第14話るるかと〈熱〉

 せっかくのいい機会なので、私が人知部で重宝される理由を話した。

 私は、〈チト〉シリーズの〈イメージ〉に入り込むことができる。あの日のカマキリに触れたように。すると大体、外観からはわからない不調箇所がなんとなく理解できる。〈チト〉の個体によって見える〈イメージ〉は異なるけど、大体〈チト〉の場合は、水たまりができていると、そこから連想される箇所が不調だったり損傷していることが多い。ヨヨと出会ったときに清宗先輩の白いドーナツの損傷個所を〈イメージ〉の中で確認したときは、ホテルの廊下が見えた。幾つかの部屋が並んでいて、そのなかに水たまりができている部屋番号を清宗先輩に伝えたのだ。損傷個所に間違いはなかった。

 私のそのような説明を、ヨヨは不審がったりせずに聞いてくれた。「まあ、アーティストだって幻覚を見たりするし、ドラッグとか使えばそのくらい人間誰でも見れるもんじゃん?」と彼女は言った。

 さっき突然私の両目から流れた涙は、すぐに止まった。でも、悲しいわけでも痛いわけでもないのにどうして涙が流れたのかはわからなかった。

「るるかはさ、そうして他者の〈熱〉を見るのが得意ってことだと思うよ。あとたぶん、まだ自分の〈熱〉を知らないんだよ」

 ヨヨの言葉に、私は、熱? と聞き返した。

「私や清宗さんは、自分の〈熱〉にしたがって生きている。これは私の持論だけどね。例えば……これ」ヨヨは乱雑に散らかった場所から、何かを取り出して私に見せた。

「なにそれ?」

「電気コンロ。私の作品の原点って、要はこれなんだよ」言いながらヨヨは電気コンロのスイッチをいれた。「ニクロム線に電流が通って、そこに熱が生まれる。単純な仕掛け。私は、人間の肉体ってようはこれと同じだと思ってる。人間の筋肉も脳も、電気で動いているでしょ? だから人間の身体のなかでも、この電気コンロと同じように微弱な〈熱〉が生まれている。私が作品で表現してみたいのは、この〈熱〉なんだよね。言語とか知性とか、たぶん命とかもあまり関係なくて、ただ機械的に動いているだけなのに、自然と発生してしまうエネルギー。そういうものを通して、私はコミュニケーションを再定義したいんだ。だからね、実は人知部に誘われたのって、渡りに船だったんだ。だって命も知性もない人工知能に協力してもらって、私の作品が作れるんだから」

 ヨヨはそう言って笑った。

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