第17話

「ねぇ? あの二人って別れたんだよね?」


「え? た、多分そうだけど……」


「だけどぉ?」


 ヤバイ……清瀬さんの笑顔が怖い。

 これは嫉妬なのだろうか?

 てか、僕だってそのことを湊斗に詳しく聞きたいんだけど……。


「私も気になるわね……」


「白戸さん!?」


 僕がそんな事を考えていると、どこから共無く、今度は白戸さんがやってきた。

 

「あれ、どうなってるの? 昨日あんなに険悪だったのに……」


「ぼ、僕に聞かれてもわからないよ! 僕だって知りたいくらいだ!」


「まぁそうよね……何かあったとしたら、昨日の放課後よね……」


「やっぱり昨日は春山君のことを待って、一緒に帰るべきだったわね……しまったわ……」


「なんでも良いけどお二人さん、ホームルーム始まるよ」





「んで、何があったんだ?」


「え? あぁ、この怪我の事か……」


「それもそうだけど……藍原とのこともだよ」


 ホームルームが終わった瞬間、俺は直晄に教室から連れ出された。

 理由はこの頭の怪我の事を詳しく聞かせろってことらしいが、なんで藍原絡みだってわかったんだ?

 あぁ、さっき一緒に出て行ったからか……。

「実は昨日の帰り道……」


 俺は直晄に昨日の帰りの出来事をざっくり説明した。


「てな訳で、頭がこんな感じになってんの」


「大丈夫なのそれ!? 病院は?」


「昨日行ったよ、別に異常は無いって言われたし、大丈夫だ」


「そっか……だから藍原さんと今日は揉めてなかったんだ……」


「いつも揉めてるみたいな言い方するなよ」


「いや、実際は喧嘩ばっかりだったじゃん、最近は」


「まぁ、そうだけど……」


「でも、もしかしてこれを機によりを戻したりはしないの?」


「え? あぁ……そういう事は考えてねぇよ……助けた事とそれは別な問題だ」


 そうだ、別によりを戻したくてあいつを助けた訳じゃない。

 もう俺と藍原は終わったんだ……。

 そう思った瞬間、俺は昨日の藍原の言葉を思い出した。


『いままで一番好きになったのが……あいつだったからよ……』


 なんでこんなにモヤモヤするのだろうか?

 別れられて清々したはずなのに……。


「そっか、なんか残念だな……また二人が仲良くなるかと思ったのに」


「あいつも俺なんかもう嫌だろ……」


「そうかなぁ? 助けてくれて嬉しかったと思うけど」


「もうよりを戻す戻さないの話しはやめようぜ。もう俺と藍原は終わったんだ。それより、お前に頼みがある」


「頼み?」


「あぁ、今日藍原がもし一人で帰ろうとしたら、一緒に帰ってやってくれないか?」


「え?」


「いや、昨日の今日であいつも不安だろうし……あいつは大丈夫だなんて言って、親の迎えも断ったらしいんだ。だから頼むよ」


 直晄なら藍原も安心だろう。

 中学から知ってる奴だし、知らない男子に頼むよりも良い。

 しかし、俺のそんな頼みに対して直晄はため息を吐きながら俺に答える。


「そんなの自分が一緒に帰ってあげれば良い話しだろ? 僕は知らない」


「いや、だってあいつだって別れたのに元彼と一緒に下校は嫌だろ?」


「はぁ……そんなに心配なら自分で送って行きなよ、藍原さんを助けたのは僕じゃ無い、湊斗だろ」


 結局直晄はそう言って、俺の頼みを聞いてはくれなかった。

 なんて薄情な奴だ、あとで筆箱に消しカスを詰めておいてやろう……。

 

「ねぇ……」


「ん?」


 昼休み、俺は飯を食いに行こうと直晄と食堂に向こうとしていた。

 すると、急に後ろから藍原が俺を呼んできた。


「なんだ? どうかしたか?」


「あのさ……こんな事頼むの……本当はダメだと思うんだけどさ……」


「なんだよ……急に塩らしくなって……」


「う、うるさいわね! ……あの……今日だけで良いから……私と帰ってくれない?」


「え?」


 思いがけない藍原からの頼みに俺は思わず聞き返してしまった。


「だ、だから……今日だけで良いから……一緒に帰ろうよ……」


「お、おう……」


 顔を赤らめながらそう言う藍原の頼みを俺は断る事が出来なかった。

 まさか藍原から俺に頼んで来るなんて……。

「い、言っておくけど! 帰り道が同じなのがアンタってだけだからね!!」


「お、おう……わ、わかってるって」


「そ、それじゃ……」


 藍原はそう言って、白戸達女友達の元に戻って行った。

 隣に居た直晄は俺の方を見てニヤニヤしていた。


「なんだよ……」


「いや、別にぃ~」


「おい! なんだよその顔! ちげーからな! ただ昨日の今日だからってだけだからな!!」


「わかってるって、そうだもんねぇ~」


「わかってねーだろ!!」


「さて、お腹も減ったし早く食堂に行こうか」


「おいコラ! その笑顔をやめろ!!」


 やっぱりあいつの筆箱には消しカスじゃなくて、ちぎったティッシュを入れておこう。 藍原から思いがけない提案があり、俺は今日も清瀬さんとは帰れないなと思いながら、昼食を食べていた。

 こういう時、スマホが無いとすぐに連絡出来ないから困るよなぁ……。

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