40 Hさんのお話②迎え火の消し方


これはHさんがまだ幼かった頃のお話。



タイトルからお察しかも知れませんが、

お盆の時に体験したことです。






親戚のA夫妻の旦那様が亡くなられ、

その初盆にお墓参りへ行きました。



さて、お盆ということで迎え火が必要でありますが…。



同じ県内に住んでいる作者でも初めて聞く、

少し珍しい方法で、

Hさんご実家は迎え火をされておりました。




まず家を出る際に、

ピンク色で花柄が描かれた和紙製の提灯に

蝋燭を入れ持っていきます。



お墓に着くと、

両傍りょうわきには支柱のように打ち込まれた竹が2本ありますので、

それらを繋ぐように、細い縄をピンと張ります。


そして、火を灯した提灯を5個、柄が墓の方に向くようにして縄へ横並びにひっ掛けるのです。



それから、お坊さんにお経を読んで頂くのですが、読経の最中に合図があり、先ほど並べた提灯の火を左右から順番に消していきます。



そうして最後、真ん中の提灯だけ火を消さずにそのまま、家に持って帰る。




これが、Hさんご実家ではごく普通の迎え火でありました。




その日もいつものとおり、提灯を持っていき、お坊さんの読経を頂き、最後真ん中にある火の灯った提灯を持ち帰ります。




例年、迎え火は家に入ったらすぐに消しているので、Hさんは火を消そうとしたのですが、なぜかお祖母様がそれを制止しました。




そして、お祖母様は

「Hちゃん、今日はしばらく火をつけておいてくれるかな。」と火の番をするように頼んだのです。



火を消すタイミングはいつもお祖母様が決めていました。



前述した通り、家に入ってすぐに消すのが大抵ですが、10分つけたままにすることもあれば、時には1時間放っておくことも。




(ああ、今日はばあちゃんのタイミングで消すんだな。)と理解したHさんは、火が消えないように見守りをすることに。




ただ、その日は異様に長い時間、火の番をさせられたのです。



火が消えそうになれば足し、また足し、を何度も繰り返し飽き飽きしたところでようやく祖母がやって来て、「ごめんね。もう消していいよ。」と、火を消すことが出来ました。



いくらなんでも長過ぎじゃないかと少し不満を抱いたHさんですが、疲れもあってか特に理由を聞くこともなくながしたそうです。





その2年後、今度は奥様が亡くなられました。




その年もお盆で迎え火をしたのですが、

何故か家に入ってすぐ、火を消していいと言われたのです。




旦那様の時はあんなにも番を任されたので、

てっきり今年も長くなるだろうと覚悟をしていたHさんは驚きました。





気になったHさんがお祖母様に

理由を訪ねると、あっけらかんとした調子でこう答えたと言います。





「だって奥さんしっかりものでしょ。

 彼女なら遅刻しないから。」





A夫妻は旦那様が大分ずぼらで

時間にルーズでありました。

反対に奥様はしっかりされていて、そんな旦那様を引っ張って、家のことをきりもりされていたそうです。




旦那様が亡くなったとき、

お祖母様はどうも、自分達がお墓参りをする時までに旦那様が

あの世から戻ってこられるようには思えず、

早く迎え火を消してしまうと、彼が道に迷ってしまう気がしてなりませんでした。



だから長時間迎え火をたいていたのです。



ですが、今年は奥様と一緒にこの世に戻られますから、しっかりものの彼女と一緒であればきっと大丈夫だろうと感じてすぐに消してもよいと判断したのでした。







生前、その人がどんな性格だったかで迎え火の消し方が変わるなんてこともある…

大変興味深いお話でありました


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