After2 向こうも同じとは限らない





 黒崎加恋視点



 空き教室の扉をくぐると、雑にポイッと投げ捨てられた。

 運動音痴の私は華麗に着地なんて出来るはずもなく、すぐに落下の衝撃がやってくる。

 軽く打ち付けたお尻を涙目で撫で擦りながら周囲に目を向けると、いつものメンバーが勢揃いしていた。


「どうだった!?」


 唖然としていると、待ち受けていたグループの一人が興奮気味に私を担いで来た4人へと問いかける。

 今の状況を理解できずに私は混乱していた。

 パニック寸前の私を放置したまま、優良が拳を上へと持ち上げて高らかに叫びながらそれに答えた。 


「オフ会だ~っ!!」


「「「オオオオォォーーーーー!!!!」」」


 雄叫びの咆哮を響かせる【ゲーマー美少年捜索隊】のLEINグループメンバー達。

 まだ授業どころかホームルームすらも始まっていない朝の時間だというのに、皆の高揚と昂ぶりは最高潮に達していた。

 この後には授業も控えているというのに、ここで体力全てを使い果たしてもいいと言わんばかりの凄い熱気だ。

 優良や百合とかは授業中絶対疲れて寝る気がするんだけど大丈夫かな……なんて、私は現実逃避のように別のことを考えていた。

 打撲した部分を抑えて若干気圧されながら控えめに手を上げる。


「あの、ちょっといいかな……?」


「ん? あーそうだね」


 百合がパンパンと手のひらを叩いて皆の注目を集める。

 

「誰もいない教室だけどそんな大声出したら聞こえちゃうよ。気を付けないと」


 百合のもっともな意見に全員が声のボリュームを少し下げた。

 それはそうなんだけど……ね?

 私が言いたいのは違うことというか……

 ともかく私の意見が反映されていないことに対して不満を口にした。


「皆ついてくるつもりなの……?」


 私は当然だけど告白のこともありカナデさんと11のオフ会を想定していた。

 だけど皆は……これは同行する気満々なのだろう。

 さすがに全員では無理がある気がするけど。

 現状の流れを食い止めたい一心での発言は、誰の耳にも届くことなく……あるいは聞こえていて敢えてスルーされているのか、返事が返ってくることはなかった。


「オフ会のメンバーは厳選するべきだと思うんだよね」


「カナデさん男の人だからさすがに怖がらせちゃうだろうしね……何人くらいだろ?」


 あ、全員ではないんだね。

 そうだよね、少人数ってことならカナデさんも安心……って、違う違う。そうじゃなく。

 しかし、私の小さな言葉は誰にも注目されることなく再び鈴ヶ咲高校2階の空き教室の喧騒に飲み込まれる。

 ワイワイと賑やかなやり取りをどこか遠くから見ているような孤立感を感じながら私は佇んでいた。


「可愛い服あったかな~」


「そんなに持ってないけど制服じゃ味気ないもんね」


「あ、そうだ。私って服のセンス壊滅的だから晶に選んでほしいんだけど」


「ん? アタシの好みでいいなら別にいいけどよ」


「晶センスいいから大丈夫だよ~」


 確かに晶はとてもセンスが良い。

 美的感覚というかコーディネートセンスというか……晶に手伝ってもらえるなら百人力だしぜひとも頼みたいけど、って違う違う、そうじゃない。

 今度はちょっと声を張って、もう一度手を上げた。


「ねぇ」


 スルーされた。

 誰の意識にも入ることなく私の言葉は虚しく消えていった。


「カナデさんの好みの色とか知っておきたいところだね」


「あ~言われてみれば参考にしたいかも」


「ちょっといいかな!」


 確かに色のことも気になるけど、今はこっちの方を気にしてほしい。

 ついてくる気満々な皆に並々ならぬ不安を感じる。

 そんな不安をよそに、彼女たちの会話に花が咲く。


「スカートとズボンどっちがいいかな?」


「ん~私はズボンかな。カナデさんが私の足なんか見たがるとは思えないし」


「服はいいから!」


 一旦そこから離れてよ!

 というか……え、これ本当についてくるの!?


「えっ、服はいい……?」


「まさかの全裸スタイル?」


「その性癖は業が深いと思うの……」


「違う違う! 服の話はってこと!」


 変な勘違いを否定すると、皆は「冗談だよ」と、口々に言ってきた。

 ほんとに……?

 ジト……と疑いの目を皆に向けていると百合がそんな私に笑いかけてくる。


「ごめんごめん。でも勝手にオフ会に一人で行こうとしてたみたいだしちょっとからかいたくなったんだよ」


「う、それはまあ……」


 そのことについては気まずさもあり、語気が少しだけ弱くなる。

 

「でも加恋にとっても、私たちがいるのはありがたいと思うけど?」


「ん?」


 百合の言葉の意味が分からず疑問符を返す。

 何のことだろう?

 心強いことは確かだけど、皆が居たら告白だって出来ないし……


「だって加恋一人だと緊張して喋れないでしょ?」


「えぇ……喋れるよ。そこまで処女拗らせてないし」


「だとしてもプロポーズするってわけでもないんだしさ。最初くらい皆で楽しもうよ」


 ん?

 あ、そういえば言ってなかった。


「いや? プロポーズはしないけど告白はするよ?」


「へ?」


 目を点にして心の底から理解できないような反応が返ってくる。

 何そのリアクション……?

 周りの皆を見る。

 一人残らずポカンとしていた。


「冗談だよね?」


「こんなことで嘘なんてつかないよ。カナデさんにも真面目な話があるってもう言ってあるし」


 そのことで今更引くつもりはない。

 そりゃ絶対なんてないし、今だって不安くらいある。

 だけど、いずれ伝えるべき事なんだし、早いか遅いかの違いだけ……それなら勢いに任せて伝えたい。

 というか立ち止まったら怖くなって動けなくなる気がするし。


「抜け駆けしたのは謝るよ。でもできれば応援してほしいな」


「いや……そうじゃなくてさ……」


 百合が言い淀んだ。

 なんだか言い辛そうにしてる。


「初のオフ会で、しかもある意味初対面の男の人相手に告白は失敗するんじゃないかな~……なんて思ったりするんだけど……」


 ……ん?


「今回はかなり特殊な例だし、異性として見られてることはたぶんないと思うんだけど……」


「…………」


 もう一度だけゆっくりと冷静に考えてみる。

 カナデさんのことは大好きだ。

 なんだったら結婚したいし、何をされてもいいくらい私の好感度は振り切れている。

 だけどカナデさんにとって私は……?

 ……もしかしなくてもこれってただのネトゲのフレンドで止まってる?

 その事実に思い至ると、ダラダラと嫌な汗が流れ出した。


「確かに女の方が意識することはあり得ても逆はないかも……?」

 

「普通のオフ会ってことで今回はやり過ごすとか……」


「え、でももう真面目な話があるって言っちゃったんだよね?」


「あれ、これ詰んでない?」






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