第5話「獅子の尾を踏むということ」
帝都の前面───そして、帝都脇を流れる大河───リーベン川を守る帝国軍。
その数は概算で10万。
そして、未だ帝国各地から続々と集まりつつあった。
守るべき皇帝は既に南方へと避難していたが、帝都には平和を愛する市民が多数過ごしているのだ。
必ず守らなけらればなれない。
いつもは賑やかで、活気に沸き返っている帝都も、今は少しばかりその喧噪に陰りが見えた。
それもそのはず。
武器を取れる男達は根こそぎ動員され、さらには、少々ロートル染みた老人たちも予備役として駆り出されていた。
女性でも従軍経験者は軒並み、根こそぎだ。子供でも体格のよいものは武器を支給され、臨時編成の旅団に組み込まれている。
だから、帝都郊外に布陣している大軍勢は、概算10万! と、銘を打っていてもその中身は大半が帝都市民たちだった。
正規兵はその半分もいない。
だが、練度の低さをとやかく言う以前にこの緊張感のなさはどうなのだろうか?
無理やり武器を持たされ、お古の鎧を着ていても、顔見知りが多いものだからそこかしこで、ペッチャラ、クッチャラ、おしゃべり三昧。
まるで同窓会でもやっているようだ。
そもそも、帝都市民を動員する理由が徹底していなかった。
魔族の残党が攻めてきた───程度の情報しかなく、その程度の戦力にこの軍勢は過剰だろうと言うのがもっぱらの評判。
自分が戦うまでもなく、正規軍がいれば鎧袖一触だろうと───。
それよりも、家に残してきた家族が心配だなーとか。
今日の配食はなんだろうなー、な~んて。
つまり、だーーーーーれもが、緊張感などは、まっっっっっったく持ち合わせていなかった。
そんなものだから、帝都内もしんみりとしている。
陽気な男達が根こそぎ郊外にいるものだから、商売あがったりというものである。
とはいえ、全ての男達を狩りだしたわけでもないので、多少は喧噪もある。
子供たちや女房、年寄りたち。
他にも、特殊な技術を持つがゆえ残された職人たちや、城や役場務めの文官などの役人に、他国からの観光客などなど。
そして、こうした混乱に便乗して悪事を働く連中を取りしまる憲兵の部隊だ。
彼らがいつも居丈高に警邏しているのは、示威行動のためでもある。
ことさら威張って歩くのも職務の一環。
「おい、ちゃんと見てるぞ!」と、アピールしているのだ。
今日も今日とて、憲兵たちは胸を張って、肩で風を切りながら帝都を行く。
すると───。
なにやら、帝都の背中───
ワイワイ、ガヤガヤと住民たちが集まっている。
それに気付いた憲兵たちは、ちょっとした騒ぎに顔を見合わせる。
なにやら不穏な気配……?
ガチャガチャと鉄の靴を鳴らしながら憲兵が近づくと、住民たちが海を指さし、あーでもない、こーでもないと───。
「おい! 貴様ら、何を騒いでい───」
そこで憲兵も言葉が詰まる。
だ、だってそうだろ?
住民たちが指さす先に見えるもの───。
な、なんだありゃ……??
もう一遍いう、
「───なんだありゃ?!」
憲兵たちが目にしたもの。
それは、一言でいうなら……城だろうか?
海の上に浮かぶ───鋼鉄の城。
いや、鉄が浮かぶはずもないから、海から生えた城?
だけど、
いやいや、まさか?
「け、憲兵さん! な、なんですかあれ?」
「今朝には何もなかったんだよぉ!」
「あれって皇帝陛下の御業? それとも神々が降臨なすったので!?」
憲兵に気付いた住民が、わいのわいのと集まってくる。
だが、聞かれたとて憲兵に分かるはずもない。
というか、あの城──────。
「お、おい……俺の目の錯覚でなければ、あれ動いてないか?」
「いや、……見えてる。見えてるぞ。……こ、ここここ、こっちにくるッ!」
よく見れば、かなりの数の城が海上にあり、まっすぐに帝都に向かって近づきつつあるようだ。
正体は不明。
不明だが……!!
「おい! 今すぐ警報だ! 鐘を鳴ら──」
ドォォォオォォオオオオオオオオン!!!
突如、
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