4人の召喚のせいで、聖堂は大いに盛り上がってる。今まで下手な召喚をした人がいないのも原因の一つだ。
次はローブの少女の番。
ローブ少女が台に着くと番が少し盛り下がる。でも少女は気にせず召喚に集中する。
昨日買った角と召喚石を台に置き、祈る気持ちで呪文を唱える。
「召喚の儀にて来たる我の片割れよ。我の声に魔力に応じて、その姿を表せ。」
皆んなと同じようにボンっと音がなり、煙に包まれる。
徐々に煙が晴れてその姿が露わになる。
台の上に立っていたのは、ジーンズに濃い緑のパーカー、その上にお気に入りの革ジャンを着た20前後の青年だった。
ローブの少女はもちろん、聖堂の生徒達すら一瞬固まってしまう。
「えっ?何これ?」
俺は戸惑っていた。いつも通り家を出て、会社に向かってた筈なのに気づいたら何故か聖堂みたいな場所にいる。周りを見渡すと見慣れない制服のような物を着た若者が多数と、ローブを着た年配の方が何人か。
何故か俺は台の上に立っているし、周りもシーンとしている。このままでは何も分からないので、目の前で固まっているローブの少女に声をかける。
「ねぇ、君。これがどうゆう状況だか分かる?」
ローブの少女は俺の声で正気に戻ったのか、ハッとした感じで俺の顔を見てくる。
しばし見つめ合う。この少女は中々に可愛い顔をしている。内心で関心していると周りの人も正気に戻ったのか、声が掛かってくる。
「しっ、しっ、使用人だぁーー!!」
その男子の一言で聖堂中が笑いに包まれる。
「まじかよw初めてみたよ。」
「あー、腹いてぇー。大外れじゃん。」
「プッ、どんな触媒用いたんだよw」
「さっすが、落ちこぼれ。」
「ほんと期待を裏切らないわ。」
「そんなんだから勘当されんだよ。」
状況は上手く掴めないが、ローブの少女が馬鹿にされてるのは分かる。現に少女はプルプル震えている。
こうゆう時の対処法は色々あるが、俺が取った行動はこの場から去る事だ。台から降りて少女の手を引き、聖堂から出ようと歩く。
その間も心ない声は聞こえてくる。状況が分からない俺でさえ少しイライラする、これだから若者の集団は嫌いなのだ。
出口付近まで行くと、1人の赤い髪の少女の声が聖堂に響いた。
「黙りなさい!!彼女が彼女なりに一生懸命やった結果を笑う道理なんて貴方達にはない筈です。嫌いなら構わなければいいでしょう?何故陥れようとするのですか?それが貴方達の品位の在り方なら底が知れますね。」
会場が静まり返る。不満そうな顔の奴が多いが彼女の言葉に従う事にしたらしい。
「分かってもらえたなら結構。次の私の召喚を楽しみにしてなさい。」
態度こそは尊大だが、凄い奴だ。俺も思わず足を止めて聞き入ってしまった。赤い髪の少女が言った召喚とやらが気になるがこの場に長いするのは得策ではないので、足を動かし出口に向かう。
しかしローブの少女からストップがかかる。
小さな声で一言「みたい。」それだけ言って俯いてしまった。
とても弱々しいその声に反論出来ず、一番後ろの席に座って見る事にする。
ローブの少女は机に突っ伏し、顔だけをあげて前を見ていた。予想ってかほぼ間違いなく俺はこの少女に召喚されたのだろう。しかも大外れとして。勝手に召喚したのはローブの少女だが、少し申し訳ない気持ちになってしまう。
そんな事を考えていると、先程の赤い髪の少女の召喚が始まっていた。台の上に何かを置き、両手を翳して何か言っている。
音と共に台が煙に包まれる。煙が徐々に晴れて何かの影が見えてくる。とても嫌な予感がする。
煙が完全に晴れる。台の上に立っていたのは黒のスーツに黒のトレンチコートを着たメガネをかけた20代ぐらいの男性だった。
俺の時同様、辺りが静かになる。召喚をした赤い髪の少女は唖然としている。この後も俺の時と同じ。
誰か1人が声を上げ、その他が追従する。ここに関してはローブの少女より酷い言葉が飛んでいた。
「いつも偉そうな癖にハズレかよ。」
「何が頑張った結果だよ。」
「底が浅いのはお嬢様の方じゃんw」
「いつも家柄の事盾にして偉ぶってた癖にこれかよ。」
「ほんとだよ。実力は大した事ないのに。」
「あー、やっとウザいのから解放されるわ。」
「私の召喚楽しみにしてなさいw」
「プッ、楽しすぎるわw」
「こりゃ勘当でしょ、人生終了だね。」
赤い髪の少女は膝から崩れ落ち泣き出してしまった。それを見てさらに笑い声が高鳴る。
俺の隣のローブの少女は耳を塞いで机に伏せてしまった。この子と彼女の関係性も彼女の普段の事も知らない俺には口出し出来ない。やっぱり長いするのは良くなかった。
俺は席を立ち、聖堂の奥の方へと向かう。ローブの少女は気付かずに机と合体している。
召喚が行われる場所へと着き、台の上で動かないメガネの男に声をかける。
「とりあえずこの子運んで外でよう。」
声を掛けるとメガネの男はメガネはクイっとし、頷いてくれた。
赤い髪の少女は泣き崩れていて自分で立てそうにもない。どうやって連れ出すか考えているとメガネの男がおもむろに動き出し、赤い髪の少女の事をお姫様抱っこしたのだ。
これには赤い髪の少女も驚いたのか、泣きながらビックリしていた。でも抵抗する様子もないので、そのまま聖堂の出口を目指す。ヤジや罵声は止まらない。出口付近に着くと俺はローブの少女の肩をポンっと叩き、外に出ようと声をかける。
ローブの少女は頷き、席を立とうとするが、足が震えていて上手く歩けそうになかった。
しょうがないと思い、メガネの男に習いはしないが、背中を向けておぶってやる事にする。
ローブの少女は少し躊躇ったが自分でも歩けないのが分かったのか、受け入れてくれた。
待っていてくれたメガネの男と合流し、聖堂の扉を開け外に出ようとした時、メガネの男がクルッと回転し、聖堂の方を向いた。
「何が何だか理解は出来ませんが、1つだけ言える事はあります。貴方達は個では何も出来ない、人として大外れです。」
メガネの男はそれだけ言うとまたクルッと周り、俺と共に聖堂を後にした。
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