11 証拠映像


今では持っていない人が少数派になるほど

スマートフォンをお持ちの方は多いかと

思います。


スマートフォンはどの機種にも

カメラが付いていますから

誰かと共有したいと思った

風景や人物を写真や映像に残すことができて便利です。


最近ではそのカメラのムービー機能を使って

授業を録画する人もいるのだとか。


手軽に使えるからこそ、

何かを記録したい時にスマートフォンの

カメラ機能はとても重宝しますね。




作者の妹は現在専門学校に通っております。

そこで知り合った友達Aさんの体験談です。


Aさんから直接聞いたのではなく、

妹から又聞きをしたお話になります。


正確に言いますと、

私達姉妹も巻き込まれるような形で

妙な体験をしたのですが…。





最近、

Aさんを悩ませていることがありました。



一人暮らしのAさんの部屋。

その白い壁をどこからかノックする音が。

それは軽い「トントン」というものですが、

一定のリズムでしばらくつづくので

気味の悪さもあり、なんとなく嫌だなと思っておりました。


ある日、その音がする場所が分かったAさん。


そこはベッドの横の壁、

その壁の向こうはベランダで隣の部屋なんてないのですが、

トントンとノックする音がします。



あまりにもしつこいので証拠にと

スマートフォンを取りだしてカメラのアプリを起動し、

録画モードに切り替え撮影しました。



撮っている最中、当たり前ですがノックの音がしています。


トントン…トントン…と軽い

いつも聞くノックの音。


撮ったところで正体は分かりませんが、

証拠があると少し心強いものです。





学校に登校したAさんは、

早速撮った映像を私の妹に見せました。


スマートフォンに保存されたその映像を開くと

撮った時と同じように

自分の部屋の壁と、

トントンという軽いノックの音が再生されます。



「ね、聞こえるよね?」と聞くと、

思わぬ言葉が返ってきました。




「なんか、足音聞こえない?」



妹が言うには、

トントンという軽いノックの後に

トトトトという足音が聞こえるのだとか。


まさかと思ってその場で聞き直しますが

そんな音など入っていません。

もしかしたら、何かの雑音を聞き間違えているのかなとその場はそれで終わりました。




帰宅したAさんは、妹が言った足音が

気になって仕方ありませんでした。


何せ、自分が今住んでいる部屋で起きていることです。

他人事としてすませられません。


もう一度、撮った映像を確認することにしたのです。




動画を開きますと、見慣れた部屋の壁が画面に表示されました。

そろそろノックの音が聞こえてくる、

と耳をすませます。



『ドンドン!ドンドン!』



「えっ?」


思わず驚くAさん。

トントンという軽い音だったノックが、

ドンドンという重い音に変わっています。


(嘘だ!こんな音じゃなかったのに。)



それだけではありませんでした。



『ドッドッドッドッ』



大人が床を踏みつけるように、

地響きさえ感じられるような強い足音が、

そのノックの後に入っていたのです。



(こんな音、絶対に入ってなかったのに!)



録画した時、友達と見ている時には

聞こえなかった音が入っている。

それがとても怖かったそうです。


Aさんは音が変わった動画を誰にも見せることなく、すぐに削除しました。


再生する度にノックの音が変わるという不思議なお話でした。



話は以上になるのですが、

実は冒頭でも書きましたように

私は妹から話を聞いている最中に

不気味な体験をしました。




妹が、

ノックの音に混じる足音が

どう聞こえたかを話している時でした。



「私にはトントンというノックの後に、

 トトトトっていう足音が聞こえたの。」



真剣に話す妹。


彼女が言い終わらない間に

頭のなかに男の人の姿がバッと浮かびました。



背は少し高めで、

上下灰色のジャージを着た、

年は30代くらいの若い短髪の男。


にも関わらずその顔は、

頬がこけており目の回りが暗く、

落ちくぼんでいるよう。


三白眼で目つきが鋭く、

小さな黒目でギロッと睨んできている。



一瞬でしたがそんな男性が頭の中に現れ

混乱していると、

妹がぽつりと言いました。




「こんなこと言うの変かもしれないんだけどね

 その、トトトトっていう

 小さな足音を聞いてなんでか、

 男の人じゃないかなって思ったんだ。」



動画に入っていた足音は、

最終的には重く荒々しいものになっていました。

しかし、Aさんは動画を削除してしまったため、妹はその激しい足音を聞いていないのです。


彼女が聞いたのは、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな足音のみ。


それにも関わらず、妹は、

「あ、これは男の霊が部屋にいる。」と

感じたんだそう。


普段なら、「そうなんだね。」で軽く流す

主観ですが、

ちょうど私の頭の中に

男の姿が浮かんだ瞬間に

“足音の主は男ではないか”と言われたので、

ゾッとしました。




Aさんから動画を見せてもらった妹、

その話を聞かせてもらった私、

2人揃って男の人の存在を感じたのは

ただの偶然として片づけていいものなのでしょうか。




実際のところはどうか分かりません。


しかし、その部屋と頭の中に浮かんだ男が

何か関係があるように思えてなりませんでした。





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