第16話るるかと文化祭
文化祭初日。
澄楡高校の文化祭は近隣の住民にも広くひらかれた催しで、二日間の開催期間は普段とはまったく違った人の流れや後景が学校のなかに現れる。
私たち人知部の展示は、二日間とも行うが、やはり初日というのは空気が違う。
ヨヨは緊張の期待が表情にありありと浮かんでいるし、先輩は不敵な笑みを絶やさない。私もまた、なんだかいつもと違う非日常の感覚に浮かれているような錯覚がある。普段と変わらない笑みを浮かべているのは巡さんくらいだ。
「ライバル展示は、PC部の〈リアル脱出シューティング〉、〈自動車部の校内仮想現実グランプリ〉、それからアングラ部の〈ここだけのハッキング講座〉あたりだ。あいつらに評判で負けると、人知部としてはまたひとつ生徒会に弱みを見せることになる。人知部の展示は結局、同種の展示のなかに埋もれる程度のものでしかなく、部の存続には価値を見出せない、とな」
「でもー、それだったらー、その同種の部はどうして廃部にならないのー?」
巡さんの素朴な質問に、先輩は「あいつらはあんまり予算ぶんどってないからなぁ」と答えた。
部室の見える範囲にスタンバっている〈チト〉は、人型の〈サンズ〉のみだ。まあ、本当は部室のいたるところに〈チト〉がいるのだけど、そのことは鑑賞者には最初は隠しておく。自分の体内電気が接続したネットワークがどのように表現されるのか、そこもまたこの展示の楽しみだからだ。
「あ、いちおう確認しておくけど、〈チト〉って外部のネットワークに接続するようなプログラムは入ってないよね?」
椅子に腰かけタコ焼きをほおばりながらヨヨが言った。今日はいつもの制服姿ではなく、ジーンズにビッグパーカー、帽子とサングラスまで装着している。結局、彼女の謹慎期間は今日まで解除されなかったらしいので、教師に目を付けられないように変装して登校してきたらしい。
「でも、私と知り合った日は学校に制服とパーカーで来てたよね?」
「あの日は謹慎期間中の面談日だったから。でも途中でバックレて窓から逃げ出したけどね」
清宗先輩が「諸君」と言った。
「今日と明日の二日間の展示のために、さまざまに協力してくれてありがとう。まずは感謝する」
「プログラムと機材の準備は全部私だったものね」とヨヨ。
「私は部室のかざりつけを頑張ったよー」と巡さん。
「私は……あんまり何もやっていないかもしれない」と私。
「るるか君の活躍は、ヨヨ君を呼び込むまでだったなー」と清宗さんが言った後「まあしかし俺はるるか君の活躍にも大変感謝している」と続けた。
「ともかく、この二日間の展示の成功が、来年以降の人知部の存続を決定づけるのだ。諸君、くれぐれもそのことを心して展示を成功に導いてくれたまえ。決して生徒会に目をつけられるような問題を起こしてはいけない。それでは、あと30分程で一般来場者の入場が開始される。我々三人と、〈チト〉たちの力で、必ずやこの展示によって人知部廃部の危機を乗り越えて見せようじゃないか!」
「はーい」
「……はい」
「はい」
〈了解〉
女性陣三人と〈チト〉の声がばらばらに重なった。
そして、文化祭人知部企画展示〈かぞく計劃展:無知との遭遇〉が始まった。
問題が――それも警察沙汰になるような大問題が――発生したのは、そのわずか三時間後だった。
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