タカ&トシのタカが来た
二〇〇七年のある日、出版社を通しテレビ番組の出演依頼があった。もう十年も前で、忘れていていまごろ書くため反省。常々日記のように起きたことを書くのに、これだ。
それはテレビ朝日の深夜の放送で『快感マップ』という番組。
この番組は正直よく知らなかった。そのころは演芸場へ勤めていて、帰宅後、食べて飲んだらすぐ寝るパターン。テレビはそれほど見ていなかった。
Fさんというディレクターからの電話で、実際にいるアニメのキャラを取材したいという、以前も日本テレビやテレビ朝日で行ったことのあることでオッケーを出す。
ただ違うのは、番組レギュラー陣のタレントが取材をするということ。以前の番組、銭金みたいと思った。
どんな取材かをまとめると、ぼくの家にタカ&トシのタカが来るということ。そもそもテレビでのぼくの印象はハゲのほうだ。
ハゲのほうですか、と聞くとライオンのほうという。なんだそれと。このころのタカ&トシは現在のように司会ではなく、ひな壇という位置での番組へ出演していた。テレビで確認すると、ライオンの服を着ているタカを知る。
そして実際にいるアニメキャラを、卒業アルバムでも見ながら収録したいという。
その後、何度かFさんからの電話で収録日が決まった。この番組はいきなり訪問という設定らしい。だが、そこはやらせだ。なんたってワイヤレスのピンマイクをつけなければいけない。
収録日、事前に電話が来て一台のワンボックスカーが当時の町内である北脇のアパートへ着いた。車へテレビ局の表示はなく安心した。
平日ではあるが、テレビ朝日の車がとまっていたなら、田舎の住民は興味津々である。
玄関へ出迎えれば、Fさんとあいさつを交わす。彼は二十代と若く、カウボーイの帽子が印象的だった。
早速、女性からピンマイクのセッティングを胸の肌へガムテープでつけられた。このときの女性がとてもきれいだった。
ここへ十時にいるということは、東京を八時ごろ出発したのだろう。その前の準備で、朝は早かったと感じとる。
Fさんから台本のような用紙を一緒に見て指示を聞き、同時にマイクの音声確認をきれいな女性はしている。
ちなみに七人くらい、ぼくのアパートへ入りカメラセッティングなどしている。そのとき、納豆の十倍くらいの臭いが漂った。
だれかの足がとても臭い。狭い五畳のアパートなので即わかった。
探ると一番主な髭の生えたディレクターが素足だった。その人が元凶だ。この臭さは生まれて初めての臭さだ。くつを洗わず素足で一カ月以上、もしくは半年以上履かないとこの悪臭は発生しないだろう。
ほかのスタッフは気づくはずなのに、仕事をこなしている。おかしい、この鼻のつく臭いは最悪だ。主なディレクターだから黙っているのか。でも自身でもわかるだろうに。
素足ということは、部屋へ残ってしまう。そんなことを考えながら、タカはどこにいるのかとも思った。ワンボックスから出てこない。なぜだ。
スタッフがセッティングをしているなかを聞く。
「Fさん、タカさんは出てこないの?」
「タカさんは別に来ます」
という。
「別で? 仕事の関係で?」
「まあ、そんなようなものです。一時間後に迎えに行きますから、それから電話があります」
「え、静岡駅まで?」
ここから新幹線のあるJR静岡駅まで四十分は掛かる。おかしいと思ったが、そのまま会話はやめた。
たぶん車に乗っているのではないか。
そしてスタッフのセッティングは終わり、タカを迎えに行くといいみんな出て行った。ちなみに五畳一間のアパートへ七人入ったのは初めてだ。
ぼくは洗濯が途中だったので再開する。一度テラスに出て部屋に
戻るを繰り返すと、やはり悪臭はとれていない。換気扇を回してもだ。
再度、あの髭ディレクターが入る。参った、とつぶやいていた。
そのとき、もしかすると音声を拾ったのだろうか。隠しマイクをすっかり忘れていた。スイッチは切ってあるのか、そこはわからない。
そして一時間後に電話が鳴った。
『あの、そちらさんは浜崎憲孝さんでしょうか?』
「……はい」
タカからは白々しい電話だ。いかにも知らない着信をよそおう返事をした。これでも俳優の最終補欠合格者だ。
『ちびまる子ちゃんのキャラクターのはまじでしょうか?』
「はい」
『あの、わたしタカ&トシのタカのほうですがご存知かと……』
「えっ、タカ&トシって、あのタカさん?」
白々しさ満点だ。よく知らなかったくせに。
『はい、はまじさんがさくらさんと同級生の入江小学校にいるのです』
