第44話・魔法使いの夜
私は弟に告白後、教会を後にして、夜の道を照らして歩く。月明かりの夜に照らせる中で一人の男性が私を待っていた。マントフード姿で杖を持ちながら魔法使いのイメージ通りである。
「こんばんわ……エルヴィスさん。行きましょう。ご紹介します」
「こんばんわ。今日はお願いします。セシルさん」
そう、フードを外し青い髪を夜風に靡かせる。夜中でありながら瞳が青く淡く輝いて見えた。
「……お願いされても。ここからはエルヴィスさん次第です。エルヴィスさんは魔法使いとしては何もしてこなかった。ですので何処まで出来るかわからないです」
「ですが、才はあると教えてくださいました。それを私は信じます」
「……はい、ここまでたどり着いたのですから才能はあると思われます。ではこちらへどうぞ」
そう、言いながらセシルさんは私に手を差し出す。それに私は手に取ると世界が暗転する。今まで見えて来なかった光の筋が見え……セシルさんの横を通って屋敷に延びていた。その前にも偽装された壁等があり魔力が無い者や、知識が乏しい者はここに至る事が出来ないと言う。
「見えましたか?」
「はい」
「……では、ようこそ。『魔法使いの夜』へ」
セシルさんが光を辿り、壁に入り込む。何かしらの魔力障壁で偽装されたそれを越えるとそこは商店街になっており魔法の街灯とカンテラなどで明るく照らされており暗がりは全くなく。そして奥には大きい屋敷が鎮座しており私はその光景に驚いた声を漏らす。人は少なく、するすると道を進める事が出来る。
「こんな所が……秘匿されていたなんて」
「……知っていても障壁は越えられません。選ばれた人のみです」
選ばれた人。一月に一回聞こえる曲が聞こえる者たちの事だろう。魔力があれば誰でも来れる筈らしい。そんな説明を聞きながら目的地につく。隠れた夜の町の中央に鎮座する屋敷の前に。
「では……エルヴィスさん。このまま、あの魔法会で長に会いましょう」
「ええ」
屋敷は窓が一切なく。ただただ壁だけで組まれた無骨な建物だった。異常に高い城壁のような物に私はピリッとする緊張感を感じとる。
何も窓がないのに見られている気がし、背筋が自然と延びてしまう。
「ここには誰がいらっしゃるのですか?」
「老人会の方々です」
「ブルーライトもまたこちらに?」
「もちろんです。ブルーライトの長がいらっしゃいます」
そうなると私はその方々にご挨拶と言うことになるのだろう。
「……では屋敷に入ります」
セシルに手を引いてもらい私は屋敷へと踏み入れる。内装は全く変わらない綺麗な内装であり。私の家と変わらない普遍的な内装だった。中は大きい通路のようになっており人々が行き交う。不思議な感覚であり……ピリッとする魔力量にもしやと考えた。
「これ……何処まで続いてます?」
「……エルヴィス嬢。わかるのですね」
「わかります。色んな混ざり具合でここが回廊なのを」
「そうです。次元の回廊です。多くの場所に繋がり多くの場所へ魔法使いのみが移動する事ができます。物品の運搬は禁じられております」
「あら、ダメなの?」
「……エルヴィス嬢のような商魂は嫌われております。そして、お金稼ぎするために作られたわけではございません」
「何のためです?」
「素材集めを円滑にするためにです。研究室もございます。魔術師だけの特権です。細かな説明を聞きながらついてきてください」
セシルの説明を聞きながら私は回廊の廊下をついていく。すると……あまり歩かない場所で目的の部屋へと到着し顔を出すとそこは事務所みたいな部屋であり、職員らしい魔法使いが忙しく仕事をしていた。
魔法の力で作られた紙に色々と書き込んでいたり、何か大きい魔石のような得体の知れない物に話しかけたりと非常に大変そうである。
「エルヴィスさん。ここで登録をお願いします」
「登録はしておりましたが?」
「あれは報告するだけの物です。正式な魔法使いになるには順序と言うものがございます。おわかりですね。冒険者にはギルドカード。魔術師には魔術師のカードやそれを識別する何かがございます」
「何かとは?」
「一目で見れる印みたいな物ですよ」
セシルくんはそう言い、受付の魔法使いにお願いをして紙を貰ってくる。
