第23話 女装登校の罰ゲーム

 携帯が目覚ましのアラームを鳴らす3分前、俺は覚醒した。

 なんてすがすがしい朝なんだろう。こんなすばらしい一日を決して無駄にはしたくない。だから、俺は決めた。

「今日は、サボるにはいい日だ」

 目覚まし時計より早く目が覚めたら、きっとその日のイベントがストレスになっているという持論を、声を大きくして言いたい。緊張している日、たとえばテストの日なんかはいつもより早く目が覚めたりする。けれど、睡眠時間を大事にする俺の体からしてみれば害でしかない。快適睡眠以外は敵だ。

 携帯のアラームを解除する。ついでに携帯の電源を切る。これで世俗とのつながりは絶たれた。

 携帯を手放し、固めのまくらに頭をのせる。目を閉じて、ゆっくり意識を手放そうと努力した。

 ジリリリリリリリリリリリッ

 耳元で、目覚まし時計のうるさい音が響く。俺の目覚ましの音じゃない。だれのだ、これ。

 ベッドの上に座る。あたりを見回すと携帯電話をこちらに向けた女が立っていた。

 腰まである髪を揺らしながら、いたずらっ子が浮かべるような嫌味の無い笑い方をしている同級生。

「みつきぃ、なに、これ」

「うん、おはよっ」

「俺、今日サボるから」

「しぐれ、それはいけないわ。だって、わたしとお昼ご飯を食べる約束してるじゃない。もう約束を破る気かしら?」

「やっべ、忘れてた。じゃあ、こうしよう。このままふたりで学校サボって昼飯一緒に食べに行けばいい」

「……アリね」

「だろー? 美月も立ってないで、いっしょに寝ようぜ」

「わっ、ちょっと、しぐれっ、ストップ。花恋ちゃんの前でいっしょに寝るのはっ?」

 花恋の名前に俺は警戒の色を浮かべた。美月が花恋の前にいるってことは?花恋が近くにいる?

「うん、気づいた? 起きよっか」

「イエス。サー」

「着替えよっか?」

「ハイ」

「お兄ちゃん、違うよ? 今日はこっちに着替えるんだよ?」

「わかりました」

 新品のカッターシャツ、胸元には青いリボン。下はスカート。デニールの厚いストッキングを身に着ける。

「お兄ちゃん、ヘアネット被って」

 髪をまとめあげ、ネットをかぶる。

「メイクするから、目つむっててね」

 なにやら顔を洗うような冷たさを感じる。やわらかいスポンジで叩かれている気がする。

 なんで朝からこんなことになってるんだっけ。

 ああ、そうだ。山田だ。山田のせいだ。女装して登校しなければいけない罰ゲーム。冷静に考えたらおかしい。なぜ俺がそんな目に。理不尽だ。そうやってひとのせいにして心をなだめるけれど、どうも公に女装する理由ができたようでドキドキしている自分もいる。

「目の周り、わたしがやるわ。しぐれ、目をあけて。わたしの肩のほう見ててくれる? そうそう」

 まぶたに液体がのった感触がする。リキッドタイプのアイライナーで線を引いたのだと思う。美月がすごい真剣な目をしているのが、目を合わせなくても伝わってくる。異様なくらい集中していた。遊びじゃなくて、本気でやっている。もしかしたら、メイクが好きなのかもしれない。

 じっとしているのに飽きたころだった。

「よしっ、どんなものよ」

「すごいーっ。美月さん、本当すごい。なんでーっ」

「うふふっ、実はわたしレイヤーなの。メイクにはちょっとだけうるさいんだからっ」

「わぁ、意外っ。だから、こんなウィッグ持ってるんだ」

「昨日の夜、これに格闘したんだから」

 美月が俺の髪をピンと留め始めた。俺の頭の上になにかかぶせてくる。黒い色が見えたから、黒髪のウィッグだと思う。

 視界に前髪が入ったり入らなかったりする。ウィッグの位置が決まったようで、数か所ピンで固定した。美月はまだたりないようで、ブラッシングした上に霧吹きで水をつかって髪型を整えてくれた。

