第47話

 「ちょっと、起きなさいよ。」


 そう言われながら体を揺さぶられ、俺は目を覚ました。


 「ん・・・なんだよ?昨日は一日中お前を探してたんだし、もうちょっと寝かせてくれよ。しかも、お前の寝言のせいでロクに寝れなかったんだぞ?」


 「私の方がまともに寝れなかったわよ!丁重に扱うべき護衛対象を、木の床に寝かせる人がいるの!?」


 昨日のジャンケンで床で寝ることになったのは、クリプッセンだった。


 「まあまあ、落ち着けよ。運が悪かっただけだって。てか、文句があるんだったらあらかじめ言ってくれよ。」


 「私、姫なんだけど・・・。」


 「ああ、言い忘れてたが、俺達はお前を姫扱いするつもりは一切ないからな。」


 「それくらい気付いてるわよ!」


 そう言ってツッコミを入れたクリプッセンと共に、俺達は宿を出た。




 外で朝食を摂りながら、俺達は今日の予定について話をした。


 「なあ、クリプッセン。今日は何をするつもりなんだ?」


 「そうねえ・・・。考えてみたら、やりたいことがもっと浮かんできてしまうわ。ところで、私に普通の人の暮らしってやつを体験させる、って計画、ちゃんと立ててるの?」


 「いや全く。」


 「望んでない答えを即答しないでよ・・・。まあいいわ。だったら、今日は私のワガママに付き合ってもらうとしようかな?」


 「まあ、いいけど。何するんだ?」


 それからクリプッセンは、今日の予定を話してきた。


 「噂で聞いたんだけど、シノアにはデッカイ遊園地があるのよ!一応今回の外遊で、来賓ってことで遊園地のアトラクションを体験させてもらったんだけど、面白そうなものが体験できてないし、姫として来てるから心の底からの感情を表に出せなかったせいで、全然楽しめなかったのよ。」


 「それは残念だったな。」


 「まったくよ!だから、あなた達と一緒に遊園地で心の底からはしゃぎたいの。ね、付き合ってくれるよね?」


 そう言うと、クリプッセンは両手で俺の右手を掴み、上目遣いでこちらを見てきた。俺は思わず目をそらして、


 「お、おう・・・。」


 とキョドりながら答えた。少し声が裏返った。


 「決まりね!じゃあ行きましょ!」


 クリプッセンはそう言って、支払いを済ませて店を出た。俺は右手を固定したまま席に座り、クリプッセンの上目遣いを脳内で反芻していた。


 「・・・ケケッ。」


 とイーギが笑ってきたが、


 「ありゃあ、誰だってそうなるからな。」


 と返すほかなかった。それほどまでに、クリプッセンの上目遣いは破壊力があった。




 クリプッセンについていってしばらくすると、遠くに大きな城、そしてどうやってできているのかよく分からない施設がたくさん並んでいるのが見えた。


 「これよ、これ!これがネシディー園よ!たくさんのアトラクションが集まっていて、ここに来ればあらゆる娯楽を得られるとまで言われているわ!」


 「あ、ああ・・・。」


 「そ、そうカ・・・。」


 俺とイーギは生返事をした。その理由は、多分イーギも一緒だろう。


 似すぎている。俺達の知ってる、あのランドに酷似している。何だあの城。デザインが丸パクリってレベルじゃねーだろ。持ってきたのか?俺達の世界から持ってきたのか?


 しかし、見えているのはあの城だけだ。これ以上に類似する要素なんてないだろう。第一、遠目だし、ぶっちゃけうろ覚えだしな、あの城の形とか。


 そう思い込むことでなんとか自我を取り戻した俺は、クリプッセンに質問をすることにした。


 「なあ、クリプッセン。あの城って何だ?」


 「あれはデリン・セラ城っていう、あるお姫様が住んでいた、っていう設定で造られた城よ。」


 「アバババババ・・・」


 設定まで一緒じゃねえか!もうダメだ!どうしようもねえ!


 「ちょっとどうしたのよ、そんなに驚いて?」


 「いやー、これからどうなるのかなぁ、って考えててな。」


 俺の処遇が。


 「それを言うなら、どうするか、でしょ。もちろん、この遊園地に入って遊ぶに決まってるわ。」


 そこで俺は最後に、悪あがきのように質問をした。


 「クリプッセン。城ってああいうのが普通なのか?」


 「うーん・・・。私、他の国がどうなってるのかはよく分からないけど、少なくとも私の国ではあんな城、ちょっと時代遅れって・・・」


 「ようし、行こう!」


 俺はクリプッセンの発言をかき消すように声を出し、ネシディー園に向かうことにした。


 心の中は、アノ動物、もとい鬼が出るか蛇が出るか、気が気でならなかった。アノ笑い声が、脳内再生されていた。

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