カスケード・シャワー・イン
ビクトリアは再度キリーへ転移し、出征間近のヴィーナスへトレディアの状況を報告し、食糧を搬入するために異空間倉庫の使用を願い出た。
許可は思いのほか簡単に下りたが、兵力不足のいま、奉仕の魔女団を動員する事は難しいそうだ。
奉仕の魔女団とは、ヴィーナスの親衛戦闘魔女団で、攻撃魔法なども使うが主にヴィーナスの為に連絡や人員移動を行う、いわば秘書機能も併せ持つ組織。
その為に、異空間倉庫を自由に行き来出来る、特別パスポートを所持している。
ヴィーナスはビクトリアの話しを聞き、妥協案としてサリーとアリスに、トレディアへの物資輸送を命じてくれた。
二人ともトレディアには縁がある、というのがその理由であった。
サリーでは物資運搬は女が持ち運びできる範囲内となる、しかしアリスなら……
愛人たちの中でも魔力という点なら、小雪を除けば大賢者ダフネを凌駕すると思われる持ち主……
すぐに二人はトレディアに飛んだ、勿論、膨大な食糧をアリスが運び、サリーもそれなりに運ぶことになった。
「ヴィーナス様の援軍がそこに来ているぞ!」
城は息を吹き返した。
先が見える……希望が見えてきた……
兵士が生き生きとすると、城内の一般市民の顔にも精気が宿る。
中でもダニエラは元気がこぼれている、サリーが側にいるからに他ならない。
「ダニエラさん本当に久しぶり、まさかこんな状態で出会うなんて、四方山話はたくさんあるけれど、今はとにかく、この物資で食事をつくってくれる?」
「皆を集めます」
ダニエラはグレンフォード侯爵の許可も得て、援助物資配布の責任者になり、トレディア城の奥さんたちを動員、勇ましい姿で陣頭指揮を取り始めた。
もともと兵士たちにはダニエラは人気がある、勝気でしっかり者、しかも伯爵令嬢とは思えぬ行動力も持っており、その明るさが愛されているようだ。
まず食事をつくり配給を始めた。
幸い中央広場の井戸は、涸れる事のない『永遠の水』と呼ばれるもので、これがトレディアを難攻不落としている原因の一つでもある。
その水を沸かし、穀物の粉を練って、すいとんのようなものをつくって配った。
「ヴィーナス様からの物資です、豪華な食事とは行きませんが、とにかく食べてください」
兵士も市民も、籠城戦で疲れ切っていたし、飢えてもいたのでしょう。
あっという間にすいとんは消えてなくなるが、次から次にアリスがべらぼうに物資を運んでくるので、味はさておき、城内の飢餓は収まり始めた。
サリーはブリチャード式魔法エアーライフルを小脇に抱えて、城壁の上から射撃を繰り返し敵を防いでいる。
ヴィーナスが教えてくれた呪文が、すさまじい威力を発揮している。
サリーがその呪文を唱えると、銃口が怪しく赤く輝き、エネルギーを放射状に放出するのだ。
直径三百メートル程度の範囲内で、ビームが滝のように降り注ぐ。
呪文はカスケード・シャワー・インととなえるそうだが、夜にこれを行うと、流星が降り注ぐような美しいが、危険な光景を見る事になる。
「激しいな」
最後の打ち合わせに来ていた、ビクトリアが感想を漏らした。
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