第47話

「正直、前から仲良いなとは思ってたし……まぁ有りそうな展開だよな?」


「まぁでも……僕の片思いで終わりそうだけど……」


 直晄はそう言いながら、再び肩を落とす。

 先程まで動かしていた箸も止まり、さっきからため息しか吐いてない。


「そう言えば、ラブレターの女の子にはなんて言って断るんだ?」


「そんなのいつも通り断るよ」


「慣れたもんだな……多分勇気だしてラブレター渡したんだと思うぞ」


「まぁ……そうかも知れないけど、僕は白戸さんが……」


「告白したこと無いお前には分からないだろうな……あの緊張感」


「うっ……」


 俺も昔その緊張感を体験した。

 言い切った後のあの沈黙、そして相手からの返事。

 そのすべてが何時間にも感じるほど長く感じたのを今でも覚えている。


「ま、まぁ……確かに僕は……告白する勇気も……度胸も無いよ……」


「自覚はあるんだな」


「でも! 僕だってこのままは嫌さ! 僕はもっと白戸さんと!」


「お前……ここ牛丼屋って分かってる?」


「あ………」


 店でいきなり大声を上げる直晄。

 いつものこいつならこんな事は無いのだが、よほど今回の一件が効いている様子だった。

 直晄は頬を赤く染めながら、席に座り直した。


「ま、昔の俺も今のお前と似たような感じだったよ。現状を変えたいと思っても勇気が出なくてな……このままの方が幸せなんじゃ無いかって思ってた」


「そうなんだよね……変に告白してきまづくなるより良いかなって……」


「それ、俺がお前にまったく同じことを言ったぞ」


「え? そうだったかな?」


「そん時、お前自分で何言ったか覚えてないだろ?」


「う、うん……ごめん」


 まぁ、でも無理ないか……一年くらい前の事だし。


「お前、俺にこう言ったんだよ。後悔するくらいなら言えって、言わずに後悔するよりもその方がスッキリするって……振られた時は、また友達として付き合って行く努力をすれば良い」


「あぁ……なんか何となく言った気がするけど……それって、僕が藍原さんの気持ちを知ってたから言ったわけで……今の状況とは少し違う気が……」


「ま、細かい事は良いんだよ! とりあえずさっさとデートにでも誘って告ってこい!」


「急に雑だな……」


「って言うか! 今はお前の事より俺は明日のデートの事を考えなきゃいけないんだった!!」


「すっかり忘れてたんだ」


「はぁ……どうしよ」


 俺がそう言って頭を抱えていると、直晄のスマホから音が鳴り出した。

 どうやら着信のようだ。


「ごめん、ちょっと出てくる」


「おう、ごゆっくり」


 直晄はそう言って店の外に出て行った。

 ほんの一分ほどで直晄は席に戻ってきた。

 席に戻ってきた直晄は、なんだか難しい顔をしていた。


「おい、どうしたんだ?」


「ん……いや、なんか予想外の事態になってしまって……」


「え? なんだよそれ?」


「悪いが湊斗には……ちょっと言えない」


「はぁ?」





「んで、どうしたの? 急に私を呼び出して」


 休日のお昼、私は芽生に呼び出され、近くの喫茶店に来ていた。

 なんでも、相談したい事があると言って電話してきたのだが、果たしてどうしたのだろう?


「あのさ……例えば……例えばなんだけど!」


「う、うん……」


「あの……いつも一緒に帰ってる男の子と……その……帰れ無くなって……その男の子が他の女の子と帰ってるのを見たら……どんな気持ちになる?」


「え? 殺したくなる」


「まって、由羽病んでる?」


「あ、ごめん。あの……私はそれ……経験してるから……その時はそう思ったって話しで……」


「うん、思っちゃダメだよね? 今は大丈夫だよね!?」


 今は……そうだな……私はどう思ってるんだろう……モヤモヤするって言うか……なんて言うか……。


「うーん……なんか……明日は隣に居たいなって思うかな?」


「な、なるほど……」


 今日は居られなくても、次の日は隣に居たい。

 今はそう考えると思う。


「でも、急にどうしたの? いきなりそんな質問して」


「え? あ、いや……その……実はね……」


 芽生は私に栗原君と駅であった事を話してくれた。


「それで、一緒に帰れないかもって言われて、それから胸がモヤモヤしていると……」


「そうなの……なんでかしら……」


 あぁ……なるほど……これはもしや……。


「ねぇ、それってさ……恋じゃないの?」


「え? 鯉? あのコイ目・コイ科の?」


「そっちじゃなくて。栗原君の事が好きなんじゃ無いかって話し」


「え? 鋤? 農作業や土木工事に江戸時代に使われていた?」


「うん、マニアック過ぎてわからないけど違う。だから、栗原君が好きなんじゃないの?」


 私がそう言うと芽生は少し考え、私に尋ねる。


「好きって……どんな気持ち?」


「そこから!?」


「いや、だって……私誰かを好きになったことないし……」


「それなのに、私にあんなに色々言ってたの……」


「だって、仕方ないじゃない。イイ男が居ないんだもん」


「じゃあ、栗原君なんて良いんじゃ無い? モテるし、優しいし」


「うーん……そういうのじゃ無いんだよなぁ……」


「じゃあ、どんな男子がタイプなの?」

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