第9話「復讐への道のり」
「起きろッ───!」
エミリアは、気絶している隊長をさらに殴って無理やり覚醒させる。
ぶん殴ってから数秒と経っていない。
「ぐぇぇええ……。ひ、ひぃ!!」
意識が覚醒した隊長は、目の前に裸体を晒したボロボロのダークエルフが立っていることに恐怖した。
散々、犯したあげく、ボロボロになるまで甚振った、魔族の英雄───死霊術士の少女がそこにいることに。
美しく、儚げで可憐な少女。
彼女は素っ裸だが、それを注視しているどころではない。
「よ、よよよよ、よせ! お、おおおお、俺は何もしていないッ、何も!!」
もちろん嘘だ。
魔族を散々切り刻み、エミリアにも散々ねちっこく犯して、性を注ぎ、必要のない執拗な暴行を加えた。
それこそ、何度も何度も───。
「黙れぇぇぇえ!」
ズバァ! と剣を振るわれたことに恐怖する。
だが、生きているので、恐る恐る目を開けると、ポトリと何かが落ちる───……。
見覚えのある、なにか。
ひぃ!
「───み、耳がぁぁぁああ!」
突然側頭部に激痛を感じた隊長だが、それ以上叫ぶことも許されなかった。
ピタリと冷たい刀身が、もう一方の耳の上に宛がわれているのだ。
「聞かれたことだけに答えろ……」
「は、はい」
コクコクコクと壊れた人形のように首を振る隊長。
例え、何を聞かれても取りあえず話すことにし、ヤバイ案件は嘘を言えばいいと───ぎゃああああああああ?!
更に耳を切り落とされる激痛に、全身から脂汗が噴き出した。
「……今さら、嘘を聞く気はない───
そ、そんな!
「知らない場合も嘘と同義だ──頑張って思い出して、洗いざらい情報を吐くんだなッ」
そんなぁぁぁぁああ!!
「では、聞くぞ──────まずは、勇者たちの居場所を教えてもらおうか……」
そう、
エミリアを嬲り、死霊術を奪い、魔族と家族とダークエルフ達を殺した勇者たちの居場所を!!
「し、知らな───ぎゃぁぁああああああああ!!」
エミリアに容赦はない。
情けも許容もない。
だからやる。
いくらでもやってやる。
なんたって、人間だ。
同胞を笑って殺しやがった人間だ。
そして、人間の身体は嫌になるくらい丈夫な時がある。
───そうだろ?
こんなふうに、切り離しても無事な部位もある!!
「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」
耳がそうだし、
鼻や目、唇に歯。そして四肢と指と爪ぇ!
もちろん、放置すれば死んでしまうだろうが、知った事か!!
吐けッ。
吐けッッ!!
アイツらの居場所と、お前らの急所を教えろぉぉぉおお!!!
ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
※ ※
カラーーーン。
エミリアは真っ赤に染まった剣を放り捨てた。
周囲には指やら耳やら……。
かなり時間がかかったが、聞きたいことは聞きだせた。
その全てが真実かは知らないし、今は知りようがない。
だが問題ないだろう。
幾つかの、信憑性の高い話には当たりがついた。
それを元に、徐々に近づいていけばいい。
帝国の賢者ロベルト!
森エルフの神官長サティラ!
ドワーフの騎士グスタフ!
裏切りもので、薄汚いルギア!!
ハイエルフで私の義妹のルギア!!
両親とダークエルフ達の仇のルギア!!
そして、勇者シュウジ──────!!!
首を洗って待っていろッ。
必ず殺してやる!
皆と同じ目をみせて殺してやる!
お前たちのような人間は、ただ死ね!!
後悔、反省、謝罪もいらない───!!
死ね!
死ね!!
ただ、ただ死ね!!
そして、私が殺してやるッッ!!
「───うぉぉぉぉおおおおおおおおお!」
魔族終焉の地でエミリアは慟哭する!
四人と帝国と人類に復讐せんとして!
そして、待っていろ!!
「……私の勇者よ──────!!」
愛しているよ!!
そうだ、愛している!
こんな目にあっても愛している!
「愛しているから、必ず殺してやる!!」
魅了の力のためか、シュウジに対する愛は確かにある……。
あるが、それを塗りつぶせるほどの殺意があった。
愛ゆえの殺意。
奪われた故の殺意。
きっと、きっとだ。
───きっと多分。
勇者とルギアが結婚するという話がなければ、最後までエミリアは彼を信じていた気がする。
どれほど愚かであろうと───。
それが魅了された者の末路。
それほどに、勇者のかけた洗脳は強力なのだ。
だが構わない。
愛した男を、愛する男を、愛のために殺そう───。
そして、帝国を滅ぼし、人類を生物の頂点──その座から引きずり落としてやるのだ。
エミリアの復讐は今から始まる。
今から始める───。
そう、今からな!!
「ぐぐぐぐ……。だ、ダスゲテグデ……。全部喋っただろ? な、なぁ」
…………ふふふふ。
そうだね、まずはコイツが手始めだ。
血だらけのまま、裸体を真っ赤に染めてエミリアは隊長の前に立つ。
「ほ、ほら……! ま、まだ俺の助けがいるだろ?! か、金も払おう───馬も持っていけ! なぁ?!」
なあ!?
なぁ?!
