第46話

 「一応、もう一回だけ確認するが、お前がホントにクリプッセン姫なのか?」


 「そうよ、何か悪いの?」


 クリプッセン姫を見つけた俺達は、とりあえず人気のなさそうな場所に移り、状況を整理することにした。


 「なんか、姫っぽい恰好じゃねえからサ。」


 イーギの言う通り、姫の服装はそこいらの庶民と全く変わらなかった。


 「そりゃそうよ。豪華なドレスを着てこの街を歩けると思ってるの?」


 「まぁ、確かにそうだけどヨ。それにしては溶け込むのが上手過ぎねーカ?庶民のセンスあるゼ、お前。」


 「絶対褒めてないでしょ、それ・・・。まあ、バレないと思ってたのよ。そのはずだったのに、コイツときたら・・・!」


 そう言って、クリプッセンが俺の方を指差し、俺の方を向いてきた。


 「分かってるの!?アンタのせいで、私がどれだけドキドキハラハラさせられたと思ってんのよ!?おかげで、初めての国外のワクワクが半減したわよ!」


 「へー、そーなんだ。」


 「もっと申し訳なさそうにしなさいよ。・・・まあ、バレちゃったし、今さらか。」


 そう言って姫は大きくため息をついて下を向くと、改まった態度で俺達を向き直し、こう聞いてきた。


 「で、私に何の用?このことをネタにして、私に脅しでもかけるつもり?それとも、私の命でも狙いに来たの?」


 ・・・まあ、そう考えるのがフツーだよな。


 「ブッブー。不正解だ。実は俺達、お前を国に送り届けるように言われてんだ。」


 これを伝えた瞬間、


 「へえ、そう、なんだ・・・。」


 と言って、姫の様子がおかしくなった。思っていたよりも落ち込み具合がハンパじゃない。ていうか、なんだこの感じ。コイツ、絶対落ち込んでるだけじゃねえだろ。


 「じゃあ、今まで私を助けてくれたり、声をかけてくれたのも、全部このためだったっていうのね?」


 「・・・は?」


 「分かってたわよ、こうなることくらい。結局、姫としての私のことしか考えてないんだから。」


 「・・・。」


 「ほら、連れて行きなさいよ、ほら。どうせ、手段は問わないとかって言われてるんでしょ?」


 そう言って、姫は俺に両手を差し出してきた。


 「・・・なあ、姫。」


 「何か質問?」


 「アンタは、姫であることのどこがそんなに嫌なんだ?」


 「窮屈よ。私を囲って閉じ込めるものでしかないわ。しかも、誰もにかまってくれないもの。それが嫌なのよ。」


 「そうか。・・・おい、イーギ。」


 「ン?どうしタ?」


 「気が変わった。コイツに付き合ってやる。文句ねえよな、イーギ?」


 「アア・・・ケケッ。」


 「え、今なんて・・・?」


 「とにかく俺についてこい、クリプッセン。」




 今後の予定を変更した俺達は、クリプッセンを連れてそこいらの宿屋で部屋を借りた。俺達が泊まっていたあのホテルを使えば、変装していても姫だとバレかねないからだ。


 そうして無事に本日の宿を借りた俺達は、部屋でクリプッセンと雑談することにした。


 「お前、お忍びを始めて何日目だ?」


 「今日で3日目よ。・・・ていうかアンタ、私のことをお前呼ばわりしないでよ。」


 「お前こそ、俺のことをアンタ呼ばわりしてんだし、お互い様じゃねーか。それともアレか?姫扱いしてほしいのか?」


 「仕方ないじゃない。だって私、アンタ達の名前を知らないもん。」


 「ああ、そういや自己紹介してなかったな。俺はシイマ。そんでコイツがイーギだ。・・・てか、よくよく考えたら、名前も知らない赤の他人に、よくもまあホイホイとついてきたもんだな。」


 「確かにそうかもしれないけど、私を助けてくれたことは事実じゃない。それに・・・ッ!」


 そう言うと、急にクリプッセンが顔を背けだした。


 「それに、何だ?」


 「な、何でもないわ。・・・でも、とにかく私はこれまで通りに動いていいのよね?」


 「まあ、そうなるが・・・。ところでクリプッセン、その3日間で何やった?」


 これを聞くと、クリプッセンは意気揚々として3日間の行いを語ってきた。


 「ええと、そうね。名前だけ知ってる食べ物や飲み物を味わってみたり、夜の街を散策したり、読みたかった本を読んでみたり。とにかく、やりたかったことをやって、自由を満喫したわ。」


 「そうかそうか。それは良かったな。じゃあ、普通の人の暮らしに興味はあったりするのか?」


 「もちろんよ。皆からすると、私の暮らしがうらやましいと思ってるでしょうけど、私もうらやましがる側の立場でもあるのよ。」


 そう言っていたクリプッセンの顔は、さっきの顔から急にしんみりとした。


 「ほう。そんじゃ、俺達が普通の人の暮らしってやつを教えてやる、って言ったら、どうする?」


 「そりゃ、願ってもないチャンスだわ。ぜひお願いしたいわね。」


 「よし分かった。何をするか考えておくから、さっさと寝るとするか。」


 そう言って、俺とイーギはベッドで寝ることにした。


 「・・・ちょっと待ちなさいよ!私、床で寝ろっていうの!?」


 実はこの部屋、ベッドが2つしかないのだ。


 「あ、やべ。そーいや俺達、3人だったナ。」


 「ホントだな、イーギ。」


 「う、嘘でしょ?私がカウントされてないんだけど・・・。」


 「シイマ、どうするヨ?」


 「そうだな。ひいきするのは良くねえから、ここはジャンケンにでもするか。・・・あ、クリプッセンはジャンケンって知ってる?」


 そう言ってクリプッセンの方を向くと、


 「ジャン、ケン・・・?」


 と言って思考がフリーズしていた。これって、俺の世界とこの世界、どっちが悪いんだ?


 そこで俺達はなんとか姫にジャンケンのルールを教え、ベッドで寝る人を決めてから就寝した。

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