第24話 女装日の昼休み

「このクラスぜったいやばいと思われてんだろうな」

「センコー、オレらのカッコに触れないもんね。っま、そっちのが都合いいけど」

「べつによー、そんぐらい許されてんじゃねーか?」

 昼休みになり、クラスメイトはズボンをはいていた。登校してすぐに俺に合わせてスカートをはいてくれたクラスメイトたちを忘れないでいようと思った。

 それを主導してくれたのは、いつもバカな友人ふたりということも覚えておく。

 なんとなくセブンとホストをみつめる。ふたりとも、目が合った途端にすぐ目を逸らす。やめろ、変に意識するんじゃない。俺も意識しちゃうだろ。

 携帯に目を落としていたホストが目を鋭くする。

「時雨ちゃん、美月ちゃんからなんか連絡きてない?」

「いや、来てない。なにかあったか?」

「これ、うちのガッコの女の子がよく利用してる匿名掲示板。オレらぜったい書かれてるだろうなと思ってたけど、べつの話題で炎上してた」

 赤色のサイトを表示してホストが見せてくれる。

 イジメについての話題で持ち切りだった。

 目についた言葉を拾っていく。

「2-Aでイジメ」

「転校生を無視したら何日で学校来なくなるかの実験」

「クラス全員で空気扱い」

「話しかけても徹底的に無視」

 首の後ろがぞわぞわした。気持ち悪くなった俺は目を背けた。

「……もう見たくねえ」

「ごめんね、時雨ちゃん。でも、これまた近い所で起こったと思ってる」

「俺はバカだから、わかんねーんだけどよ。学校でいじめあっても、学校はなにもしてくんねーのかよ」

「やめとけセブン。そんなもんだよ。オレらがよくわかってんだろ。サボりとか、態度と内申の悪い奴を集めてるのが精いっぱいなんだろうよ」

1 -Aのクラスだったやつは、2-Aにもメンバーが変わらず進級している。唯一、変わったとしたら、俺が抜けたぐらいだ。そして、その変わらないメンバーは、変わらず誰かを無視するというイジメをまたやってみせた。ターゲットをべつの人間にして。

 昨日、美月がサインを出していたのに気づけばよかった。

『転校生って全然ちやほやされないし、話しかけても距離置かれてるの、なんでなのー』

『ごはんの食べ方がわかんないの。クラスメイトは誰も話しかけてくれないし、お昼にも誘ってくれないのよ。ひどいと思わない?』

 いつも明るい美月のことで、言い方も含みがなく全然、気が付かなかった。

「ちょっと2-A。美月の顔、見てくる」

 俺はそういって席を立ちあがった。

「っま、時雨ちゃんならそうよね」

「けど、なんだかなあ。あのお嬢さん、自分で解決する気がするんだよなー」

 ホストとセブンが俺の後ろでそんなことを言っていた。

 教室をでたところで、意外なやつと目が合う。

「いや、おまえ、時雨か? ちょっと、そこにいてくんないかな」

 教室の壁に背中を預けた雷堂が言った。眉をさげて、言いにくそうに頬を指で触りながらいう。

「なんで雷堂がここにいるんだよ」

「時雨と昼ごはん食べようと思って花恋と来たら、花恋が皇樹を呼びに行って帰って来ないんだ。しかも、時雨と教室に居てって言われて、なんだかわかんないケド」

「ライライ、行くぞ」

「あいあい。あと、ライライゆーなし。時雨か花恋を止めろってのはムリ。あとその恰好に慣れすぎじゃない? 違和感ない」

 雷堂を連れて、2-Aの様子を見に行く。いつもなら美月が俺のクラスに来てもいいぐらいだったのに、来ないってことはまだクラスにいるとおもう。

 2-Aのクラスの前までいくと、ひょっこり花恋が教室から出てきた。後ろで手を組んで、教室の中をのぞきながら、後ろ歩きで出てくる。その後ろに回り込んで肩を掴んだ。

「わわっ、っとー。お兄ちゃんっ」

 ほぼ反射的にだった。花恋は、俺の右手首を両手でつかんで体を回す。小さい花恋に引っ張れるようにして、体勢を崩され転ばされかけた。すんでのところで踏みとどまる。

「あっぶない。お兄ちゃんを倒しちゃうところだった」

 あせったーと言いながら花恋が手をパタパタ動かし、顔をあおいでいる。

 聞きなれた声が聞きなれないトーンで話しているのが聞こえてきた。ぜったいに美月の声だけど、美月が言ったとは思えなかった。

「そういうこと。2度とわたしの周りに関わらないでくれる?」

 美月は真剣な顔を浮かべて教室を出てくる。花恋はそれを見て「かっこいー」と手を叩いていた。

 俺と雷堂は目を合わせて顔を横にふりあった。なにがおこってるのかわからない。

「あれっ、しぐれだー。いま、よびにいこうと思ってたのに。花恋ちゃん、ありがと」

「たまたま通りがかっただけだよー」

 仲睦まじく、ふたりは小さくハイタッチしていた。

「で、なにがあったのさ? このクラスの全員の目が死んでるんだけど」

 2-Aは昼休みだというのに、全員がクラスに居てだれも話していなかった。静まり返ったクラスが不気味だった。

「そうなの、しぐれ聞いてよ。わたし何もわるくないのにクラスメイトに空気扱いされてたのよ。失礼しちゃうわ、ほんと」

「そんなことされたら、俺なら学校サボるわ」

「でしょー。あまりに居心地が悪いから、いじめの証拠を掴んでね、本人にやめてくれる?って言ったら逆ギレされて、いまこんな感じ。しかも掴みかかってくるのよ。怖かったんだから」

「まじかよ、大丈夫か。ケガとかは?」

「ううん、掴みかかられた寸前で花恋ちゃんが助けてくれたの」

「あ、あははっ。やっちゃったよー」

 目を泳がせながら花恋が言った。掴みかかった奴を、俺みたいに地面に引き倒したんだろうと思う。花恋って実は武闘派だから。

「言ってくれりゃいいのに」

 雷堂が面白くなさそうに言った。

 その横で、にこにこしてる美月の顔をちらりと見た。いつも通りって感じだった。その様子にすこしだけ申し訳なさを感じていた。

「美月、すまん」

「んー? なんのこと?シャンプー?」

「あれはお前の自滅」

「お兄ちゃんの変なシャンプーが悪いんだよ。髪ゴワゴワになるやつ」

「実は雷堂も使ってる」

「「えっ?」」

 声を上げ2人は、雷堂の綺麗な金髪を見ながら、信じられないといったような目をしていた。

「な、なんだよっ。ふつうに、ちょっと前まで使ってた。けど、スタイリストさんとシャンプーの話してたら、やめたほうがいいって説得されてやめた。いまは炭酸ヘッドスパできるシャンプー」

「通りで昨日、風呂上がりの雷堂の匂いを嗅いだらいい匂いがしたはずだぜ」

「お兄ちゃん、ほんとキモい」

「花恋に言われると死にたくなる」

「しぐれ、大丈夫? ライチさんの匂い嗅ぐ?」

「よいか?」

「べつに、いいけど」

「お兄ちゃんーッ」

 花恋が怒ってぷんぷん花恋になってしまった。

 昼休み、食事が終わるまで花恋に無視されて、つらかった。

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