第36話


 ことの始まりは白戸が言った一言だった。


「どうせ皆暇でしょ? ファミレスでも行かない?」


 いやなんでそうなるんだよ!!

 俺は心の中でそう思っていた。

 なんで、このメンバーでファミレスに誘った!?

 絶対に混ぜちゃいけないメンバーが全部混ざっちゃってるだろ!

 そんな事を俺が思っている間に話しが進んでしまった。

 なんでか知らないが、藍原と清瀬さんも白戸の案に乗っかり、直晄も顔を引きつらせながら了承した。


「……なんでこんな事に……」


「春山君、何か言った?」


「あ、いや……なんでもないよ……」


 俺は清瀬さんにそう言われ、慌ててごまかす。

 俺の斜め前の席では直晄が気まずそうな顔で俺を見ていた。


「さて、じゃあ本題に入りましょう」


「ほ、本題ってなんだよ?」


 白戸は注文を終えると、メニューを置き、話し始めた。

 そう言うと白戸は息を呑み、俺に話し始める。


「ぶっちゃけ由羽はアンタとよりを戻したいと思ってるわけだけど、アンタは清瀬さんと由羽どっちを選ぶの!」


「お前はなんでそんな直球をぶつけてこれるんだ! てか、え? あ、藍原……そ、そんな事を思ってるの?」


 なんか、俺が知らない真実までこいつさらりと言いやがったし……。

 ほら見ろよ……藍原だって顔真っ赤にして俯いちゃったじゃん。

 直晄はなんか吐きそうだし。

 清瀬さんは……笑顔だけど、目はまったく笑ってないな……。


「芽生! なんでここでいきなりそんな事を言うのよぉ~!!」


「いや、なんか色々面倒で……」


「雑! なんか色々雑!」


「ご、ごめん……俺ちょっと気分が……」


「直晄、お前大丈夫か?」


「湊斗は良くこの状況で平気な顔してられるな……」


「いや、俺も胃が痛くなってきた」


 この状況で平気な顔なんて出来る訳が無い 俺も腹部を押さえながら、直晄にそう言うと清瀬さんが話し始めた。


「私も気になるなぁ……」


「え!?」


 笑顔のまま清瀬さんもそんな事を言い始めた。

 

「そうよね! ほら、清瀬さんも言ってるんだから、さっさと言いなさいよ」


「ふざけるな! 言えるかこんな状況で!!」


「男らしくないわねぇ~、このままハッキリしないとズルズル何ヶ月もこのままよ?」


「だからってなんでこんなファミレスで言うんだよ! メッチャ人居るのに!」


 白戸め……このまま俺が答えを言うまで帰さない気か?

 でも、ここでどっちかなんて選べる訳が無い。

 いや……てか、なんで俺がどっちかを選ぶ流れになってんだ?

 てか、藍原はなんで俺とよりを?

 わからん……わからない事が多すぎる。


「はぁ……なんでアンタは鈍感なのかしらね……」


「鈍感関係ねーだろ! 今の状況お前わかってる!? お前のせいで気まずさに耐えられなくなってる奴が三人は確実に居るんだよ!」


「そんな気まずさを乗り越えた先に、ハッピーエンドが待ってるのよ」


「お前は何を言ってんだよ!」





 ファミレスで白戸が大きな爆弾を投下した後、藍原と直晄の説得でこのままでは話し合いなんか出来ないと言うことで、今日はお開きになった。

 帰る時も俺と藍原はなんだか気まずかった。 清瀬さんもなんか終始笑ってたし……少し怖かったな……。


「白戸めぇ……複雑なところぉ~」


 俺は白戸に対して怒りを覚えながら、自分の家に向かって歩いていた。

 しかし、白戸の意見もあながち間違ってはいない。

 さっさと清瀬さんに答えを出さなければならないのかもしれない。

 まぁ、藍原の件は全然知らなかったけど………てか、あいつだよな、俺を振ったの?


「はぁ……もう訳わかんねぇ……」


 俺の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 藍原が実は俺とよりを戻したいと思っていて、清瀬さんは俺の事が好きで、でも俺は藍原に振られて。

 はぁ……恋愛って……面倒だな……。

 肩をがっくりと落としながら、俺は自宅に到着し自分の部屋に到着し、ベッドに寝転がった。


「はぁ……マジで訳わかんねぇー」


 明日からどんな顔して藍原に会えば良いのかわからなかった。

 藍原もあの後俺の顔すら見なかったし……。 明日学校に行けば、明後日からゴールデンウイークだって言うのに……。


「清瀬さんと藍原か……」


 人生初のモテ期なのだが、あんまり嬉しくは無かった。

 実際にモテ期が来てみるとわかるが、モテ期なんて面倒なだけだな……。


「誰かと付き合うと……誰かが不幸になるのかな……」


 俺はそんな事を考えながら、清瀬さんと藍原の顔を思い出した。

 

「……青春の匂いがするわ……」


「うお! な、なんだよ母さん……」


「私にはもう匂わせることの出来ない、青春の匂いがするわね……」


「なんだよ、急に入ってくるなよ」


「あんた……まさか来たの?」


「な、何がだよ……」


「あの伝説の……モテ期! よ……」


「なんでも良いからとっとと出てってくれ」


「そう……やっぱり来たのね……アンタみたいな童貞クソ野郎にも……」


「おい、息子になんて暴言を」


「アンタの息子はまだ未使用じゃない」


「そっちじゃねー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る