「試験がございます。今、多くの方々が試験を行っているため。10日後ですね」
私は紙を受け取り、それを見ると項目が細かくかかれていたが名前のみ書いてくださいと伝えられてそのまま名前を書き込み。魔法名の項目があり。私はそのままエルヴィスと書く。
「魔法名は偽名でもよろしいです。この世界での名前ですので」
「ならばエルヴィスでいいですわ。便利でしょう」
「そうですね。私も実名です」
なにかもう一つの世界な雰囲気がある。現世と写世のような本当に隔離された世界。魔法使いとは隠れて生活しているのだろうかと言うぐらいに。
「セシルくん……試験とは何ですか?」
「老人会のエルダーの一人と戦うだけです。魔法使い用の決闘場でです。どれだけの魔術士かを図るために試験官が見定めます。相手をしてもらい、今を計ってもらえるのです」
「それが10日後」
「はい」
「何か位みたいなのがあるのですか?」
「ランク分けが裏であるようです。それは伝えられておりませんが……」
「優遇されたりとかはあるんですか?」
「あります。自身のランクがわかるようになる場合がございます。臆測ですが……大体の位置を……自身も直接のお願いでわかりました。あまり、今は気にされなくてもよろしいです」
「なるほどですね。依頼をこなせば上へ行けるのですね」
「いいえ、こればかりは実力主義です。決闘でも何でも見られております。竜の目と言われております。わからないです。実は私もなにもかも……すべてを」
「教えて貰いなさいよ。長に」
「教えてくださらないのですよ。だから我が家のブルーライトはいつだって探求者として鍛えないといけないのです」
セシルくんが色々と私に魔法使いの世界を教えてくれ、私は自身の足元に広がる黒い世界に足を踏み入れた事がわかる。それはあまりに深く深淵であり。一般人さえ忌避するような場所なのだとわかった。
そう、私は本来ならこんな場所には来なかっただろう。だが……私には力が欲しかった。
そう、聖女とためを張れる。力が欲しかったのだ。それも貪欲に……深く。深く。相手が聖なる力なら。対となれる力が欲しかったのだった。
*
私はセシルくんと別れる。セシルくんは自身のお仕事の報告書の提出しに別れた。別れても大丈夫なのは治安がいいことがあげられる。また、私が一人で散策したいとお願いをしたからである。
彼は申し訳ない表情と一緒に回りましょうと言えるほど度胸はないようだった。女性との会話も苦労している彼のその緊張を解して仲良くするのが婚約者だろう。
だが私は……婚約者なのに申し訳ない気持ちで強く接する事が出来なかった。だが、いつか必ず謝らないといけないだろう。
そんなことをグルグルと考えながら商店街を歩いていると声をかけられる。女性の声である。そちらを向くと路地裏へ続く道に仁王立ちする灰色の銀髪女性が立っていた。あまりに妖艶で、何処か自身に満ちた姿で私は首を傾げる。会ったことあったかしらと。
「そこの桜色の髪をもつお嬢さん。少しいいでしょうか?」
「はい?」
声をかけられた女性が近づく。その服装に私は心当たりがあった。そう、最近売り出した女性用の男装衣裳である。腰に杖をつけたスカートの女性。一体だれかと思い出そうとするが全く思い出せなかった。
「えっと……どちら様ですか?」
「ん、ちょっと待ってね……ん。んんんん」
「あのぉ?」
ジロジロと私の顔を覗く。そして、頬に触れて驚いた声を出した。
「すごい。手入れも何もかも行き届いてる。男だった気配が全くない」
「!?」
この魔法使い。私が男だった事を知っている!?
「わかるのですね」
「わかる。エルヴィスでしょ……あなたが」
「はい」
有名人なのか、それとも売りに出した服で知ったのかどっちかだろうか?
「どちらで私の事を?」
「ふふ、クラインと言う魔法使いから。私の薬を買ったのよ……誰に使うかもしっかりと伝えてね」
「お、弟がここに?」
「そうですね。んんんん本当にかわいい。私と同じで……私のお店に来て、話をしてあげる」
私は妖艶な銀髪赤目の美少女についていく。これも何かの縁だと思い。路地裏へと導かれて。
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