第5話「開戦ッ!」

 わーわーわー、と。

 歓声をあげるドワーフ族の兵士たち。


 彼らは帝国軍の雇われ兵と志願兵。


 魔王領奥地で勇猛果敢に戦い、最終局面の今───魔族の首を撥ね、エミリアとダークエルフの女たちを嬲りに嬲っている。


 泣いて懇願する若い少女も、暴れて抵抗する妙齢の女性もお構いなし。

 人間やエルフ達を混ざって饗宴に明け暮れる。


 ダークエルフだから、殺していいと───どんな扱いをしていいとばかりに残虐な方法で執拗に痛めつけ殺していく……。


 切り取った首やら、足やらでボーンアクセサリーを作りゲラゲラと笑う醜悪な兵士たち……。

 そこまで残虐になれるのかと───。



(あぁ……そんな光景を、今も思い出す───)


 うっすらと目を閉じるエミリア。

 瞼の裏に焼き付くのはあの日の光景……。


 ……最悪の日───。


 親しい人、愛する人々が切り刻まれる、あの瞬間を───。


「それでも……」


 胸を押さえながら、エミリアは目頭を押さえる。


 それでも、皆。

 私は。私エミリア・ルイジアナは……!


 ここまで来たよ───と。


 あと少しだよと……。


 そして、ふと意識を前方に向けると、戦車砲で無茶苦茶に吹っ飛ばされたドワーフやエルフの難民の姿があった。


「……甘んじて受けなさい。それが理不尽というものよ。……誰かに悪意を向ければ、それは必ず帰ってくるの……。だから、ね。それは、応報!! 謹んで受け止めなさい───ドワーフよ!」


 うふふふふ、と鼻歌交じりに眼前の光景を眺めると、エミリアは、戦車の上で胡坐をかくとのたまう。


 クスクスとクスクスと、少女らしからぬ格好で声を抑えて可笑しげに笑いながら、

「あはははは。驚いてる驚いてる。逃げてる逃げてるぅ。そして、死に征くわぁ♪」


 ──ドガガガガガガガガガがガガガ!!

 

 M26パーシング重戦車が搭載砲と同軸機関銃を撃ちまくりながら街道を驀進していく。


 今となっては、櫓に少数ばかりいたドワーフの戦士が一瞬で黒焦げになり、抵抗らしい抵抗は潰えた。

 そして、残るは逃げ惑う帝国軍の残党と、エルフの難民を蹴散らしているだけだ。

 

 その先にはドワーフ達の最大拠点、ドワーフ鉱山がどっしりとかまえている──。


 ズドンッッッ!!


 M26の90mm砲が咆哮し、ドワーフ達の地上の集落を吹っ飛ばしていく。


 ズドンッッッ!!

   ズドンッッッ!!


 90ミリ戦車砲の釣瓶撃ちッ!

 砲口炎の噴き戻してエミリアのマントがバサバサと揺れ、線の薄い体が露わになる。


 だが、そんな熱風すら楽しいとばかりに微笑み続けるエミリア。

 彼女にとって、仇を駆逐するときこそ、心の傷をいやす一助になるのだ。


 そして、ダークエルフを殺戮したドワーフ族に復讐できると───。

 そして、自分を執拗に犯し、入れ墨を焼き潰したグスタフへと一歩一歩と至れると───。

 そして、ドワーフ族を滅ぼせると───。


「うふ、うふふふふふふははははははッ!」


 それが、嬉しくて嬉しくてしょうがない。


 だから、撃ちなさい。

 もっともっと、撃ちなさい!


 私の愛しいアメリカ軍よ!!


 見ろ!

 聞け!

 感じろ!!


 これは、私なりの慈悲だ!

 戦車砲で、一瞬でバラバラになることの幸せを噛みしめろッ!


 お前たちの様に、私は犯したりはしない。

 生きたまま引き裂いたり、切り刻んだり、遺体を弄んだりしない!!


 楽に死ねることを感謝しろッッ!!


「あそこを撃て、向こうを撃て、ここを撃て!! ドワーフどもに死を撒き散らしてやれ!!」


 魔王領で積極的にダークエルフを切り刻み、死体を加工して笑っていたドワーフ族。


 彼らは種族的にエルフを嫌う───。

 それがさらに忌み嫌われるダークエルフならいわんや……。


 あの時の光景がフラッシュバックして今も眠れぬ夜がある。


 それを癒すのは挽き潰されるドワーフの悲鳴を聞いたときのみ。


 M26パーシング重戦車の群れがドワーフと帝国軍を蹂躙することの何と胸のすく光景か───。


「い、いたぞ!!」

「ありゃなんだぁぁ?!」


 あらぁ、お出ましかしら?


 突如、街道付近の地面がパカリと開き、武装したドワーフがバラバラと飛び出してきた。

 どうやら敵の迎撃らしい。


 それにしてもなるほど……。


「坑道を広げまくってるから、色々入り口があるのね」


 穴が大好きなドワーフさん、

「───お国にお邪魔しております。……私は魔王軍所属、元死霊術士のエミリア・ルイジアナ」


 ス、と戦車の上で恭しく戦場の挨拶。

 アナタの名は? と、問うてみる。


 すると、ドワーフの戦士たちの中から一人が進み出て、斧を眼前に翳して戦場の挨拶をする。


「俺はドワーフ戦士団の長! 鉄壁のガン」

「それだけ聞ければ結構───撃ちなさい」


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


 エミリアの合図によって戦車の同軸機関銃が火を噴き鉄壁のガンなんとやらを打ち砕く。

「げふ……。ま、まだ名乗って」


 ドサリ……。


「あははははははは! 鉄壁が聞いて呆れるわぁ♪ 7.62mm弾くらい防いでみなさいよぉ!」


「だ、団長?」

「う、嘘??」


 倒れ伏した戦士団長を見て唖然とするドワーフ達。

 数は100かそこら。


 対してエミリアはM26パーシング重戦車が1両。


 ふふふ……嘘なモノかよ。


「───さんざん私と私達ダークエルフを嬲ってくれたわね、ドワーフ族の皆さま、」

 だからお返しに来たわよ───。


「穴が好きなんでしょ? たっぷり開けてあげるわ!」


 ス───と、手を翳すとドワーフの戦士たちを指向する。


「90mm戦車砲弾と、7.62mm機銃弾───あなた達の大好きな鉄を火よ。好きなだけ食らうといい!!」




 撃てッ!!




 ズドンッッッ!!

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!


「ぎゃああああああああ!」

「あがががああああああ!!」


 たちまち数十体のの肉かいが出来上がる。

 戦車砲の直撃を食らった奴は粉々に吹き飛び跡形もない。

 

 同軸機関銃で撃たれた野郎は穴だらけになってのた打ち回る。


 それを無造作に履帯で轢断していくと、残るドワーフどもを追い詰めていく。


 こっちはM26重戦車だ。

 負ける道理はないし、真理もない。


 ならば征こう。


「お前らは地面の染みになるのよ!」


 私に突っ込んだんだ───お前たちにも突っ込んでやるぞ!!


「ひぃぃい!! ば、化け物だぁぁぁあ!」


 化け物だぁ?


「M26パーシングである!!」


 吶喊ッッチャージ




 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

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