 良く考えたら女性って、毎日このぐらいメイクしたりしてるんだよな。そう思うと、すげえなとしか思えなかった。

「こんな感じ。どうかしら?」

「とってもかわいいと思います」

「よし、でーきたっ。おはよう、しぐれー。あれ、なんで返事してくれないの?」

「お兄ちゃん、女装の格好したときに声を出すと男だってバレるから、絶対に話さないんです」

「しぐれは女装したことがある……?」

「あっ、そ、そう。まえも罰ゲームで」

 花恋が上の空を見つめながら、指を立ててくるくる回して言った。言い訳が苦しいなあ。

「女装、たまにするんだよ。花恋と買い物いくとき万が一スキャンダルに使われちゃたまらないとおもって女装したのがきっかけでさ。それ以降ちょくちょく」

「すてきな話じゃないの。やさしいお兄さんね」

「えへへっ、私もそう思う」

「はい、しぐれ。鏡みせてあげる」

 美月はコンパクトを開いて俺に向けてくる。

 そこに映っているのは、綺麗な女の子だった。

「うそっ……これが、わたし?」

「少女漫画でみるやつだーっ。実はかわいいヒロインが、かわいさを自覚するシーンだーっ」

「あはははっ、お兄ちゃん。それ、おもしろいって」

「やらなきゃいけない気がした。それにしても、すげーな。美月、顔が綺麗なだけじゃなくて、ひとの顔も綺麗にできるんだな」

「ふえっ。な、なによいきなり。ほめてもなにもでないんだからーっ。ピザぐらいならまた頼んであげる」

「まじ、チョロイン」

「ふーんだっ」

 美月は腕を組みながら顔を赤くしていた。

 俺はこの後、登校する前に写真をとった。玄関の鏡で写真をとってブルームーンに送りつける。事情があって、これで登校する。そうメッセージをつけて送った。

 登校するため急いで家を出る。

 玄関の前には車が止まっていた。車の横には美月の付き添いの人、紫電さんがいた。

「……しょう、ねん? どうしたのですか? なにか悩みがあるなら、自分で良ければ聞かせてください」

「美月にさ、これ着せられて、このまま登校させられるはめになった」

「あきらめましょう。自分もあきらめました」

 力強く肩を叩かれる。小声で「すみません」と謝罪してもらいながら。

「ですが、これはこれで……」

「わたしが悪いみたいにいわないでよー。あれ、やっぱり、悪いのわたしかしら。お詫びに、しぐれの制服きて登校しよっか?」

「お前まで学校に居場所なくしちゃ困るだろ。2-Eならジョークで通じる雰囲気あるけど、2-Aはやめとけ。ちょっと前の俺みたいになるぞ」

「お兄ちゃん、車登校で、よかったねー! 車じゃなかったらスカートひらひらしてたよ」

「今日さ、勝負下着だから。まえホストにもらった安全第一って書かれたボクサーパンツはいてきた。スカート怖くないぞ」

「あ、あははっ。勝負の意味がちがうんじゃないかな?」

「ちょっとそれ、見たいわね」

「自分がめくりましょうか?」

 紫電さんが公然と俺のスカートを狙ってくる。

「ううん、あとで自分でやるわ。ありがと、ほまれ」

「いえ、失礼しました」

 俺たちは車に乗り込む。車に座った瞬間、花恋から注意がはいる。

「お兄ちゃん、足開きすぎ。スカートなんだよー」

「ちょっとアゴひいたほうがいいかもしれないわ。うん、バッチリ」

 花恋と美月に注意を受けて思う。見た目に気を使ってるやつって、やっぱり厳しいよな。


 登校中の車の中で、美月と花恋にさんざんダメだしを食らった。

 車が止まる。校門のちかくに車が止まった。通学中の同じ学校の生徒が多くいる中だ。車の外に出るのは、憂鬱でたまらなかった。そう思う気持ちを切り替える。「楽しんだもん勝ち」ホストとセブンと俺の間で、合言葉のように言っている言葉だった。前向きになれる言葉を胸に、俺は車の外に出た。