ユラリと、幽鬼の様に立ちふさがるエミリア。
薄い胸。小さなお尻。
灰色の髪と赤い目の褐色肌の少女。
隈の消えない眠たげな表情。
だが人類とは違った、美しいダークエルフの女死霊術士───……。
いや、今は違う。
もう……死霊術はない───。
あるのは背中の刺青が変質したアンデッドマスター改め、アメリカ軍マスター。
『米軍術士』のエミリアだ!!
ゆら~りと、一歩。
「よ、よせよ……。や、やめろ! やめろぉぉおー!」
剣を拾おうとするエミリアに、不穏な空気を感じた隊長が叫び懇願する。
「頼む! 頼む!!」
魔族を殺しておきながら、凌辱しつくしたエミリアに命乞いする。
「お願いだ!! 俺には家族がいる!! 老いた両親と、幼い娘が!!」
そうだ。
家族がいる。
誰にだっている───。
私にもいた!!
そう、
「───私にも家族がいた!!!」
それを殺したのは、
「──お前らだろうがぁぁぁぁああああ!」
積み上げられた同胞の死体と、
血の溢れる
子供の頭と、皆の屍とぉぉおおおおおお!
「───家族がいるから見逃せ?!」
だったら、魔族全員を見逃したのか?!
「家族がいたら、命乞いを聞いたのか!?」
聞いてないんだったら───。
「───そんなことは知るかぁぁあああ!」
私の家族は殺された!!
私の目の前で殺された!!
殺された家族の前で犯され、
嬲られ、
愛しいアンデッドを奪われた!!
同胞たちは皆殺しにされたぁぁぁああ!!
───こんな風になぁぁああああ!!
ルギアに首を折られた、両親の姿がフラッシュバックし、エミリアは激高する。
───ガシィ!!
そして、哀れに命乞いをする隊長の首掴むと、ダークエルフの膂力をもって─────ボキぃぃぃいい!!
「ぶぴょ……!」
「これが家族を奪われた者の痛みだ!!!」
───思い知れぇぇぇぇえええ!!!
ブクブクと血の泡を吹き出し、力なくしゃがみ込む様に息絶えた隊長。
「はぁ、はぁ、はぁ…………!」
エミリアはその前で荒い息をつき、倒れ込む。
失血のため、しかもその上で激しい動きをしたものだから、体が急速に冷えていた。
「まだだ……。まだ死ねない───」
そうだ。
アイツらを全員殺して、同じ目にあわせてやるまでは死ねない───。
帝国全部の死体を積み上げ、山を作らないと死ねない……!
だが、エミリアは自分が長くないことも知っている。アビスゲートに食わせた魂と、変質した死霊術に与えた魂。
きっと余命はもう、いくらも残っていないだろう───。
長命種たるエルフ族。
だが、肝心の魂が欠ければ同じようにに生きれるはずもない。
明日か……。
今か……。
それとも、一年、二年──────百年か。
あ──────?
「ふ、ふふふふふふ……」
うふふふふふふふふふふふふふ。
「あははははははははははははははは!」
なんだ、簡単じゃない。
いつ死ぬか分からないなら、
「……今までと同じ、じゃない───」
エミリアの周囲には集合したアメリカ軍がいる。
あーーーーーそうだ、そうだ。
彼らがいる。
愛しいアンデッドとは真逆の存在だが、頼もしく、強くて、陽気で、愛しいアメリカ軍が───。
「愛しい、アメリカ軍よ───……私とともに逝こう」
『『『『『
ババババッ!
右手を顔の横に掲げる奇妙な仕草。
だが、統制された動きは軍隊のそれで、一種の美しさがある。
それを倒れ込んだまま、敬礼を受けるエミリア。
そして、殺しも殺したり……。
帝国軍の一個大隊を、エミリアとアメリカ軍だけで、殺したのだ。
当然、術のLvが上がっていることだろう。
その甲斐あってか、アメリカ軍との繋がりが深くなり、アンデッドを使役していた時の様に彼らの感情や知識がエミリアに流れ込んでくる。
「─────ふふふふふふふふふふふ……」
ふははははははははははははははははははははははははははは!!
「あははははははははははははははは!!」
まずは──────ロベルト!!
……お前だッッ!!
「首を洗って待っていろぉぉぁああああ!」
アメリカ軍によって抱き起されるエミリア。
死んだ帝国軍の隊長からマントだけを剥ぎ取り、体に纏う。
黒き、血塗られたマントを───。
漆黒の闇を纏うように…………。
エミリアは征く。
アメリカ軍とともに。
彼らから、簡単な治療ではあるが、アメリカ軍から鎮痛剤と止血処置を受け、ボロボロの身体で馬に跨る───。
───さぁ行こう。
魔族にとっては、失われた大地───。
人間たちにとっては安住の地。
そして、勇者たちが住む国へ───……最強国家の『帝国』へと。
カッポ、カッポカッポ……。
エミリアはダークエルフとしては、恐らく何百年ぶりに北の大地を出る一人だろう。
もちろん奴隷や商人を除いてだが……。
もっとも、彼らとて今は生きてはいまい──────。
だって、
エミリアは最後の魔族なのだから……。
寄り添うアメリカ軍が、スゥ───と消えていく。
ひとり、また一人と。
馬に揺られながらエミリアの意識は失われ、馬の本来の主が向かっていた場所に向かうのみ。
良く訓練された馬は、馬上の人影に気遣いゆっくりゆっくりと──────。
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