第4話 青い月は空で笑う
「いらっしゃいませ」
駅前の喫茶店に入る。ここにブルームーンがいる。
良く考えたら俺、あいつの性別すら知らないんだよな。ボイチャはボイチェン入ってるし、ゲームで使うキャラも女だったり男だったりしてるし。たぶん女。たぶん女だと思う。でもやっぱり男かも。女だったらいいなってぐらいでいよう。
「あのー、ご注文は?」
喫茶店のなかは静かで、結構な人が入っていた。テーブルも数席しか空いていない。この大勢の中からブルームーンを当てるためには、あぶりだしに行くしかない。
俺は大きな声で注文した。
「すみません。ブルームーンください」
「ブルー……えっ? えっと、すみません置いてないです」
「ブルー……マウンテン?」
「すみません。コーヒーはブレンドのみで」
「ブレンドのMサイズお願いします。すみません」
俺は320円を支払い、ブラックコーヒーを手に入れた。
スティックの砂糖を2本と混ぜるやつをトレイにのせて席を探す。
適当な席に座って、店内を見回した。パソコン開いてる人とか1人客で作業中の人も多い。
携帯電話を開くと、もうチャットが飛んできていた。
「お前やっぱりバカだろwww」
「見つけるつもりが見つけられてるだと? 近い?」
「同じ空気吸える距離」
「空気美味しい」
「気持ち悪いわwww」
「ひとつ教えてくれ。男か女か」
「どっちだろうな?」
「俺は男だ」
「知らないと思ってたのか? というか特定できてるわ」
「なん……だと……?」
「すこしは霊圧消せ」
「……済まぬ」
「お前と話してると笑いそうになる。ROMるから見つけてみろ」
俺は携帯を置いた。高校2年生ぐらいで携帯をいじってる奴ってもう2人ぐらいしかいない。窓際の席、長い黒髪でヘッドホンをしながら携帯をいじっている美少女。愛想のない表情だけど、すごい綺麗な顔をしている。あいつ、どっかで見たな。
もう1人はアイスコーヒーを空にしている茶髪の男。耳にイヤリング、手には指輪。ガムをクチャクチャするタイプ。
黒髪の細い女だと思う。けど、どっかで見たことあるんだけどな。
「わかったぞ!」
「言ってみろよ」
「窓際で音楽聞いてる身長高い女だろ」
ブルームーンはメッセージを見た。
しばらくなにも返って来なかった。
俺はドキドキして待っている。違ったらどうしよう。でも、当たっててもどうしよう。何を言って良いかわからない。
「違う」
俺はがっくし下をむいた。
何回見直しても違うと書いてあった。
ほかにだれかいるのか……?
同じ年ぐらいのやつを、血眼にして探した。それでも、高校生のカップルが勉強してたりするぐらいだった。カップルの黒髪の女の子、すごいスタイルいい。じっと見てると目が合ってしまって、目を逸らす。しかも、めっちゃ可愛いじゃん。ちょっと嫉妬して、彼氏が釣り合ってないことを祈って彼氏をみるけど、これまた女性みたいな綺麗な顔立ちで格好良かった。
あれ、ブルームーンも、まさか2人とかで来てる可能性? いやそれでも……。
考えてもわからなさそうだった。
ブルーな気分のままトイレに行った。
トイレで顔を洗ってきた。
戻ってくると席になにか置いてあった。なんだ、これ? ナプキン?
店に備え付けられてる紙ナプキンだった。
紙ナプキンに文字が書いてある。「バーカ」それと青いボールペンで書かれた月と兎。真っ赤な口紅のキスマーク。
携帯が震えた。メッセージが来ていた。
ブルームーンからだ。
「バーカ」
「ごめん」
「また逢いましょう、時雨」
俺は紙ナプキンを折りたたんでポケットに入れてトレイを持って立ち上がった。
残念な気持ち半分。また遠くない内にブルームーンに会える気がするのが半分。複雑な気持ちのまま店を出ようとした。
なんとなく見た窓際で、黒髪のヘッドホンをした女が楽しそうに、赤いリップを唇に塗っているのが見えた。
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