 美月と花恋のふたりと並んで登校する。ふたりに挟まれるような形で、自然に登校していた。

 こういう日に限って、校門の前には先生が立っていた。しかも見覚えのある先生だ。俺のクラスの担任の一人、東条先生。なにもこんな日に生活指導で厳しくて有名な東条先生が立たなくても。まだ九鬼先生とかのほうが笑ってくれそうで良かったのに。

 心配は杞憂に終わる。イヤホンを耳にしたまま登校する生徒に、イヤホンを外すよう指導していたおかげで、なんの指摘も無く校門を通過できた。

「止まれ、そこの黒髪の女生徒。皇樹、天宮と歩いているお前だ。どこのクラスだ。わるいが部外者を校内に入れるわけにはいかんな」

 軍曹の索敵能力どうなってるんだ、俺が異物だとバレたぞ。

 ざわつく中、東条先生は俺の腕をつかむ。

「東条先生、俺、俺。 先生のクラスですよ」

 自分の危機より女装ばれの危機を優先するらしい俺の本能。小声で、先生に聞こえるぐらいの大きさで言った。

「あいにくと、おれのクラスは男しか……よし、おれの勘違いだ。すまない」

 大きな声で謝罪した東条先生は、登校指導のため定位置に立ち直した。

 あぶねえ、登校段階で終わるところだった。

「しぐれの担任の先生、すっごいね。パワフルで鋭い」

「お兄ちゃんが職員室に連れていかれると思ってドキドキしたよ」

 俺は指を2本たてて折り曲げて、伸ばして見せる。問題ないというサイン。

「あっ、意地でも話さないのね」

 頷いて見せる。

「まさか、ミステリアス美少女の座を狙ってる?」

 ジト目で美月がそんなことを言ってきた。

「ぶはっ」

 まさかと返事しようとしたが、堪え切れずに吹き出してしまった。

「お兄ちゃん、ちょっとうれしそう」

 2人にからかわれながら、途中まで一緒に歩く。

 花恋とわかれて、美月と俺は自分のクラスへ向かった。

 ニマニマと口の端があがるのを隠さない美月と一緒に歩いているが、へんに目立つ。とくに男子。見る視線が露骨だし、俺と美月を比べる視線の動きが追える。これでバレないと思ってるのかと勘繰るけれど、俺は普段バレないと思って見ているので恐らく同じ気持ちだと思う。

 ふだんから改めよう。けれど、もし美月が校内を歩いていて、近くを通ったら目で追ってしまうよなとも思う。美月と知り合いでなければ2度見する自信がある。

 2-Eの前に来た。ため息が出そうになる。

「ホストさん、セブンさん、おはようーっ。来たわよ」

 美月が元気よくふたりを呼び出した。

「皇樹さんだ。おっはー。って、ウッソ? マジか。おい、セブン、起きろ」

「んあっー? ふぁー、なんだよホストォ。もうピザ食えねえよ」

「じゃーんっ。髪型いっしょなの。髪色ちがうけど、姉妹みたいでしょー?」

 美月が俺の腕をとって、豊満な胸に押しあてながら、ほほ同士をくっつけて言った。

 ちかい、ちかい。呼吸が止まりそうになるし、どう呼吸して良いかわからなくなるからやめてくれ。

「それじゃ、またあとでね。がんばってっ、きっと大丈夫よ。わたしもちょっと、がんばるから」

 言うだけ言った美月は、軽く俺の背中を叩いてから、自分のクラスにいった。

 クラスメイトの視線が痛い。静かで居心地のわるい空気が流れる。だれもが俺を信じられないというような目で見てくる。この空気は本当に苦手だった。

とりあえず自分の席に座るか。席に移動することで、やっと俺が天宮だとわかったクラスメイトたちは、安心したようだった。

 まるでこのクラスに来た転校生の気分だ。なぜかクラスメイトが俺を中心に輪をつくる。

 いや、これ転校してきた美少女の美月とかにするやつだろ。2-Aの美月はちやほやされなかったどころか、お昼休みも誰からも話しかけられなかったらしいから、よっぽどだと思うけど。実際、話しかけるのに勇気がいるタイプの外見をしているし。

 違和感がした。いくら話しかけにくいやつでも、転校生に誰も全く話しかけないってことがおこるのか?

