第50話・悪魔魂を売る


 円形に広がる決闘場にまばらに魔法使いが座り、魔法のカンテラが私たちを照らし昼間のように明るかった。ぐるりと囲むように監視の目があり、その目たちは私と目の前のセシル君へと注がれていく。拾うコソコソした話では何分耐えられるだろうかと言われており。圧倒的な技術差を私に認めさせてくれる。ルビアちゃんに試験の話しは聞いていた。絶対に負ける試合を組まされると。


「エルヴィスさん。お覚悟お願いします。エルヴィスさんが魔法を使い、降伏宣言すれば試験は終わります……」


「お優しい。ケガをさせたくないのね」


「……はい。エルヴィスさん……弟に囚われるのはダメと思います。それは破滅まで行く行為です」


「確かにそうですね。相手が相手ですもの……」


 私は腰につけたホルダーの鍵を撫で、解錠する呪文を唱えて開き一枚を取り出す。


「でもね。私は……全てを天秤にかけて弟を選ぶわ」


「エルヴィス嬢……」


「……ごめんなさい」


 私は目を閉じて申し訳ないような表情で謝り、目を開けた瞬間に彼を睨み付けて覚悟を示す。負けたら私は二度と弟と一緒になる機会を失うだろう。それは……私に死ねと同義である。だけど、なんとなくだが……こうなる事はわかっていた。


 私の弟と一緒になるという運命はそれまでに高い壁が何個も立ちはだかるだろうと。


「エルヴィスさん。全力で勝たせてください」


「簡単に勝たせたくない」


 頭がゆっくりと冴える。相手は私が攻撃するのを待っていた。魔法を練り込んだホルダーに入ってるカードの枚数には限りがある。貰った本は一気に読み込んだが……魔法は発現しなかった。方法が書かれている訳ではないためだ。


 結局……枚数制限があるのだから。短期決戦しかなかった。


「行きます」


 短く、そう切り出し。私は真正面から突き進む。セシル君はそれに呼応するように氷の壁を精製し受けてたってくれた。攻撃ではない防御なのは試験とことだからだろう。私の魔法を見せないと終わらないのだ。


シュッ!! シュボォ!!


 右手にあるカードを私は投げる。それは氷の壁に当たるや炎を生み出して包み、溶かそうとする。しかし、カードに込められた魔力分の炎を出すや。一瞬で鎮火し氷の壁を突き抜ける事はなかった。ただし、私の姿を隠す事は出来た。目の前の炎で私は姿を眩ませて、セシル君の側面へと移動し……ホルダーから一枚のカードを抜き取り魔法を唱える。


 右手のカードは朽ち。魔力となって氷の剣として形を作り、そのままセシル君へと駆け出して上から切り下ろす。セシル君は驚いた表情をしていたが一瞬で顔付きが変わり、私の氷の剣を魔法杖で防ぐ。


 防がれた氷の剣は砕け散り、その破片はセシル君の頬をかする。私はそのまま腰にあるカードを掴み、カード抜く。かすれた場所から血が滴り……セシル君はそれを舐めると……


シュッ!!


 杖を捨て、その空いた手で私の腰のホルダーを掴み皮ベルトに火をつけてむしりとる。速い動きに私は右手のカードを離してその腰についたホルダーを奪い返そうと手を伸ばしたが……


 ブワッ


「な!?」


 風で押し返され。吹き飛ばされて闘技場の地面に転がる。炎魔法に風魔法と瞬時に唱える彼に私は技術差を感じ、場離れを感じた。


「……エルヴィス嬢、決着です。確かにいい魔法でした。炎で姿を眩ませて側面からの戦法。魔法使いは確かに至近では大変ですが。何度も何度も親友から学んでます。教えたのあなたですね」


 ホルダーを掴んだまま。セシル君は静かに決着を告げる。流石……特待生である。ヒナトたちと戦って来たためか接近戦も一級品になっている。いつも本を読んでいる大人しい印象は消え。武人とした男らしい表情に昔の魔法使いとは違う事を示す。


「ふぅ……私の戦い方。考え方……教えてましたね」


 ゆっくりと立ち、砂ぼこりを払う。ヒナト対策がしっかりと私に対しても効果を示したようで、風魔法の吹き飛ばしなんて……あまり有効とは思えないのに引き剥がしに対して効果があった。


「エルヴィスさん……諦めつきました? これを使うと言うことはまだしっかりと魔法使えないのでしょう?」


 すぐに使えないが正解だ。魔法使いの技術はどれだけ早く魔法を唱えれるかにかかっている。戦う魔法使いは早く、威力も高くを多くの魔法使いは目指す。


「お願いします。諦めてください……」


「……」


 だから……まだ戦闘用の魔法は下級レベルしか使えない。ホルダーのカードに刻印されている魔法以下の魔法しか今は無理だと考えた。だが……そんな弱音も言ってる場合ではない。ぶっつけ本番なんて私は不安だったが。今はそんなこと言ってる場合ではなく……目を閉じて私が読んだ。冒険譚、人にとっては聖書を思い浮けべた。


「エルヴィスさん。試験終わりでいいでしょうか? 他の試験官にお伝えします」


「……最後に」


「ん?」


「まだ、あります。まだ、この愛を諦めたくない!!」


 胸が熱く、鼓動の音が体の内から響いてくる。ピリピリと頭が熱され、魔力を高めているのを自身の体で感じとる。周りに熱を感じとり……そして。想いをしっかりと浮かび出す。その時には聖書の内容なんてものではなく、ひたすらに弟への愛を、想い出を浮かび上がってきた。


「エルヴィス嬢!?」


ブワッ!!


 セシル君の声にとともに頬に熱風を感じゆっくりと瞼を開ける。熱い熱い想いを吐き出すように私の漏れた魔力がチリチリと空気が焦げる音を出し、私の周りで火花が走り、地面に炎が生まれては消え、生まれては消え、火の粉が雪のように舞う。


 空間が熱くなり、私は静かに右掌を上にかざす。すると私の周りに散った魔力が炎となって腕に蛇のようにうねり絡まって登りつめ。掌で炎の卵を生み出す。


 そう、炎の卵だ。私はそう。炎球ではない。卵と感じたのだ。


 そして、私は深く深く。聖書の奇跡をその手に宿せた事と。聖書の冒険譚主人公の心の内を深く深く理解する。


「……」


 炎は熱い筈なのに掌は優しく温かく。そして……重く感じたそれを持ったまま腕を下げる。今さっきの激情は鳴りを潜め、穏やかな表情でセシル君を見つめ、そして……睨み付けた。


「エルヴィス……嬢……?」


「エルヴィス!! そこまで!! 試験は終わりだ!!」


「エルヴィス嬢!!」


 セシル君が一歩引く瞬間。私は大きく魔法名を叫ぼうとした。その瞬間だった。頭に強烈な痛みと衝撃があり、体から力が抜けて倒れた。腕一本も動かせず。ゆっくりと目の前が暗くなっていった。


「ああ……ごめんなさい……ヒナト……ごめんなさい……」


 弟に負けたら事を謝りながら私は眠りにつく。







 










 







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