20 声優の専門学校で ②100均の鏡


この実話録の11話で登場した、

妹の友人Aさんも、903教室で怖い話をした後に、妙な体験をしたのです。





声優コースということで、声の出し方を学ぶ授業があるのですが、

その授業には、口の開き方を確認するために鏡が必要でありました。



見るのは自分の口ぐらいですから、

そんな立派なものでなくとも、

小さな物で良いのです。



妹の友達の一人、Aさんは百均ショップで購入をすることにしました。




買ったのは、手のひらサイズの大きさで、鏡面に傷がつかないよう蓋のついた折り畳み式の四角い鏡であります。






授業の場は、903教室。


Aさんは早速鏡を使おうと蓋を開けました。




「ん?」




買ったばかり、授業まで一度も使わなかった鏡。


その鏡の左下の角が、小さくも派手に割れていたのです。


丁度、小石かなにか固いものがぶつけられたぐらいの傷の入り方。


(百均の物だから、不良品に当たっちゃったのかな?)


安物とはいえ、買った物が不良品だったことに肩を落とし、その日は終えました。





小さくても傷は傷。



授業に集中が出来なくなってしまいますから、Aさんはまた百均ショップで鏡を買いました。



同じ過ちを繰り返さぬようにと、今度は店の前で袋から取り出し、不良品でないことを確認したのです。




授業当日。



Aさんの手には、不良品でないと確認した鏡が一つ。



先生からの指示で鏡面を表に出しました。



「ん?」




Aさんは思わず鏡を凝視しました。


傷1つなく滑らかだった鏡に、縦にまっすぐ1本の亀裂が入っていたのです。






まだ、嫌な予感を認めたくないAさんが三度みたび訪れたのは百均ショップ。



今度こそはと選んだ鏡を、店先でやにわに袋から出して確認をしました。



どこからどう見ても新品の鏡。



触れてみても突っかかりはなく、指は表面を不自由なくなぞります。




(うん。今度は絶対大丈夫。)




さあ、あの授業が始まります。



ただ口を鏡に映すだけなのに、どうしてこんなにも嫌な気持ちにならないといけないのでしょう。



(大丈夫だって…。ちゃんと確認したんだから。)



そして、また、鏡を開きました。




「なんで…。」




今度は横に一本、同じように細くまっすぐな傷が入っていたのでした。







実際に鏡に入った亀裂を見た妹は「ぴーっと傷が入っていた。」と表現していたので、

丁度、カッターで切りつけたような細い傷だったのではないかと思います。



一番初めに出来たひび割れは、

何かに角をぶつけるなどして出来てしまった可能性もあるでしょうけど、

2回目以降の亀裂は、鏡に直接鋭い刃物で切りつけない限り出来ないようなものであります。



店先で確認して以来、蓋をぴったりと閉じていた鏡に、そんな傷が出来るのでしょうか?



なんとも気味の悪い話であります



作者は昔、こんな噂を聞いたことがあります。

割れた鏡に姿を映すと、不吉なことが起きる。


Aさんの身に何も起きなければいいのですが…。







うろつく影、壊れたように笑い続けるKさん、不可思議な亀裂が入る鏡。



これらが起きたのが全て903教室というのも恐ろしい話。



妹達は、声優コースが使うほとんどの教室に霊が出ると噂していましたが、

元凶は903教室にあるのではないかと思えてなりません。




著名な怪談師さんも話されるほど、録音スタジオの恐怖体験は数多くあります。



騒音防止と録音がために密閉するようつくられた録音スタジオは、逃げ場を失った念が溜まりやすいのでしょうか。




903教室で、過去、何があったのか…。


妹達が卒業してしまった今、それを知る術はありません。




その学校は今でも、A県N市にある小さな駅の側にひょろりと建っています。


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