「しぐれちゃん、マジ美人ーっ」

「シグレ、なんでもっとはやくその恰好しないんだよ」

「やめてくれ。実際やってみると、朝からなにやってるんだろうって10秒に1回思ってるところだから」

 ホストが耳打ちしてきた。

「オレの制服もう一着さ、更衣室に持ってきてるから着替える? いまなら逃がせる」

「問題ない。指令が授業を受けるだったろ。昼ぐらいまでこのままでいる。先生の反応にもよるけど」

「オッケー。なんかあったらオレかセブンに。全力でかばう準備してきてるから。いちお、クラスのみんなにも言ってある」

「ピザで胃もたれしてる俺でいいなら、手伝うぜ」

 セブンは腕まくりしながら、そういっていた。

「またピザくおうな。ほら、ピザ食べ放題の店あったろ」

「マジ勘弁してくれー。しばらくピザはこりごりだぜ」

 セブンの嫌がる様子に俺は笑っていた。そこで気づいた。クラスメイトが遠巻きにこちらを見ているけれど、耳を両手で塞いでいる。なんでだろう。俺は首をかしげてそれをみていた。

「耳を塞いで見ると、天宮が美少女でときめく」

 山田が言った。それでクラスメイトがみんな耳を塞いでいるのか。

 口の前でバツをつくって、山田に見せてみた。首をかしげながら、美月のように目で笑って見る。

「天宮っ」

 サッカー部の山田がいきなり俺の前に来ていった。女装の罰ゲームをつくった本人だ。

「天宮と抜け駆けしたいっ。ひとりで罰ゲームつらいと思って、俺もスカートはいてきたから」

 山田はいきなりスカートに足を通して、ホックをしめたあとズボンを脱いだ。

「ノったな。 俺も妹にかりてきたぜー」

 セブンも同じことをする。なんかビリっていった気がするけど、気にしないことにした。

「おいお前ら、このクラスの学級目標忘れたのかよ。抜け駆けは許さねーぞ。オレも借りてきた」

 ホストまで同じようにスカートを着だす。

「おれ、姉ちゃんの借りてきた」

「ドンキで買ってきたけど、小さいな」

「かーちゃんの借りてきた俺が優勝でいいか?」

「父さんのスカートを借りてきた俺と決勝しよっか」

「この機会に野球部のマネージャーに借りたもんね。美談にしたいから貸してくれつって」

「野球部の佐藤、どうせ先輩に取られるから、マネージャーに期待すんのやめとけ」

「サッカー部の山田を超えて、デスボックスに手を突っ込んでみせる」

俺はなにがおこってるのか、わからなかった。

「なにが起こってんの、これ」

「昨日クラスのラインで言っただけよ、あした全員スカート持参しね?って。たったそんだけ。既読ついて、返事もちょっとだけしかなかったからダメかなと思ってた。やっぱこのクラスおもしろいよ」

「ほんと、バカばっかだ。あー、びくびくしてたのバカみてー」

「シグレー、スカートやぶいちまった。妹にいっしょに謝ってくれーっ」

「セブンの妹なら俺よりホストのほうが好きだろ、面食いだから」

「アイドルの追っかけしてる妹さん、まだ続いてるんだっけ」

「自分でうちわとかグッズをつくってライブいってる。最近はナナエスも好きらしいから、な? な?」

「それこそ花恋か雷堂に頼めよ」

「花恋ちゃんのファンサービス、神対応で有名だからお願いしてみればいいじゃん。 雷堂は塩で有名だけど」

 塩対応とはそっけなかったり冷たいことを言う。雷堂にファンですといっても「あっそ」って帰ってくるのがみえている。ただ、雷堂のファンはそのそっけなさが好きだという上級者もいた。

「妹は氷室さんのファンだからなあ。歌姫の歌に心奪われたらしいぜ」

「わかる。氷雨さんふつうに話してるだけなのに脳がとけそうになるぐらい声が気持ちいい」

「時雨ちゃん、それはやべーっしょ」

 ホストとセブン、そして俺。いつもの三人は外見がかわってもいつものノリでいられる仲間だった。

 教室の前の扉を通って、先生が2人、教室に入ってくる。ガタイのいい男性の東条先生と、大人な女性の九鬼先生。東条先生、通称軍曹がはいってくるだけでクラスメイトはクラスに着席し、背筋をのばしていた。

 九鬼先生は眉間にしわをよせ、こめかみに青筋をたてていた。目線は俺を見つめている気がするが、窓の外を見つめて知らんぷりをする。

 意外にも朝礼は通常通り行われた。俺たちの格好に対するお咎めはなし。もうすぐテストがあること。昼からの選択授業の登録を行うように。聞きなれたアナウンスだけして東条先生はクラスを去って行った。いつも表情を変えない軍曹が、すこし笑みを浮かべていただけでクラスは安心していた。きっちり手中に収められてるなとも思う。

 九鬼先生は東条先生がクラスを出たあと俺のところに来る。細腕で肩を掴まれた。

「で、天宮よ。今日の調子はどうだ」

「ちょっと登校途中に水をかぶって女になっちゃっただけで、いつも通りです」

「カップラーメン用のお湯でもかぶれば元にもどるか?」

「先生を昼飯難民にしたくないので遠慮しておきます」

「まったく、お前は毎日なにかしら目立つ行動を起こすな」

「それについては、すみません」

「かまわんよ。まだ、だれかに迷惑をかけていることもない。ただ行きすぎると注意はするし指導もする。一応、これでもお前らの担任なんでな」

 もっていたクリップボードで、軽く音がするぐらいの強さで叩いてくる。「気をつけろよ」ポンッと頭の上で高い音がした。後ろ手に手を振りながら、九鬼先生は堂々と歩いて教室を出て行った。

「やばい、ほれそう」

「百合ちゃん、格好いいよな。常に余裕あるし」

「鬼百合、昨日パチ屋で万枚だしてんの見たぜ。閉店ちかくにプラっと散歩しにいったんだけどよ、見事にGOD引いてて見向きもされなかったぜ」

「大人って、現金よね」

 ホストがそういった。

 スキップしそうな九鬼先生の背中を見ながら、それに同意した。

「天宮ーッ、写真、撮ろうぜ」

 山田が走って来て、俺と並んでインカメを向けてくる。

「これ収集つかないやつー。時雨ちゃん、ファイトー」

「よし、カメラよこせ、俺がとってやるぜ」

「ちょっと時雨ちゃん、手のひら向けて目の周りをかくしてくれない? できれば指をそろえて。そっそー、完璧」

 いわれるままにポーズをとる。なんのポーズなんだ、これ。

「ホストが天才すぎる」

 口々に賞賛の声があがっていた。

 セブンがとった写真を見せてくれる。目の周りを隠すだけで、本当に女子生徒のように見えた。たしかに、ふつうに写真とるよりもそれっぽい。

 よく見て気が付いた。やられた。これ、そういうお店の写真みたいじゃないか。

「この制服が皇樹さんのなら、天宮はほとんど皇樹さんのようなものでは?」

「髪型も皇樹さんといっしょだし」

「おっぱいはないけれど」

 俺を見つめる視線がおかしい。なぜだろう。周りのクラスメイトは、俺が男って事実を忘れたがっている気がする。

 俺は授業が始まる僅かな時間でも、クラスメイトのおもちゃになった。ただ、これが罰ゲームだということを忘れそうだった。

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