第49話

 な、なんだか……初めてのデートを思い出すな……最近はデートしても怒れてばっかりだったから、なんか新鮮で良いな。


「んじゃ行くか」


「うん」


 藍原にそう言い、俺は藍原を連れて水族館に向かい始める。

 俺が藍原の一歩先を歩いていると、ふと手に何かが触れるのを感じた。

 

「え……」


「あ……いや、その……手とか繋いでも良い?」


「あ、いや……ちょ、ちょっと恥ずかしくないか?」


 いきなりどうしたんだ藍原は……。

 付き合ってた頃も恥ずかしいからって、手を握ったこと無かったのに……。


「ん……いや、その……握ったこと無かったから……握りたいかな……って思って」


「お、俺は……その……」


 柔らかく小さな手は俺の手をギュッと握って話そうとしない。

 俺はそんな藍原の手を振りほどくことなど出来るはずもなく……。


「じゃ、じゃぁ……このまま行くか」


「うん……」


 そのまま手を握って水族館に向かった。

 

「あ、歩くの……早くないか?」


「だ、大丈夫……」


 あぁ……なんで別れた後にこんなドキドキするデートをしてんだよ!!

 おかしいだろ!!

 自分自身にそう言い聞かせながら、平静を装った。


「さて、入場券買うか……あ、一回手……離すぞ?」


「あっ……う、うん」


 券売機で入場券を買い、俺たちは中に入っていく。

 休日と言うだけあって、水族館は混んでいた。


「この道順通りに進むのか」


「みたいだね」


「えっと……最初は海の魚たちか……」


 最初の水槽には海に生息しているのであろう魚が展示されていた。

 

「うーむ……なんかパッとしないな……アジとか昨日晩飯で食べたし……」


「もう、食べる事しか考えてないんだから。あっ! ほら、サメ!」


「へぇ~サメってこんな小さいのも居るんだな……」


 順路通りに進みながら、俺と藍原は水族館の中を回っていく。


「うわぁ……なんか深海の魚って不気味だな……」


「なんかグロイよね……」


「こっちはクラゲか……なんか地味だな」


「そう? 綺麗じゃない?」


「あ、そう言えばクラゲも食えるのかな?」


「もう、食べることばっかりね……お腹でも空いたの?」


「いや、そう言う訳じゃないけど」


「じゃあ、次はペンギンでも見に行こう」


「ペンギンは食え……」


「いや、食べれるわけ無いでしょ!」


 まぁそうだよな。

 俺と藍原はそんな話しをしながら、水族館を回った。

 なんとなくだが、やっぱり付き合っていたころよりもなんだか気が楽だし楽しい。

 何よりも藍原が楽しそうなのが、俺にとっては嬉しかった。


「可愛い~!」


 そう言いながら藍原が見ているのは、ペンギンだ。

 飼育員さんの後をよちよち足で歩いている。 俺が見ても可愛いのだから、女子からしたら相当可愛いんだろうな。

 藍原は可愛いを連呼しながら、スマホで写真を撮りまくっている。


「いやぁ~可愛かったなぁ~」


「そうねぇ~癒やされたわぁ~」


「そろそろ腹減らないか?」


「湊斗が減ったんでしょ?」


「まぁ……それもある」


「もう……じゃあ何か食べに行く?」


「そうだな」


「何食べたい?」


「魚以外」


「あれ? お魚って言うかと思ったのに」


「いや……なんか色んな魚見たら食べる気が失せたっていうか……」


「主に深海魚のコーナーを見たからでしょ? じゃあお昼はファミレスでハンバーグ?」


「いや……今日はドリアとかにしようかな?」


「あれ? ハンバーグ好きじゃなかった?」


「……覚えてたのか?」


「ま、まぁ……その……好きだし……」


 そんな事をそんな顔で言うなよ……。

 ドキッとするだろうが……。

 俺と藍原はそんな話しをしながら、ファミレスに向かった。

 少し並んだ後、席に着くことが出来た。

 やはり休日とあって、どこも混んでいる。


「藍原はどうするんだ?」


「……あのさ……」


「ん? なんだ?」


「いや……私は湊斗って呼ぶけど……なんで湊斗は私を由羽って呼ばないの?」


「え? そ、それは……」


 考えて見ればなんでだろう?

 てか、なんで藍原は俺を名前で呼ぶようになったんだっけ?


「もう付き合いも長いんだし、名前で呼んでくれても……」


「た、確かにそうだな……じゃ、じゃあ名前で呼ぶ努力をするよ」


「じゃあ、呼んで見てよ」


「え!? あ、じゃぁ……ゆ、由羽」


「う、うん……な、なんか恥ずかしいわね」


「お、お前が言えって言ったんだろ!!」


 はぁ……彩葉も藍h……いや由羽もなんで呼び方にこだわるんだか……。

 呼ぶこっちは結構恥ずかしいのに……。


「ねぇ……」


「ん? どうした?」


「昨日は……どんなデートだったの?」


「え……」


 昨日のデートとは彩葉との事だろう。

 やっぱり気になるのか……。

 俺は由羽に昨日のデートの事を話した。


「あぁ……じゃあ湊斗の特技が役にたったんだ」


「まぁな、一年前……藍は……由羽も驚いてたな……」


「懐かしいわね……あの時は猫のぬいぐるみを取ってくれたわよね?」


「良く覚えてるな……また何か、取って欲しかったら言えよ」


「うふふ、じゃあそのときはお願いするわ」

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