第25話
「・・・ん?」
目が覚めた俺が見えた光景は、最初にイーギと会ったあの場所だった。ただしあの時と違うのは、誰もいないことだ。
とりあえず起きてあぐらをかいた俺は、今までの状況を整理して、明らかに爆発に巻き込まれて死んだことを認識した。
「死んだのかぁ・・・。」
死んだらどうなるのか、って考えて眠れない夜もあった。しかし、こうなってみると、なんだか不思議な感覚だ。だって、生きてるし。
・・・え、生きてる?そんな説明、アイツはしてたか?
「・・・あぁ。」
イーギが説明を抜かしたと考えれば、合点がいく。おおよそ治癒のチートによるものなのだろう。しかしイーギのヤツ、先に言えってんだ。
しかし、そうすると俺、生き返るのか。そうすると、死ぬことに対する何かが欠けてしまいそうだな。
などと倫理的なことを考えていると、突然俺の身体が光りだした。なんか、生き返りそう。
そして俺の身体がさらに光りだした瞬間、頭上から何かに吸われて宙に浮きだした。どんどん高度と速さが上がっていくのを実感した。
浮き上がった俺は下を見て、この場所に別れを告げようとしたその時、
「・・・ん?」
ある存在がいることに気がついた。白い服に白い翼。これってもしかして・・・。
俺はそいつに声をかける間もなく、とんでもない勢いで上に吸い込まれた。
「・・・ブハァッ!」
向こうで勢いよく吸われた俺は、その勢いのまま起き上がった。すると、
「ヨォ!おかえリ!いや、お生き返りカ?」
とイーギが話しかけてきた。自分が生き返ったことを把握した俺は、
「そこにこだわる必要はないだろ。」
と言ってやった。
とりあえず俺はイーギに状況を尋ねることにした。
「俺、死んでたんだよな?」
「そうだナ、死んでたナ。てか、お前死んだんだゼ?もうちょっと大げさなリアクションとってもいいんだがナァ。・・・ひょっとしてお前、死んだことあんのカ?」
「なんちゅう質問だよ。初めてだわ初めて。驚きがオーバーフローしてんだよ。」
「そっかそっカ。デ、死んでみた感想はどうだったんだ、オ?」
「そんなフランクに聞くもんかね、ふつー。・・・いやまあ、死にたくないな、って改めて思ったな。」
「ええ、それダケ!?他にないのカ?あるダロ!ぶっちゃけちまいなヨ!ほら、カモンカモン!」
「いやお前どんだけテンション高いんだよ!ついていけねえよ!・・・てか、俺が死んでからどれぐらいの時間が経ったんだ?」
「だいたい数分くらいだナ。あの肉体の損傷だったら、本来はチートでも1週間ぐらいかかるもんだガ、治癒魔法のおかげで、えらい速さで生き返ることができたってわけヨ!ちなみに、あのクマはそこでぶっ倒れてるゼ。」
とイーギが指さした先を見てみると、確かにニトログリズリンがいた。そこにあった大きなクレーターが、爆発の威力を物語っていた。
「そうか。それはすげえな。」
そう。確かに俺は生き返ったんだ。しかし・・・、
「それでも、俺の服は直らなかったんだな。」
「そいつは残念だナ。でもまあ、ホラ。免許は無事だったみたいだナ。」
「んなもんどうでもいいんだよ。あれ、俺の寝間着だぞ?どうしてくれんだよ。」
「いやぁ、心配すんなヨ。元の下界に戻るときは、ちゃんと元通りになってるカラ。」
「俺が心配してんのは、それじゃなくてこれからの予定だよ。第一、俺は裸なんだから、そのクマの換金に行けないんだよ。」
「あっそうか、そうだナ。」
「そこでだ。不本意ではあるが、イーギ、お前がシノアのギルドでクマの換金をして、その金で服を買うんだ。つまり、おつかいをやってもらう。」
「なあんだ、もう解決案出てんじゃんかよ。じゃあ大丈夫だろ。」
「心配してんのはな、お前のファッションセンスなんだよ。いいか?悪目立ちのするような服は買うなよ。デザインの凝ったやつもだ。」
「まったく、心配すんじゃねえヨ。俺はこれでも、天界一のオシャレ番長って呼ばれてるからナ。」
「お前、本来の姿は裸だろ・・・。とりあえず、クマ狩りを再開するぞ。」
というわけで、俺達は作戦を立ててから、ニトログリズリン狩りを再開した。
捜索を再開してものの数十秒で、二匹目のグリズリーが見えた。地面をのそのそと歩いていた。おそらく食料でも探しているのだろうか、周囲をキョロキョロしていた。
俺達はそれを木の上から観察し、襲うチャンスを慎重にうかがった。というのも、標的のグリズリーがとんでもない大きさなうえに、爆発の威力がその大きさに比例すると考えているからだ。
しばらく観察をしていると、グリズリーが先ほど俺達が倒した別のグリズリーを見つけた。すると、グリズリーはその場に走り、倒れたグリズリーを確認して、
「グオオオオオオ!!」
と大きく吠えた。こいつ、あのグリズリーの親か!
それから親グリズリーは、周囲の木に八つ当たりをしだした。俺達はバレないように木を飛び移った。
飛び移りながら、俺はイーギに質問をした。
「・・・なぁ、ホントにお前の作戦、通用すんのか?」
「ま、出たとこ勝負でショ。」
「やっぱ、こーゆう時ほど気が合うな!」
そう言って俺は木から飛び降り、親グリズリーのところに向かった。
親グリズリーは俺に気づき、四足を地面につけたままプレッシャーを放ってきた。計画通り。
そして俺は背を向けずに後ずさりをしながら、イーギのいる木に親グリズリーを誘導した。すると、
「仮面・・・キーック!」
と叫びながら、イーギが木から飛び降り、首めがけて蹴りを放った。
蹴りは見事に命中し、親グリズリーはドシンと音を立てて倒れた。
そしてしばらくすると、親グリズリーの体が光りだした。そこで俺はイーギと共に親グリズリーの体を持ち上げ、
「いっせーの、せ!」
という掛け声とともに、力いっぱいに親グリズリーを真上にぶん投げた。親グリズリーは上空に飛び、さらに光を放った。そして目をつむってしまいそうになるほどに光った瞬間、キーンと音を出して、
ドカァァァァァァン!
と爆発した。範囲が子グリズリーの比ではなかったが、爆発には巻き込まれなかった。
すると親グリズリーが落下してきたので、それを受け止め、子グリズリーのそばに置いてやった。
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