サーフィン

中三の時、家族と車で国道一号バイパスを清水から富士に向かって行くと、興津川の橋を渡る。河口を見るとサーフィンをやっている。

ここでサーフィンが出来るのかと、なぜかアメリカのイメージが頭に浮かんだ。河口の少し東側の波打ち際で、少年達が波とたわむれて遊んでいる。一瞬であるが、とても楽しそうだと思った。

それから一年がたち、高一の夏休みにカニエイを誘って興津川河口へ遊びに行った。昨年の楽しそうな少年達を思い出して、河口より東側で波とたわむれて遊んだ。すごく楽しかった。カニエイは、

「いつもこんなに波があるのかな」

謎だったが、そのときは毎日あると思った。ぼくらは気象のことは全く知らず、ここの河口はいつも波があると信じていた。

ぼくらは度々自転車で五十分掛け向かった。波がない日もあり、二人はしょぼくれ、やはり気象が関係のあることを知った。

ときには台風が接近していて、大きな波の日もあった。波打ち際で遊んでるが、波のでかさに負けて体がしぶきで吹き飛ばされる。そんなときは、波遊びも危険が伴い早々に中止。海を上がり河口沖でのサーフィンを眺めていた。

ある日、カニエイはぼくを驚かせた。それは自転車でサーフボードを持って来たからだ。

「どうした、そのサーフボード?」

「兄貴が最近サーフィンを始めて、家にボードを置いていった」

カニエイの兄貴はアパートに住んでいる。興津川河口でサーフィンをやり終え、実家によってサーフボードを置いて帰ってしまったらしい。そしてカニエイが勝手に借りてきたのだ。

ぼくは兄貴の使っていいのか、と言ったらカニエイはあっさりと、

「いいだよ」

ぼくらはきょう一日が楽しい日になると喜び、早く海へ行こうと自転車を飛ばす。五十分のりだ。最初サーフボードは軽くて楽勝と思っていたら、やはり腕が疲れてきた。二人交代で輸送する。この自転車での輸送はボードが長いため、最初のころ結構ぶつけたりしていた。そのため慎重に抱えていた。

ようやく海へ着いた。いつも遊ぶ東側ではなく、サーフィンをやるところへ入った。 

 まず、持ち主のカニエイからボードにうつ伏せになり手でこいだ。見た目、四苦八苦している感じだ。次はぼくが海に入った。思うように進まないし、腕がすぐ疲れる。ぼくらはサーフィンをとても簡単に考えていた。まさかこんなにむずかしいとは。

その日は交代で練習した。だが一日ではなにも出来なかった。

何度も海に通わなければ、ボードを上手く操れないのがわかった。

手でこぐことをパドリングと言う。基本らしく、まずそれをマスターしなければならない。ぼくらはサーフィンの教本を買い読みだした。波をイメージして立つ練習も二人やった。

ぼくの買った教本はスバリ『サーフボードの魔術師になるために!』だ。

それから海に数回通ったら、パドリングは二人とも出来るようになった。

そんなとき、台風が来た。だいぶ離れた沖からベテランサーファーが大きな波を気持ちよさそうに滑っている。

ぼくらは沖へ出られるか挑戦した。だが無理だった。波の力に押し戻されてしまう。何度やっても波に押し戻される。おまえたちの出る幕ではないと、波にバカにされているようだった。

ベテランサーファーたちは波の下へボードごと潜って沖に出ていた。さすがベテランだと感心した。

その後、カニエイは一人で海にも行っていた。夏休みになり海に通っていると、他の初心者サーファーとも知り合いになる。

そして台風がやって来た。当然波は大きい。知り合った初心者サーファーも挑戦しているが、沖には出られない。カニエイはボードをぼくへ貸してくれる。

 やるぞと挑戦した。するとそのときは、たまたま波が来なかった。

 いつのまに沖へ出てしまった。波が小さいときと比べると、沖がこんなに遠いのかと恐るおそる緊張していた。

沖に出たはいいが、だんだんと東側へ流されて行くのがわかる。東側といえば少し前に波打ち際で遊んだところ。パドリングで西側へこいでも東に流されて行く。そのとき、パニックに陥った。呼吸も荒く焦ってきた。やがて大きな波も来てしまい、何度も飲まれ、自分は死ぬのかと意識をした。東側のテトラポットも目に入った。それが近づく。恐怖心に襲われて焦り、『神様、助けて』と二度思っていた。陸を目指してこいでいるため、波に何度と飲まれている。息づかいもゼエゼエし、海水を飲んでいた。足はまだ着かない状態。必至と陸へ向かいこいでいるが前に進まない。また『神様、神様』と唱え出した。

 すると大波がやって来るではないか。恐怖だったが、これに飲まれるしかない。波に飲まれているのに信じて陸へ向かいこぎ出した。自ずと洗濯機に入っていく。そこは数秒間、海面へ出られなかった。苦しい。それはもみくちゃにされている最中だった。戸川先生に投げられた数百倍はあっただろう。そのとき右足が着いた。急いで泳がないと波に引き戻される。

 ボードを放し、無我夢中で腕を回した。波に飲まれながらやっと岸に着いた。

 そのときのカッコは四つんばいで岸を上がっていたらしい。死ぬ思いでの力尽きた瞬間だった。

苦しくて呼吸が整わないのと、手足の震えがなかなか止まらなかった。ショック状態だったのだろう。そんなときカニエイは、ぼくのことを気にせず兄貴のボードのキズを調べている。

はっきり言ってこの行為は無謀である。サーフボードに乗れないのに、台風の海へ入ることが普通に考えておかしいことだ。海はとても恐ろしいと実感した。この日を境にもっと力をつけてから挑戦しようとなる。

そんなぼくの思うことなどおかまいなしのカニエイは、台風のとき沖に出たことがあり、立てなかったが腹ばいで波へ乗り、ジェットコースターのように滑って岸へ戻って来た。一枚上手なカニちゃんにびっくりした。

それから数週間たち、サーフィンを小さい波で練習していた。ボードはまだ借り物だったが、波にも乗れて立つことが出来るようになった。

四十日位掛かった。

立てたときは『やったぞ!』と、とても嬉しかった。これで第一歩が出来た。

その翌年から本格的にやりだす。横に滑れては喜び、気象も覚え、波の状況や潮を読めるまで成長した。

ぼくの十七歳から本格的に始めたサーフィンは未だに続いている。長くやっているから上手かというと下手だ。技も出来ない。カニエイは二十代でやめてしまった。サーフィンをぼくへ伝授したのにバイクへ興味が沸いていた。

サーフィンは波に乗れるまでがとても大変だけど、ルールやマナーを守り自分の技量をわかった上でのサーフィンは、とても楽しいスポーツと思う。なぜなら自分が現在でも続けられているからだ。


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