第44話

 俺が新しい厄介事に心を躍らせていると、


 「そんじゃ、後のことはお前に全部任せたワ。」 


 とイーギが言い出した。


 「・・・は?」


 「だから、この依頼に関しては全部お前に任せるって言ってんダヨ。」


 まさかの責任丸投げ発言に、俺は驚きを隠せなかった。


 「せっかくお前がいいように交渉したんだから、お前がやりたいようにやらなくていいのか?」


 「え?そんなこと全然考えてなかったワ。ほら、よく見るじゃン。急に舞い込んでくる依頼の相談イベント。あれ、体験してみたかったんだよナァ。」


 「イベント、って・・・。コレ、ゲームじゃねーんだから。ハタ迷惑な奴だな。」


 イーギがただやりたかっただけなのが分かったので、ここからは俺がこの依頼を取り仕切ることになった。


 「でさ、シイマ。なんか作戦とかあんノ?」


 「急に言われてもなぁ。・・・てか俺ら、その姫の顔とか、どこにいるとか知らなくね?」


 「そういや知らねーナ。」


 「じゃあ、とりあえず情報収集でもするか。」


 何も知らなさすぎた俺達は、スタートラインに立つところから始めた。


 「・・・いや、イーギ。さすがにどんな姿だとか、どこにいるかとかさ、交渉の時に聞いとけよ。」


 「そりゃ俺のやりたい交渉には関係ない情報だから、どうでもいいだロ。」


 「どうでもいいわけねーだろ、オイ・・・。」




 「クリプッセンを知らないのか?そりゃあお前、人生の半分は損してるぜ。」


 居酒屋で隣にいたおっさんに聞いてみると、そんなことを言われた。イーギは俺の隣で、


 「たまんねえな、もう一杯ダ!」


 と言ってるのでガン無視することにした。先日の戦いで顔が知られて、変に影響を及ぼさないか心配になったが、意外となんてことはなかった。まあ、そんなものか。


 「そうか?だったら教えてもらおうか、俺が人生を損してる理由ってのをさ。」


 「クリプッセンってのは、かの大国レ・ヴォスマ・ル国の姫君だ。性格は天真爛漫で、誰にも分け隔てなく接するんだ。」


 「へえ。けど、それだけじゃ人生を損するには足りねえな。」


 「そこなんだよ。実はこの姫、スタイル抜群でとってもカワイイんだよ。お前も一目見てみろ。俺みたいに心を奪われちまうぜ。もう俺なんか、姫のファンクラブのプレミアム会員に入ってんだ、ホラ。」


 「へ、へえ・・・。」


 なんか、アレな人に聞いてしまったのかな、俺。


 改めてニュートラルな情報を集めるため、他の飲み屋に行って別の人に聞いてみた。


 「あのかわいらしさと凛々しさを両立させた人物なんて、今後50年は出ないな。」


 「もうな、その子を考えるだけで・・・あぁ、心がぴょんぴょんするんだぁ~!」


 「あれほど愛おしい人はいないと思うよ。」


 ・・・これは、相当だな。




 ハシゴを終えてホテルに戻っていった俺達は、スタミナ切れでダラッとしていた。


 「なんか、アレだな、イーギ・・・。」


 「アア・・・。」


 聞き込みをして分かったことが2つある。1つは、このクリプッセンとかいう姫、巷でカルト、もといアイドル的な人気を持っていること。


 「めっちゃ、しんどかったナ・・・。」


 もう1つは、全然知らない上に興味もないことについて熱く語られると、こうも胃もたれを起こしてしまうことだ。これからは、そんなことする奴とは薄い付き合いにしよう。


 「ああ。・・・ってか、話の相手になったの、ずっと俺だったじゃねーか。お前、仕事したみてーな様子を出してんじゃねえよ。仕事疲れじゃねえ、飲みすぎだろ。」


 「おいおい、俺だって仕事したんだゼ。脳内探って姫がどんな奴か調べてたんだよ。お前にも見せてやるよ、ホラ。」


 そう言うと、イーギは指先に小さな魔力の玉を作り、それを俺のおでこに向けて投げてきた。


 それを受けた俺が見たのは、クリプッセン姫の容姿と、それを見に殺到する多くの民衆の光景だった。


 そのシーンを見ていると、俺は急に現実に引き戻された。


 「どうだ、シイマ。そいつの顔を見た感想ハ?」


 「誰でも同じ感想になるだろうよ。」


 合点がいった。クリプッセン姫の容姿は、それはそれは人気の出るものだった。




 日が明け、俺達はホテルの朝食をガツガツ喰ってから外に出た。


 「なあ、シイマ。聞いてなかったけど、今日は何をするんダ?」


 「昨日で姫がどんな奴か分かっただろ?だから今日は、姫に会って自己紹介でもしようと思ってんだ。」


 「ほーん。じゃあ、探すアテはあるってことカ?」


 後でイーギに聞いたが、昨日の俺が見たビジョンはどうやらシノアでのもので、すでに公務は終わっているらしい。つまり・・・


 「もう姫としての仕事が終わったってことなんだから、今の姫は自由だ。そしてその姫は好奇心旺盛、そしておてんば。それから、俺達と身分がかけ離れている。これだけ言えば、俺のアテが分かるよな?」


 「・・・ほう、なるほド。庶民の暮らしに興味を持っテ、それをやっちまってるってことカ。それじゃあそうだとしテ、どうやって探すんダ?」


 「お前がテレパシーを使って、それっぽいこと考えてる奴を見つけたらいいんじゃねーの?・・・って訳で、よろしく。」


 「マ、マジかヨ・・・。コレ、疲れるんだよナ。」


 そういうわけで、俺達の任務はようやくスタートラインを出発した。


 「・・・っておい。まだスタートラインじゃねーじゃねえか。」


 「どうした、シイマ?」


 「いや、なんでもねえよ。」

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