第43話
報酬を聞いて乗り気になった俺は、ラディーアに質問することにした。
「いつまでに姫を届ければいいんだ?」
「20日以内だ。早い分には構わない。」
「もし姫に帰る気がなかったら?」
「手段は任せる。ただし、姫に傷や呪いを何一つ与えることは許さん。無論、お前達もな。」
「俺達に保険みたいなやつはあるのか?」
「姫を送り届けることができれば、この任務で出した損害を補償しよう。」
こうやって質問をすればするほど、自分がどんな依頼を引き受けようとしているかの実感が湧いてくる。自然と肩に力が入る。
すると、今度はイーギが質問をしだした。
「そういヤ、姫が性格上イレギュラーなことしでかすかもしれないって言ってたナ。その姫の性格ってのを教えてくんねーカ?」
「・・・端的に表すと、おてんばと好奇心旺盛の組み合わせといったところだ。」
「ふーん、そうカ・・・。ちょっと待ってロ。」
そう言うと、イーギは少しの間うつむいてから、俺の方に歩み寄ってきた。そして俺に何も言わず、ラディーアから背を向けるように指図をしてきた。
俺がそれに従うと、イーギが俺に身を寄せて会議を始めた。
「どうする、引き受けるカ?」
「決まってんだろ。受けちまおうぜ。」
「そうこなくっちゃナ。それで相談なんだガ、俺に交渉をさせてくれねえカ?」
俺は断る理由がなかったので
「任せるわ。」
と答えた。
そしてイーギはラディーアの方に向き直し、話を持ち掛けた。
「よし、乗ったゼ、その話。」
「そうか、引き受けるのか。ならば・・・」
「ただし、2つの条件を飲んでもらおうカ。」
「・・・なんだ?」
「まず1つ目。姫の提出期限をできるだけ引き延ばすことダ。理由は簡単、俺達は姫の意思を尊重しようと思っているからダ。変に抵抗されても困るし、せっかくの好奇心を邪魔するのも無粋だしナ。」
「ほう。して、2つ目は何だ?」
「この依頼が終わるまで、俺達に全て任せロ。つまり、口出しやちょっかい出すなってことダ。そうすりゃ、お互いに都合がいいんじゃねーのカ?」
「ほう・・・。」
なんだこの無茶な提案。通るわけねーだろ。バカかよ。
そうやってイーギの発言を受け止めていると、ラディーアは目を閉じて顎に手を当てだした。
そしてしばらく時間が経ち、ラディーアが答えを言い渡した。
「いいだろう。この任務は、お前らに任せる。」
・・・え?
「姫の帰国の日程も先延ばしにしよう。希望はあるか?」
「そうだな・・・。無茶は言わねェ。10日くらい延ばせるだロ?」
「承知した。掛け合ってみよう。」
・・・は?
「交渉は終了だ。それでは武運を祈る。」
「ちょ待てよ。まだやってないことがあるゼ。ほら。」
そう言うとイーギが右手を差し出してきた。
「・・・フッ、そうだったな。」
そう言って、イーギとラディーアが握手をした。それから流れで、俺もラディーアと握手をした。俺の意識は、上の空だった。ツッコミどころが多すぎて訳わかんなかった。
「なあ、何でお前の要求が通ったんだよ?」
ラディーアとの交渉が終わってシノアに戻っている俺は、一番心に引っかかっていることを最初に質問した。
「ああ、それカ。まあ冷静になって考えてみロ。そもそもこんな名もない冒険者にあんな大仕事を任せるカ?」
「んなことするかよ。それがおかしいってことくらい、あの時からおもってるっつーの。問題は、それがどうしたってことだよ。」
「じゃ、逆の立場になって考えてみロ。こんな依頼をするとしたラ、誰に頼むヨ?」
「そりゃあ、実績があって信頼できる奴に決まってるだろ。・・・あ、あっ!」
「気づいたカ?そーゆう奴らが断ったかラ、俺達に依頼が来たってことだロ?ってことは、逆を言えばアイツは俺達に断ってほしくなかったんダヨ。」
「な、なるほど・・・。」
イーギのヤツ、あの場面でここまで思慮を巡らせてたのか。どんだけ肝が座ってるんだよ。
「あとはアイツの考えでいける、って確信したナ。アイツ、姫には好きに動いてもらいたいって思ってたシ、俺達をある程度信頼できる、とか色々考えてたらしいからナ。」
「らしい、って・・・。」
そういやコイツ、テレパシー使えるんだよな。
「オ?どうしタ?俺を崇拝したくなったカ?いいんだぜ、素直になっテ。」
そんな俺の反応を見て、イーギが有頂天になりだした。
「いや、確かにお前の交渉はすごかったけどさ。けど、テレパシーはズルくね?俺よりよっぽどチートじゃねーか。」
「チートじゃないですゥ~。俺がもともと持ってる能力ですゥ~。」
「そういうところだぞ、お前・・・。」
「それにしてもヨ、俺が一方的に交渉を進めちまったガ、お前、不満とかないのカ?」
そう聞かれたので、俺は心の内を明けた。
「ねえよ。この交渉がどう転ぼうと俺はお前に任せるつもりだったし、この冒険にいいスパイスになること間違いなしだったからな。」
イーギの交渉の時、心の中で怖気づいたことをつぶやいてみたが、結局その立場を弄んでいるだけであって、引き受けたいという欲求が心を埋めていた。今のこの状況が、ワクワクしてたまらないのだ。
「ケケッ!俺と同じこと考えてやがル。でもヨ、俺があの依頼を断ると考えなかったのカ?」
「あんなもん断るよう奴と組んだ覚えはねえよ。」
「いいねえ、その心意気。」
「誰のせいでこうなったんだか・・・。」
俺は久しぶりに、厄介事というスパイスを美味しく味わう味覚を取り戻した。
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