第42話・ある令嬢からのお手紙


 早朝、私と兄上は学園に同じ家から登校をする。家では兄上と母上はまだギクシャク……と言うより露骨な兄上の無視で空気が悪い状態が続いていた。母上も『仲良くしたいのに……』と言い。諦めずにいる。


 それを見ながら私も仲を取り持つぐらいはしようと兄上に母上が今までどれほど辛かったかを説明したこともある。だが……兄上には響かないため。非常に深い溝があるのが伺えた。


「兄上、今日も母上とは会話されないのですか?」


「会話はします。表向きの……ただ。心は許せませんね」


 兄上は露骨な敵意を持っていた。それを母上は思春期特有の物なのではと考えており。私も反抗期なのだろうと思っている。現に兄上はエーデンブルグ領でのエリートコースに入れる筈なのだ。私の父上が喜んで金を出すほどに……買っている。実際は噂通りの騎士だ。


 わざわざ、この学園を選ぶのが不思議な騎士だった。『聖女』として相手の強さを握った手で測った時に今までの会った誰よりも強いと感じさせた。挨拶に来たセシルさん、ハルトさんに比べて私の知っている初期値よりも高かった。


 一番いい男であると私の能力が示してくれたのだ。


「兄上、素晴らしい方なのですから……もう少し母上にお優しくされると嬉しいです」


「……自分は嬉しくないです。すいません」


「……」


 他人行儀の口調。私は、どうも思った攻略方法と違うと考えた。それに、悩む中で……校門をくぐった時に大きな大きな声が響く。赤い髪の色のきつめな目の女性が立っていた。そう、バーティス嬢。


「ホーホホホ!! ご機嫌うるわしゅう!! クラスト・エーデンブルグさん」


「バーティス嬢?」


「バーティス姉様?」


 非常にテンションと鼻息の荒い彼女がクラストお兄さんに近付く。元々仲のよい二人に私は観察と盗み聞きを行った。


「なんですか? 朝から元気ですが……」


「あなたに手紙よ」


「手紙?」


「親愛なる弟へね」


「!?」


 様子を伺っていると非常に強い狼狽えた姿を兄上は取り、奪うようにその手紙を受け取り、破いて中を見る。落ち着かない姿に私は胸騒ぎがした。


 あの兄上が狼狽えるほどの相手がいる。そして……弟と言う。それを考えてこの前に出会った人を思い出した。


 桜色の令嬢を。


「バーティス嬢……手渡す時になんと言ってました?」


「手渡せばわかると言ってたわ」


「信じる神に会いに来いですね。わかりました」


 神……私は右手を見る。受け取った力を思い出して私自身が信奉する神を思い出す。『癒し手の神』を。兄上に神を信奉していると言うのは初耳だった。祈りを捧げたりしないので無宗教かと思ったのだが、違うようだ。


 ただ……会いに来いと言う事はあの人は呼んでいる。


「兄上……もしかして。エルヴィス嬢からのお誘いですか?」


「そうです」


「……」


 私は駄々っ子のように文句を言えば会いに行ってくれるのを止めてくれるだろうかと考えるが無理そうだと感じる。


「……わかりました」


 なので、他の手を用意することにするため母上に連絡を入れようと考えた。





 自身が優遇され用意している特別教室に久しぶり顔を出すことが出来た。多くの手続きや、令嬢関係などを一から見ている事と妹の監視があったためだ。授業は遅れているだろうがそこはエリーゼ嬢の家庭教師が補ってくれる。久しぶりに顔を出すとハルトは笑み向けてくれた。ハルトだけのようだ。


「ハルトだけ? いや、兄上は来ないだろうと思っていましたが」


「久しぶりにいきなり兄上かよ……全く。もう、お前の兄上でもないだろう」


「……ええ。そうですね。セシルは?」


「エルヴィス嬢と一緒に今日は早退だ。デートかな?」


「……」


「そう悲しい顔をするな。俺だった悲しい気持ちはある。まぁ、ちょっと……色々ありすぎてな」


「なにが?」


「それは俺の口から言えない。ただ……もうお前の兄上はもういないかもな」


 ハルトはそう言いながら立ち上がり僕の肩を叩く。


「聖女のおもりはいいのかよ?」


「今日はいいそうだ」


「断らない優しい騎士様。その任務たまに譲ってくれよ」


「喜んで」


「なるほど。気は変わってないのだな」


 ハルトの言葉の意味は……そう。諦めてないかだ。


「いつ遠い地に引っ越すかはわからないが……俺はヒナトと言う変わった名前のままですよ」


「安心しろ。エルヴィスは幸せにしてやるから……必ずな」


「それを決めるのは兄上だ」


「ああ、そうだ。だがな……チャンスはちゃんとある」


 僕は胸がざわつく。あのエリーゼ嬢のせいで引き剥がされた結果に焦りが生まれる。


「まぁ、最後に兄上かたお前に話があるんだろう」


「……私の信じる神の下で待っているそうです」


「へぇ、信奉してたんだ」


「知ってたでしょう」


「ああ、剣を扱うならな……じゃぁ。先生からは口裏合わせとく」


「……ありがとう」


 僕は窓から外へ抜け出し。地の利を生かし学園を抜け出して監視の目をくぐり、実家から近い教会。剣の女神が奉られている教会へ向かったのだった。

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