ポポポポ

λμ

プロローグ

きょう、セカイが死んだ。

 夏休みを目前に控えたある日、いつもどおりのひとり寂しい学校帰り、中道五番町商店街に差し掛かったところで、少年の前に黒塗りの車が止まった。

 何事なのかと戸惑っているとドアが開き、二人組の男が降りてきた。 

「世界を壊す手伝いをしてみないかい?」

 男のひとりがそう言った。もちろん少年は、男たちは頭がおかしいのだろうと思った。

 けれど、男のひとりが続けた言葉に、少年は迷った。

「断るのは自由だ。だが、断れば、ほんの数日後に君は死者の列に並ぶか、さもなければ壊される世界のひとつになってしまう。選択する機会は今しかない。選んでくれ。いさぎよく壊されてみるのか、逆に自ら壊す方に回るのか」

 内容はともかく、男の口調は狂人のそれにしてはマトモにすぎた。

 少年は試すつもりで訊ねた。

「なんで俺なんですか? ただのボッチ高校生ッスよ?」

「『ただの』じゃないんだよ。我々のAIが、君は壊す才能があると判断したんだ。少なくとも、我々についてくれば、面白おかしく、長生きできる」

「面白おかしく、長生きって」

 冗談にしては笑えない。しかし少年はなぜか心惹かれた。

 自分に優しくない世界は壊れてくれと願っていた。そのくせ、世界は壊れても自分だけは無事でいたいという都合の良さも持ち合わせていた。

 だから少年は、男たちに促されるまま車に乗った。

 そしたら、世界は本当に壊れた。

 ただ、壊す側に回るのは胸糞悪いだけだった。

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