悪魔とダラダラ異世界道中
灯籠
第1話
夏と思わせる日差し、丁度いい感じに配置してある雲、気分を高揚させる風、そして文字通りの青い空。そんな環境などお構いなしに、何かに追われて心にゆとりがない学生たち。
この俺、
今日は実験日。手書きレポートを書いている自分が容易に想起されるが、せめて幸せは逃すまいと、なんとかため息を我慢している。
大学生活も半年が過ぎ、この大学の性質を把握してきたが、どうも拒絶する自分のせいで、なかなか大学生活に慣れないでいる。
「やべ、実験遅れちまう!」
と俺にメッセージを送ってきたのは友人のひとりだ。ちなみにこの実験は1回でも遅刻すれば留年確定なので、心の中で別れの挨拶を済ませておく。
嫌だった1日が終わり、これからもっと嫌な1週間に悲しみを抱きつつ寮まで歩いていると、
「異世界転移、してみませんか?」
という見出しの、やけにカラフルなビラが1枚落ちていた。
そういや、異世界なんとか、というジャンルがあったな、と思い出し、それを少し鼻で笑った。しかしそのうち、どうにもそれに期待している自分がいることに気が付いた。
わかっている、わかっているが、信じている。
結局俺は自分のばかばかしい欲望に勝てず、周りに誰もいないのを確認し、それをこっそり拾い上げ、寮に持ち帰った。
そのビラには裏面に住所と名前を書く欄、そして異世界転移することへの同意にチェックをつける箇所があった。どうやら説明を読むあたり、異世界にこの肉体のまま移るらしい。
絵空事だと嘲笑する自分と過度に期待する自分に板挟みになりながらも、俺は子供の遊びに付き合う大人のような感覚でそこに書くべき事項を書き、チェックをつけた。
というのも、このビラには送るべき宛先やウェブのアドレスが一切記してないので、これに何を書いても何も起こりはしないとたかをくくっていたからだ。
しかし、そうかといえば嘘になる。興味もためにもならないことをやらされ、自分がどんどんよくわからない何かになっていくのを毎日実感している。
はっきり言うと、このままだとつまらない自分になっていくことが分かっていながら、それに対して何もできない自分に失望し、その感情がこの世界にも向かっているのだ。
その上、人付き合いにも嫌気がさしていた。そいつらが嫌いなわけではないが、とにかく疲れるのだ。他人のせいで、縛られてしまうのだ。つまり、一旦離れたいのだ、全てから。
この世界とこの自分が大嫌いだ。
その夜、それ以外は特に何もないまま夜を迎え、眠りについた。これが、普通の大学生としての、最期の1日になるとは思いもしなかった。
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