ポポポポ
λμ
プロローグ
きょう、セカイが死んだ。
夏休みを目前に控えたある日、いつもどおりのひとり寂しい学校帰り、中道五番町商店街に差し掛かったところで、少年の前に黒塗りの車が止まった。
何事なのかと戸惑っているとドアが開き、二人組の男が降りてきた。
「世界を壊す手伝いをしてみないかい?」
男のひとりがそう言った。もちろん少年は、男たちは頭がおかしいのだろうと思った。
けれど、男のひとりが続けた言葉に、少年は迷った。
「断るのは自由だ。だが、断れば、ほんの数日後に君は死者の列に並ぶか、さもなければ壊される世界のひとつになってしまう。選択する機会は今しかない。選んでくれ。いさぎよく壊されてみるのか、逆に自ら壊す方に回るのか」
内容はともかく、男の口調は狂人のそれにしてはマトモにすぎた。
少年は試すつもりで訊ねた。
「なんで俺なんですか? ただのボッチ高校生ッスよ?」
「『ただの』じゃないんだよ。我々のAIが、君は壊す才能があると判断したんだ。少なくとも、我々についてくれば、面白おかしく、長生きできる」
「面白おかしく、長生きって」
冗談にしては笑えない。しかし少年はなぜか心惹かれた。
自分に優しくない世界は壊れてくれと願っていた。そのくせ、世界は壊れても自分だけは無事でいたいという都合の良さも持ち合わせていた。
だから少年は、男たちに促されるまま車に乗った。
そしたら、世界は本当に壊れた。
ただ、壊す側に回るのは胸糞悪いだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます