After3 未来は分からない
黒崎加恋視点
全ての授業を終えて迎えた午後16時過ぎ。
皆が一旦自宅へと戻り、現地集合という形で雑貨店などが立ち並ぶ繁華街へと私たちはやってきた。
あまり大人数での移動となると他の人の迷惑になるということで、何人かごとの組に分かれて見慣れた街並みを散策することになったのだった。
目的はオフ会に着ていく服や、その他必要な物の買い物だ。
ちなみに私は百合と優良の二人と一緒にアロマ雑貨専門店へとやってきていた。
強い匂いではないけどハーブの類を扱っているので花や木の香りで店が満たされている。
「香水ってこんなにいっぱいあるんだね~」
専門店というだけあって様々なアロマ製品が並べられている。
香水だけではなく、アロマキャンドルやルームスプレーなども置いてあり、それらを自作できる手作りキットなんて物もあった。
棚に並べられたアロマ製品を眺めながら三人で店内を歩いた。
見慣れた制服ではなく、私服姿の百合が香水のサンプル品を手に話しかけてくる。
「お、これとかいいんじゃない? ニュージーランドの天然水をベースに使用して特別な精油を配合した……何か凄そうだね。種類も沢山あるよ」
「そうだね……」
百合がサンプル品の香りを吟味している。
優良もその隣で香水の匂いを楽しんでいた。
「でも香水って苦手な人もいるよね~」
「そこも気を付けないとだね。匂いきつすぎてカナデさんに距離置かれたりしたくないし」
「うぅ、カナデさぁん……」
「ごめん加恋、一旦離れようか」
百合が離れようとすると私はそれに合わせて距離を詰めて、彼女の肩を掴んだ。
「ねぇどうすれば!? どうすればいいの!? 嫌だよぉーー!! カナデさんと微妙な関係になんてなりたくないーーっ!!」
「おぐっ!? かれっ、か、加恋っ、揺らっ、揺らさない、でっ、ほ、ほんとにっ、うぷっ」
勢いに任せて弱音を叫び、がっくんがっくんと百合を揺らす。
百合をガクガク揺らしていると優良が間に入って来た。
「ま、まぁまぁ、落ち着いて~?」なんて言ってくるけど、そんなほんわか言われても今の私の心は和やかになんてなれない。
しばらく取り乱してから半泣きでその場に座り込んだ。
「ちょ、加恋ってば、ここお店の中なんだし迷惑になるよ?」
「ごめんね……私が臭いからだよね?」
そもそもカナデさんクラスの超優良物件と、私みたいな平凡を地で行く女が恋人同士になろうなんておこがましい話だったんだ。
地面にのを書いていじけると、二人が困ったように顔を見合わせた。
「あー駄目だねこれは……優良、ちょっとそっち持つの手伝って。一旦外に出よう」
肩を貸されて、店の中から外へと連れていかれる。
そのまま外に置いてあった公共のベンチへと座らされた。
百合が傍に設置されていた自販機でスポーツ飲料を買って渡してくれたので、お礼と共に自棄気味に一気飲みをした。
そして、どんよりとした重苦しい溜息を吐いた。
「振られたくない……振られたくないよぉぉ……」
朝の元気はどこへやら。
今現在の私は絶不調だった。
そんな私を心配してか、気を遣った優良が右隣から言ってくる。
「ん~逆に考えたらどうかな?」
「……逆って?」
優良の言葉に耳を傾ける。
「振られてもいいって考えるんだよ。別に死ぬわけじゃないんだしさ」
「えー……」
「それにほら、もしかしたらカナデが凄いオッサンかもしれないし?」
「それは無理あるよ……」
カナデさんの声を知らない優良がそんなことを言ってくるけど、あの声はたぶん同い年くらいだ。
くたびれた感じもしなかったし、10も離れてはいないはずだ。
それに万が一にオッサンだとしても問題なんてないし、振られてもいいなんて思えない。
私は相手がカナデさんでさえあればなんでもいいのだ。
だけど優良は不審そうに声をあげた。
「カナデが凄い年上のおじさんでもいいの?」
「おじさんでもいい」
今の時代、恋愛で歳の差があることは珍しくない。そもそも付き合えること自体稀なことだ。
大抵は顔も合わせたことがない人の子供を精子バンク経由で受精すると聞く。
たぶん恋愛を経験してる人たちは歳の差なんてどうでもいいと思えるくらい相性がいいと思えたってことなんだろう。
あるいは単純に女の人にとって多少歳が離れてても付き合いたいってことなんだと思うけど。
私も同感だ。
カナデさんが相手だと思えば歳の差なんて関係ない。本心でそう思える。
さすがに50とかになると話は別だけど。
付き合いたくないとかそういう意味ではなく、そういう関係になってもエッチなことは難しいだろうし先立たれて一人残されることになるのは寂しいなってことでね。
「え~? 奇跡の不細工でも?」
「奇跡の不細工が何なのかは分からないけど……まあ、うん」
「実はドが付くほどのサディストだったらどうするの?」
「それはむしろご褒美」
とにかくそれだけ私はカナデさんに……まあ、今更改めて言うのも気恥ずかしいけど夢中だったりする。
だからこそ今ではオフ会が怖い。
今朝と違い振られる未来しか想像することが出来なかった。
「そんなに好きなの?」
百合が呆れた様に聞いてくる。
「……うん」
「……ぉん」
何故か照れたように顔を逸らされた。
そんな反応されると恥ずかしいんだけど。
「何そのリアクション?」
「いや、思ったより乙女な顔されてびっくりした」
そう言われても自分では分からない。
ムニムニと頬を触ると、ちょっとだけ熱かった。
もう一度顔を伏せて私は唸った。
そんな私を尻目に二人が話し合う。
「ねぇ、百合。どうしよう?」
「んーこのままだとオフ会にも影響出るよね」
百合が「仕方ないなぁ」と、大きく頷いた。
「ハァ、分かった……そこまで言うなら私が一肌脱ぐよ」
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