12 コンビニのバックヤード



消費税が10%に上がったとかなんだとかで

軽減税率の適用される持ち帰りと、

そうじゃないイートインでの対応が大変だと

コンビニ業界が悲鳴をあげているようですね。




私はニュースを見ながら、

今働いていなくて良かったと安心しています。



というのも、

作者は高校生から専門学校卒業まで、

同じコンビニでずっとアルバイトをしていました。



その頃に一度だけ体験したお話です。




その時は働き始めて2年は経っていたかと思います。


その頃には業務にも慣れて、

夜10時までの勤務もなんとか出来るように

なっていました。



蒸し暑いお盆の時期がやってきて

いつもは常連のサラリーマンが減り、

代わりに見慣れぬ家族の来店が増してきます。



日中には高齢の方が顔をほころばせ

どっさりアイスやお菓子、

2リットルのペットボトル飲料を

かごいっぱいに乗せてレジまでいらっしゃるのは微笑ましい光景でした。




日が沈んでくると昼間の盛況ぶりが

うって変わります。


帰省した実家でゆっくりくつろぐらしく

家族の足は遠退き、

たまに若い子達が花火を求めにくるか、

休日出勤する人がお弁当を買うかぐらいで

お客さんがぽつぽつ来る程度になるのです。




ガランとした店内を見て、

去年のお盆を思い出しました。



お盆になると、

ここのコンビニでは妙なことが度々起こるのです。



レジから見えるトイレ、

その入り口はセンサー式なのですが、

誰も通っていないというのに

何かに反応してパッと光る。


自動ドアは開いていないし

誰も来ていないというのに

入店音が店内に鳴り響く。


雨漏りしていないのに、

背中にポツッと水滴が落ちてくる。


とても不気味で怖かったのですが

一緒に働いていた人に聞いたところ、

気のせいじゃないですか、と流されて

冷静になっていました。



今年も同じことが起きるんだろうななんて

すっかりお盆の空気に慣れた心持ちで

肝が座っていたのです。


勝手に点くライトや

お客さんが来ていない入店音には動じずに

商品の整理やレジ締め、トイレ掃除を終えました。



しっかり丁寧にやってもお客さんは来ないので、

暇な時間だけが流れます。

一緒に勤務していた人とは

そこまで親しい仲ではなかったので、

その退屈さは苦痛でもありました。


では、普段出来ないことでもしようかと考えて

バックヤードの大型冷蔵庫を整理することにしたのです。



「ちょっと裏に行って整理してきます。」と

もう一人に声をかけて、

レジから出て商品棚を通ります。


一旦、外からガラスケース越しに

ペットボトル飲料や缶ビールの並びを

確認しました。


いくら暑いとはいえ、

寒い冷蔵庫内に長くいるのは苦痛ですから。



(缶ビールが結構減ってるな。

 炭酸も補充しよう。)



そう計画を簡単に立ててから、

スタッフオンリーの札が貼ってある押戸を

ぐっと押し開きました。





目の前で何が起きたのか、

一瞬のことで頭が追い付きませんでした。




開いたその扉、

体をまだ半分しかバックヤードに入れていなかったのです。


その私の目の前を、

左から右へ、

大型冷蔵庫の方へと女性が歩いて行きました。



背は私より少し高いぐらい、

長い栗色の髪は巻いているのかうねって

二の腕の半分ほど覆う長さまでありました。


両腕はだらんとおろされ、

灰色のワンピースかだぼっとしたスカートから

少し見える足が交互に動き、

そしてふっと冷蔵庫の入り口前で消えたのです。


私はその光景を意図的に見るというよりは、

まるで黒目と彼女が釣糸で繋がっているかのように、

その動きに引っ張られて動かされていくような感覚でありました。



しばらくは何があったのか分かりませんでした。

半分だけ入ってしまっていたので、

そのままの勢いでバックヤードに踏み込んでしまいましたら、

センサー式ライトがパッと反応して

辺りを明るく照らしました。



左に目を向けるとそこは壁で、

掃除道具が並んで置いてあるだけでした。





今になっても、彼女のことを思い出すことができます。



体全体は半透明でところどころ透けており、

目から見える映像は白黒だったにも関わらず、

何故か髪と服の色だけが頭に浮かぶのです。


そして、体を上下に揺らすことなく

滑るようにして動いたあの歩き方、

動きはゆっくりであるはずなのに

風に飛ばされた風船のように速いのです。

とてもじゃないですが、

人間に出来る動きではありません。






そのお盆の日以来見ることはなかったので、

彼女が何者だったのか分からずじまいでした。






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