「そうなんですか、うちに近いですね」
『近いですか?』
「はい」
『いまからはまじさん宅へ行ってもよろしいでしょうか?』
「うーん、バイトが、まあいいでしょう」
となりタカを待つことに。しかし白々しかった。やらせとわかるとやりにくい。
ぼくはタカが来るのかと胸が躍った。それでお茶の用意をする。
ただコップへ氷を入れるだけだったが、タレントがこの部屋に入るので、緊張してくる。ケンタを乗せた緊張は嫌気があったが、こっちの緊張はわくわくだった。
そしてチャイムが鳴った。ぼくの心が弾む。
ドアを開けると、ハンディカメラを持ったタカそのものが立っていた。
「あっ」
ピンクのライオンマークのポロシャツに短パン、クロックスのサンダルの格好。素足ではなかったがずいぶん軽装だ。
「どうも、はまじさんですか?」
といったとき、駐車場の入り口に三人のカメラ―クルーに目が入った。それは道路を挟み、一軒家が立ち並んでいる場所だ。なぜあんなところで撮っているのか。近隣に丸わかりではないか。
なんしろ自分のアパートを知られるのがとても嫌で、ピンポンダッシュされるのはごめんだ。
「はい、タカさんじないですかー」
と、一度は目指した目の前の芸人へ声を上げた。
「はまじさんですね、会えてよかった」
というと、足元から顔へカメラを移動させる。
このやり方は、あのときの芸能人のいま、でよくあるパターンだ。
タカもカメラマンに教わったのだろう。
「じゃ、どうぞ」
といい、タカがぼくのアパートへ入った。ここはハンディカメラを回しながらだった。ちなみに例の臭いDも入った。タカも臭いのへ確実に気づくはず。
収録はゆっくりだ。狭い部屋をタカは見回す。外にいた本物のカメラマンも入った。玄関は開けたままで、部屋は二階。コードが下の車まで延びている。明らかに、なにかの撮影バレバレだった。
以前の取材は、一人のハンディディレクターだったりしたので、撮影は楽で派手さはない。日テレのさくらへの結婚祝いはクルーだったので、本日の収録に近い。ただ今回はアパートの部屋までわかってしまう。Fさんへ伝えた。
ここのまわりをモヤモヤとぼやかしてもらうことにした。いくら深夜でも近隣で見ているのもいる。
エヤコンを掛けない部屋で、タカは暑がっていたので、冷茶を与えた。そしてアルバムを見ながらの収録が始まる。
たいしたことはない。これが穂波やさくら、丸尾など伝える。するとはまじはゴリラの物まねが得意だったのですか、とタカが突然いうので、一応うなずいた。実際はアニメのさくらが勝手に描写する。それをやってくれというので、演じて最後はカメラへアップを自ら行った。
それにはタカやスタッフへ爆笑を誘った。
続いてコンニャクだ。それはぼくもやっていたので、アニメの場合の違いを話し、演じた。それも笑ってくれた。そのとき、花屋の徳ちゃんから、天井の裏に隠してあったエロビデオが、台風でびしょ濡れで見られなくなった。代わりに新しいビデオを貸してくれ、とメールが来た。
これをタカが大爆笑し、中学生みたいだなといっていた。そのメールをカメラに収めていた。ちょうどいいネタになったのだろう。
そんな収録を五十分ほどした。そしてカットとなり、すべてが終わった。
最後に、
「タカさん、サインをください」
といい、帳面へもらった。写真で見せたいが、どうサイトへアップするかがわからない。二〇〇七年七月一七日が収録日。
「写メもいいですか?」
お互いの携帯で、ツーショットをFさんに撮ってもらった。
まさかタカもぼくを撮るとは、芸人へ見せるのだろうか。すでにその写メはなくなってしまった。
そんな感じの収録だった。ぼくはバイトがあり、片づけを横目で見ながら自転車で演芸場へ急いだ。
後日、放送を見た仕事上の従業員は驚いていた。だれ一人として伝えなかったから。
その後、Fさんから電話があり、タカが選ぶ年間ベストテンへ上位で選ばれたらしい。そんな印象的なら、遊びに来てくれればお茶割りをごちそうする。だが、いまでは司会にと忙しいタカだ。とてもむりなことだろう。
ちなみにディレクターの納豆臭は残り、消えるまで数日掛かった。
それとタカへのカンペスケッチブックもスタッフは忘れた。もっと重大なことは、悪臭を残したのに無料だ。講演会やレジャー、プールなど無料は大好きだが、自身もタダだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます