帝国の賢者は愚者なりや
第1話「滅びを孕んだ川下り」
リリムダ壊滅から数日後…………。
それからの数日間、エミリアとアメリカ軍は大河を下り南進しつつ、川沿いの街を何個も滅ぼした。
そのうちのいくかの街は、既に臨戦態勢を整えていたがアメリカ海軍の前には鎧袖一触。
ただ、その様子から既に帝国はエミリア達の情報を掴んでいるという事なのだろう。
帝都に向かうほど、帝国軍の数が増えていく。
だが、危機感は全くない。
今も、河川の広い場所で待ち伏せをしていた敵水軍を殲滅したところだった。
既にエミリアの部隊は、装甲艦バージニア級が5隻になっていた。
アメリカ軍とはいえ、たかがLv0。
呼びだすことに何の苦もない。
もともとは死霊術の変質した米軍術だ。
現状なら、魔力が尽きることは絶対にありえない。
かつてのエミリアは、もっと大量の死霊を使役し、アンデッドマスターの名を欲しいままにしていたこともある魔族最強の戦士だ。
不死者の軍勢を率いていた頃に比べれば、こんなのは魔力消費でもなんでもない。
ついでに言えば滅ぼした街から、適当に補給品を得ているし、倒した敵の数は何千と……。
お陰で、Lvも急上昇している。
『
船体の上でノンビリと海戦が終わるのを見ていたエミリア。
既に帝国軍の河川戦闘艦は、全て沈むか炎上し、まともに動ける船は一隻もない。
かなりの大群で一斉に攻撃してきたが、手漕ぎ船で装甲艦に戦いを挑むとは───いやはや。
かすり傷一つ付けられることなく装甲艦は、敵船を壊滅させた。
50隻余りいた河川戦闘艦は、海の───もとい川の藻屑となり果てる。
「───
例を言って受け取ったのは、アメリカ軍の戦闘糧食ハードタック、そしてビーフジャーキー、コーンスープ、飲み物はコーヒーだ。
この黒い液体の焦げ臭さに最初は辟易したが、中々どうして癖になる。
砂糖をたっぷりと入れれば二杯、三杯といくらでも飲めるようになってしまった。
木のトレイに乗せられたそれは川の流れにユラユラと揺れ動いていたが、装甲艦はドッシリと浮いており中々安定性がいい。
カップの傍に置いてある角砂糖を一つコーヒーにいれ、スプーンで掻きまわす。
シャリシャリと砂糖が溶けていく感触を楽しみながら、もう一つの角砂糖を手に取るとそれをカリカリと齧るエミリア。
うんうん。
なかなか。
どうして。どうして。
もう一個。
ポリポリ、カリカリ。
この砂糖──────甘さッ!
魔族領では甘味など望むべくもなかった。
精々が、獣脂か果実か
そして、稀に入ってくる高価な高価なハチミツ程度───。
だけど、それがどうか!
この砂糖は、甘さと甘さと甘さと甘さしかない!
まさに甘さの塊だ。
こんな甘いものが存在するとは知らなかった───。
幸せそうな顔で砂糖を齧るエミリアの下では、海戦に敗れた帝国軍が大量に浮いており、装甲艦のスクリューで無残に轢断されていく。
その他にも、ダイナマイトで水中爆破され、死体の振りをしている者を余すところなく殺していく。
誰も容赦しない───。
エミリアは戦いの度に、常に命じている───「滅ぼせ」と。
だって、そうでしょ?
あなた達が始めたんだから。
これは生存競争。
種と種を賭けた命の戦い。
あなた達は魔族を滅ぼそうとした。でも、まだ
ならば、反撃されて当然───。
滅びが嫌なら、抗って見せなさい。
私の慈悲を期待するな。
魔族は滅ぼされたんだから、人類もその応報を受けるべきだ。
なぜなら、人類は私たちに家族が居ようと、子供だろうと、何であろうと殺戮のかぎりを尽くした。
ならば、自分たちが同じ目に合う事を覚悟しなければならない。
殺す気で来たんだから、殺されても仕方ない───。
違うかしら?
クピクピ……。
砂糖をひとしきり食べ、口に中が甘ったるくなってきたらコーヒーの出番だ。
川の風を受けながら飲むコーヒーは格別だ。
小さな笑みを浮かべるエミリア。
例えその周囲が、燃え盛る帝国水軍の壊滅していく中であってもだ。
むしろ、その光景をうっとりと楽しむエミリア。
固い硬いハードタックも口に含んでいれば唾液で少しずつ柔らかくなるし、この麦の風味もまたいいものだ。
一個を食べきるのに時間がかかるので、エミリアは行儀が悪いかなと、思いつつもコーンスープに残りにハードタックを放り込む。
こうしておけば、温かいコーンスープの水分を吸って柔らかくなるのだ。
もちろんコーヒーに浸してもいい。
パッキン、ゴリゴリゴリ……。
充分柔らかくしたつもりでも唾液だけではなかなか。
うんうん……。
でも、美味しい───。
塩気が欲しくなれば、ビーフジャーキーを齧る。
これも固いけど、うまい───。
なんでも、エミリアの知らない香辛料が入っているんだとか。
肉の臭みが全くないばかりか、食欲がわくという、不思議な香辛料。
樽一杯貰えればコーヒーとかスープに入れて飲んでみたいものだ。
……さて、スープを実食。
浮かしているハードタックを避けながら匙で掬って一啜り。
ズズズズ……。
音を立てて飲むと、ほんのりとした甘みが口に優しい。
プチプチとした触感はコーンというやつだ。
あ、そういえば───勇者パーティにいたころ、音を立ててスープをのんだら偉く睨まれたな……。
シュウジは全然気にしていなかったけど、ロベルトとかサティラとか……。
くそ、あの顔を思い出したら飯がまずくなってきた。
エミリアは一気にスープを啜り、柔らかくなったハードタックを飲み下すとコーヒーで口をサッパリさせた。
あとはゴロンと転がって空を眺めながら、ジャーキーを齧る。
空が流れる様を見て、自身が確実に南下していることに満足する。
だってそうでしょ?
もう少し───……。
もう少しで、お前に牙が届く───。
賢者ロベルト───!!
魔族を殺し、私の愛しい死霊たちを奪った
震えて待っているがいい!!
帝都ごと焼き尽くしてやるッ!
ガリッ!!
誓いとともにエミリアはジャーキーを齧り切る…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます